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モノより思い出ではなく、モノ=思い出に 「コミュニケーション」が高めるモノの価値

東洋経済オンライン2014年3月12日(水)
 モノがあふれている社会で、売り手はいかにしてモノを売るか。そして、モノに囲まれている私たち買い手が、モノを買う理由とは何なのか。マザーハウス副社長の山崎大祐が、これからの時代の「モノの買い方、売り方」を考えていく。

■「モノ>思い出」⇒「モノ<思い出」に?

モノより思い出。

ある車のCMで使われたキャッチコピーです。

モノにあふれた時代のモノが売れなくなってきている現実を的確にとらえた言葉といえます。第1回の連載でも紹介した「モノ消費からコト消費へ」なども、同じ背景から生まれた言葉です。この言葉だけとらえれば、「モノ>思い出」だったものが、「モノ<思い出」に変わってきているといえます。はたしてモノの価値は、思い出の価値を下回るものになってしまったのでしょうか?

そもそも、モノと思い出の関係は、大小の関係性で語られるべきものではありません。多くの場合、思い出にはモノが必要ですし、モノを大事に思うことでモノ自身にも思い出が宿るはずです。思い出とモノは対立関係ではなく、補完関係のはずなのです。

そして、この補完関係をつくるためにいちばん必要なのは、「コミュニケーション」です。しかし、この「コミュニケーション」を、モノが担うことを期待されている方は少ないでしょう。

今回は、モノを通じて作り出されるコミュニケーション、そしてそのコミュニケーションが作り出す「モノ=思い出」という関係性について見ていきたいと考えています。

■引き出物の半分以上がカタログギフトという現実

モノが「コミュニケーション」を通じて思い出を作り出し、そして高める媒介となることは、私たちマザーハウスも強く意識していて、「コミュニケーション」を作り出すことに焦点を当てた商品もあります。

結婚式というのは人生に一度の晴れ舞台。そんな舞台で、ゲストの方に持って帰ってもらう唯一のモノが引き出物です。現在、結婚式の引き出物の中でいちばん選ばれているモノは、カタログギフトだということは皆さんご存じでしょうか?

その理由は掲載商品が多いこと、また幅広い年齢層をカバーしていることがあります。もちろん、それ自体悪いことではありません。モノにあふれた時代だからこそ、使わないモノを贈るよりも、実際に使ってもらうモノを選んでもらいたいという新郎新婦の気持ちの表れともいえます。ギフトカタログはその点では、「モノがあふれた時代のモノの買い方、売り方」の典型例なのです。

しかし、モノを贈るというのは、本来、自分の価値観を贈ることと同じはずです。先ほど挙げたような「選択肢が多いから」とか、「皆が選びやすいから」という理由だけで、カタログギフトが引き出物として決まってしまうのは、モノづくりをしている立場からすると、少し悲しくもあります。本来であれば、結婚式という人生の大事な1日だからこそ、贈るモノに思いを込めていただきたいですし、新郎新婦のおふたりにも自分の価値観を堂々と表現してほしい。モノを通して社会への価値を提供したいと思っているモノづくりの会社が感じている正直な気持ちです。

そこで、カタログギフトの利便性を生かしつつ、結婚式という思い出が強まるような「コミュニケーション」をリアルに行える仕組みを作れないかと考えた商品が、マザーハウスの「コミュニケーションギフトカタログ」です。

■コミュニケーションがモノへの思いを強くする

ここで大事なのは、このカタログは、私たちと新郎新婦、私たちと参列されるゲストの方々というコミュニケーションではなく、新郎新婦とゲストの方々の間にコミュニケーションを作るということです。ここでは私たちのギフトカタログは、その関係性を作るための触媒のような役割になります。

もちろん、結婚式という特別な場で使っていただくには、この連載でもキーワードで出てきている、ストーリー性や、モノ自体のデザイン性やクオリティが大事であることは大前提です。ただ、モノづくりのストーリーを押し付けるのではなく、それは裏に置いておいて、新郎新婦のお二人とゲストの方々がつながるお手伝いをするということです。

この「コミュニケーションギフトカタログ」では、新郎新婦からお預かりした写真やメッセージをギフトカタログの最初のページに入れることができたり、注文用のハガキ以外に、ゲストが結婚式の感想などをおふたりに送ることができる切手付きのハガキがついています。

このギフトカタログで、新郎新婦のおふたりは「自分たちのオリジナルメッセージ」を贈ることができますし、受け取ったゲストの方々も、おふたりに感謝の気持ちなどを贈ることで、式の後も思い出をさらに共有することができます。

ここでは、「コミュニケーション」を直接やり取りしてもらうことにこだわっているのです。それが、メール上などでなく、リアルに触れるモノで起こることで、モノと思い出が「コミュニケーション」を通じてリンクするのだと考えているからです。

そして、その後に注文を通じて届く私たちのプロダクトが、思い出をさらに強めてくれるきっかけになってくれるのではないかと、期待もしているのです。

実際に使っていただいた新郎新婦のおふたりからは、「式が終わってから、皆さんが楽しんでいただけたのかどうか気にしていたので、あらためて文字で目にすることができてよかった」「手書きのイラストなどが届いて、結婚式の思い出を再度、思い返すきっかけとなった」などの声をいただいています。

■モノを通じたコミュニケーションは人生に影響を与える

もうひとつ、「コミュニケーション」にフォーカスしたプロダクトをご紹介させてください。「マザーハウス×カタリバ ペンケース」というものです。このプロダクトは2013年夏に私たちが販売した商品ですが、モノを通じて「コミュニケーション」を作るという点で同じく新しい仕組みが入っているものです。


実際のペンケース。大人が使いやすく、という思いが込められている
このプロダクトのスタート地点は、NPO法人カタリバが東日本大震災被災地で運営している「コラボ・スクール」の中学生・高校生が、マザーハウス本店を訪問したことから始まります。半日の滞在の中で、10人ほどの中学生たちが、3〜4人のチームに分かれてペンケースのデザインをして発表しました。そして、その発表したデザインをフェイスブック投票にかけて、最終的にひとつの案に絞り込み、全店で発売しました。

ただ、普通に販売するのではなく、商品一つひとつに切手付きハガキを同封しました。そこには、子どもたちの学ぶコラボ・スクールの住所が記載されていて、お買い上げいただいたお客様がメッセージを書くと、直接、そのハガキが子どもたちに届く仕組みとなっています。

この商品も「コミュニケーション」をデザインすることを意識して作られています。最終的にフェイスブック投票で選ばれたペンケースをデザインしてくれた黒澤くん(当時中学3年生)は、描いてくれたデザイン画のレベルが高かったのですが、彼自身は人生の中でそのように言われたことはあまりなかったそうです。

一連のデザインプロセスと、お客様からメッセージを直接、受け取ったことによって、デザイナーという可能性も感じたと聞いています。プロセスを含めたコミュニケーションが、彼の新しい可能性を引き出したのです。それだけではなく、ペンケースを買ってくださったお客様からは、「被災地で頑張っている子どもたちがデザインしたペンケースを、仕事などで使うことで、自分も頑張ろうという気持ちになれる」など、ポジティブなメッセージをたくさんいただいています。

コミュニケーションを通じて、思い出とモノ、そしてその先にある人生そのものを高め合う仕組みを作る。モノより思い出、ではなく、モノ=思い出になるような仕組みも作れると思いませんか?

■モノの可能性をもっと信じてほしい

私はモノの可能性はもっとあると信じています。もっとモノは皆の人生に影響を与えられると思っていますし、モノが新たなつながりを生むことができると思っています。

そのためには、モノをただ提供するのではなく、モノを通じて「コミュニケーション」をどう作り出していくか、その仕掛けが必要です。モノを通じて、私たちとお客様、もしくはお客様同士のコミュニケーションが増え、そのコミュニケーションを通じてポジティブな影響が生まれることで、その間をつなぐモノの価値はさらに上がるのです。