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ピザとビールの夕食会が経営にもたらす効用とは

食事のコミュニケーション 出口治明
 仕事とお酒について、ですか。私の場合、平日ほぼ毎日が会食です。飲みニケーション、大歓迎であります。

 人間は動物です。動物にとって、食事とは最優先事項です。いい仕事をするためにも、よく食べ、よく眠る必要がある。さらに人間の体の7割は水でできています。ご飯を食べる時には水分も取る。それは、水でもいい。お茶でもいい。ついでに言えば、お酒でもいいのです。私は、仕事相手や仕事仲間と一緒に大いに食べたり飲んだりすればいい、と思っています。特にお酒はいいですね。

 というのも、人間、アルコールが入ると、私を含めほとんどの人が軽薄になるからです。

 人間性がもろ出しになる。世の中には立派な人も悪い人も、実はあんまりいなくって、人間みんな「ちょぼちょぼ」なんだ、ってことが分かる。そうなると、腹を割って付き合える。同じ釜の飯を食い、同じ酒を飲む、というのはそんな効用があるんですね。

 日本生命保険でサラリーマンをしていた頃は、接待華やかな時代でした。こちらが接待する場合もあれば、接待される場合もあります。お店選びは、接待する相手のニーズを事前に聞くことにしていました。素直に聞いた方が、ハズレがありません。私が接待される時も、ニーズを聞いてもらった方が楽だったですし。

 ただ、仕事内容が、日本生命保険時代のBtoBからライフネット生命保険になってBtoCに変わったために、現在では、日常的に接待が仕事になるというシーンはほぼなくなりました。優しい株主の方がごちそうをしてくださることもありますが、それでも年に一度あるかないかです。今でも夜のお誘いがある時は、予定が空けられる限り、うかがうことにしていますが。

 ベンチャー経営者というのは、本当に時間がないので、今はお昼ご飯を食べる暇もない時がしばしばです。午後3時頃におなかがすいて、秘書に頼んでパンを買ってきてもらってしのぐことも珍しくありません。

■夜は毎日講演会。そしてその後はピザとビール

 そんな私は、いま夜に何を食べているのか、と言いますと、主に、ピザにビール、です。

 なぜ、ピザとビールか、と申しますと、夜、講演をするケースがとっても多いからです。
 私は、ライフネット生命保険に興味を持っていただいて、呼んでいただけるならどこへでも行って話をいたします、と公言しております。するとけっこういろいろなところからお呼びがかかります。ほぼ毎日のように夜は講演が入ってしまうのですね。

 ほんとうに様々なところからお呼びがかかるのですが、聴衆に若い人が多い講演はやっぱり面白いですね。というのも、若い人たちは、明確に聞きたいことがあるからです。だから、私の講演が終わった後に、必ずたくさんの質問が投げかけられます。

「日本の将来はどうなるんでしょう?」
「組織を率いるリーダーシップとは?」
「いまどんなことを勉強すればいいんでしょう?」
「企業を存続させる秘訣って何ですか?」

 若い人たちからのこうした素朴でストレートな質問に、経験に基づきながら持論を展開する。この瞬間が実に楽しいんですね。

 こうした講演のあと、学生さんやNGOの方々や若手ビジネスパーソンの勉強会といったお相手ですと、たいがいその講演会場がそのまま打ち上げの場に早変わりします。そんなとき、たいがい振る舞われるのがピザとビール、なんですね。

 会費ひとり2000円くらいで、ピザとビールと、それから講演の質疑応答の続きの会話がつまみになります。講演では、話しきれなかったこと。講演の質疑応答では質問しきれなかったこと。紙コップのビール片手に、若い人たちと意見を交換するのは、私自身にとってきわめて刺激的です。講演するのは私のほうですが、このビールとピザ込みの意見交換で得られるものはとっても大きい。だからこそ、どんな講演にでも応じますよ、とお答えしている、といっても過言ではありません。

 というわけで、夜は講演で埋まっている私の夕食は、必然的にピザとビールが中心となるのです。

 一方、講演会場で、聴衆の皆さんを含めて一番の若手が60歳をとうに超えた私だったりするときは、わりと話すのが難しい。こうした「目上」の方たち相手の講演のときは、たいがい「テーマは何でもいいです」「とにかく楽しく話してください」ときわめてアバウトな依頼が多いのです。こうなると、いったい何を話せばいいのか、ちょっと困ってしまいます。

 ちなみに、今、私が一番注力している講演があります。現在、東京と京都で、私自身のボランティアで行っている5000年の歴史を語る会です。これは、もともと私の母校である京都大学で特別講義を行ったときにお話した内容でした。この講義の存在を知った人から、学生以外にもその講義と同じ話をしてほしいということで「出口さんから歴史の話を聞く会」が生まれました。

 東京は少し駆け足なのですが、京都では一世紀に3時間かけて話をしています。紀元前3000年から初めて、今ようやく、13世紀まで来ました。この講演会のシリーズでも、毎回の打ち上げはピザとビールと若い方々との談話が夕食になるのは言うまでもありません。

 もちろん、ピザとビール以外のときもあります。講演会のあとに食事に誘われたら、できるだけ出席するようにしています。たとえば、この取材を受けた夜も講演があるのですが、出席者は50名程度、そのうち30名がその後の飲み会にも出席すると聞いています。

 その30人と私とが一緒にお会いする、ということは、おそらく一生において最初で最後でしょう。個別にお会いすることはあっても、その30人と私、という組み合わせは二度とありません。まさに一期一会です。そんな一期一会の関係で、お互いに好きな話をして、刺激を受け合う。素晴らしいことだと思いませんか。

 飲み会を通じて、自分の外側からの刺激を受ける。仕事にとってはもちろん、人生にとっても常に必要な経験だと私は考えます。

■社員とは、お昼に仕事以外の話をする会、を

 では、社員とはどうやって食事でコミュニケーションを?。以上、申し上げたように、毎晩毎晩、ほとんど外部で講演をして、そのまま講演先の方々と飲みに行ってしまうケースが多いため、実は会社の人たちと食事をする機会はあんまりないんですね。岩瀬とも、毎日のように顔を合わせていますが、一緒に食事をすることはほとんどありません。

 そこで、秘書に頑張ってもらって、「お昼に仕事以外の話をする会」を設定してもらって、社員たちと昼ご飯を食べながら、いっさい仕事の話をしない、ばかばかしい話、趣味の話だけをする、という機会を設けてもらっています。

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面白い人やなぁ(笑)。
それぞれ、ぞれぞれ。