さんぽ

環境関連、武術、その他、気になったことをつれづれに。

「俺は会社に貢献している」は思い過ごしだった!?50代社員に対する若手・年下上司&会社のホンネ

ダイヤモンド・オンライン2013年10月16日(水)
連載にあたって――50代社員の活用を考えよう

■会社の中の50代社員の評価は概して低い。

「給与の割に働いていないよね」

「上のご機嫌取ってるだけで、何も自分で決めないよね」

 こんな話はどこの会社の若手社員からも聞かれる。昨今のメディアの特集などでも「会社の濡れ落ち葉」にならない方法とか、「お荷物社員は50代」といった形で取り上げられることが増えた。

 長年、40代・50代のミドルシニアのキャリア研修やキャリアカウンセリングの現場を見てきた筆者からすると、それは随分失礼な話だと感じることが多い反面、なぜ、そのように見えてしまうのだろうか、ということも気になっていた。

 30年・40年近く働き、様々な現場を経験し、企業貢献もし、能力も蓄積してきたはずの50代社員が、10歳・20歳年下の若手から、あるいは人事や経営者層からみて、その働きぶりに頼もしさや「いいね!」という感じが見て取れないとしたら、それは一体何のせいなのだろうか?

 もしかしたら、「俺は会社に貢献している」と思い込んでいること自体が本人の思い過ごしで、過去の立場や評価を意識の片隅に残したまま、現在の環境下で期待される態度や行動の自覚がない50代社員も多いのではないだろうか?

 50代社員に対する少々の悪評を、積極的に解釈するなら、それは、まだまだ期待したいことはいっぱいあるのに、現実の50代社員はそのように見えない、「期待ギャップ」を表しているともいえる。また、消極的に解釈するなら、性能の落ちた中古車のような50代社員を一体、この先どのように扱えばよいかというちょっと「深刻な人事課題」ともいえる。

 本連載では、このような50代社員に対し、いささか厳しめの評価があることを踏まえ、当の50代社員の自己改良・改善をどのように進めるかはもとより、彼らを活かす立場にある管理者や経営者・人事担当はどのように対処すればよいか、また、一緒に仕事をする若手層はどんな係わり方があるのか、そんな処方箋を「50代アラウンド定年社員の取扱説明書」、略して「“アラ・定”社員のトリセツ」として述べてみたいと思う。

 1つだけお断りしておきたいことがある。50代はキャリアの最終分岐点であり、多くの方は役職を離脱する。そして、引き続き要職につき会社の成長や発展を支える方と、これまでの経験を活かして現場で頑張る人たちに分かれていく。研修でお会いする50代の方々の立場は様々だが、定年を意識するキャリアの下降期にありながらも、みな自分の持ち場を懸命に支え頑張っている人たちだ。この人たちを揶揄したり、失礼なことを申し上げるわけにはいかない。

 筆者は50代社員に多少の問題があっても、それを是正してうまく組織活用する人材開発にこだわりをもっている。よくある、50代ダメ社員を滑稽に笑い飛ばすことほど無神経で、無益なものはない。問題の裏には何か理由が、原因があり、これが個人の努力ですむのか、少し組織の力を借りた方がいいのか、それとも人事制度も手直しした方がいいのか、そんな視点で本稿を進めたい。連載の途中、読者の皆様のご意見もいただきたいと思う。

■人事担当者よりも自己評価が高い50代社員

 第1回目の本稿は、50代社員を取り巻く周囲の方々のホンネから入りたい。まずは筆者の会社で2012年8月に人事担当者と50代社員を対象に、「50代シニアの活用に関する調査」を行った。そこからは以下のような、興味深い結果が浮かび上がった。

(1)シニア社員のモチベーションの問題を聞いたところ、現状のレベルを「定年まで何とか維持できる」は37%であったが 、「定年後も維持できる」となるとさらに23%に低下した。なんとかやる気を支えようしながらもこの先はさらに低下することが読み取れる。

(2)組織適応力として「コミュニケーション」・「人関関係の維持」が上手くできているかの評価については、シニア社員はそれぞれ59%・54%と、過半を超える方が「できている」と回答しているが、一方、人事担当者では42%・36%とシビアな評価になっている。

 この結果から、50代社員が思っているほど、人事担当者は彼らを評価していないことがわかる。50代社員自身は、意外と自己完結的な狭い範囲でうまくいっていると感じているが、もっと社内上下・横断的な働きを期待する人事担当者からすると、彼らはコミュニケーションや人間関係のパイプや築き方も狭い、と映っているのだろう。

(3)「専門性の自信」・「現職以外での力の発揮の可能性」について、「自信がある」と回答したシニア社員はそれぞれ54%・38%であった一方で、人事担当者は55%・20%と、専門性の評価はほぼ一致したものの、現職を離れた力の発揮は大きくかい離した。本人は現職以外でも過去の経験を活かせば何とかなるだろうとみているが、人事担当者は、50代社員のなかで複合的な専門性を持っている方は少なく、また経験はあっても現場の即戦力レベルからみると相当陳腐化したものになっており、他の仕事に就いたときの活用度には不安を感じているようだ。

 この結果をみると、50代社員は見かけ上、元気にやっていても、その内心は(1)の定年までのモチベーション維持は低下傾向にあり、また、(2)の組織適応能力の点では会社での自己通用性も過大評価傾向が出ている。さらに(3)の専門性の保持活用の点では、現職延長での専門性活用ならばなんとかなるが、他の仕事となると危うくなる、ことが読み取れる。

 この辺りが顕著なのが、50代の役職定年・再雇用前後社員だ。50代社員の実際の働き方の評価として、全体的にモチベーションが低下する中で、狭い範囲での適応組織に陥り、現職の範囲での成果期待に止まってしまう傾向があり、これが、周囲からの働きぶりの評価として見た場合、様々なマイナス評価の一因を形成していると思われる。

 気を付けたいのはこのことを当の50代社員自身は、日々の仕事を一生懸命やっているつもりであり、このことをさして問題とも思っていないということだ。この思い違いを誰が気づかせるのか。

50代社員に対する
若手・年下上司、人事・経営者のホンネ

 ここで、50代社員に対して関係者からよく言われるホンネと本人意識を対比するため、下記の図表1で少し紹介しておこう。

 この表で見るように、50代社員が考える仕事ぶりや能力・専門性の発揮が、若手層からみるとかなり期待しているものとはギャップがあることがうかがえる。50代ベテラン社員の考える自立した仕事人の姿と、若手層が期待する周囲への気遣いや現場の課題解決のアドバイスなどにはその基本スタンスの違いなどがあるように感じる。若手の声として、現場でよく聞く、具体的な例をあげておこう。

■若手社員からよく聞くホンネ

 *どこで何をしてるかよくわからない。行先や要件、居場所をわかるようにしてほしい。
 *給与が高いんだから、最低、自分の人件費分の責任は果たしてほしい。組織のお荷物にならないで。
 *商談で同行する前にあれこれ資料の追加や確認や質問しないでほしい。
 *客先での昔話、自分の成功話を長々話すのはやめてほしい。
 *若手に教えるときは精神論は短く、方法や要領をわかりやすく教えてほしい。
 *相談しやすい、もっと話しかけやすい雰囲気を醸してほしい。
 *女子社員を「ちゃん」付けで呼ぶのはやめてほしい。
 *あとはまかせた、で自分だけ早帰りはありえない。

 となかなか厳しい意見が多い。

 また、経営者・上司層から見た場合、与えた仕事を細かな指示もなく、ベテランの知恵と経験で手堅くこなしていることの評価の反面、仕事の進め方の進歩のなさ、視野の狭さ、50代の大人としてのコミュニケーション態度などが問題視されやすい。能力・専門性の面では、経験頼りになり新分野への挑戦を億劫がることや、古いリーダーシップ感覚など経験の陳腐化をどう学習で補っていくか、などが評価課題とされている。こちらも現場で年下の管理者・人事担当からよく聞く声を上げると次のような感じだ。

■組織リーダー社員・人事担当者からよく聞くホンネ

 *リーダーからフォロワーへの立場と意識の切り替えをやってほしい。
 *自己判断できることでも、上司への報告・連絡・相談をキチンとしてほしい。
 *忠誠より貢献。会社に依存せず、自分の給与分以上の働きはしてほしい。
 *管理職任期がまだ残っているのに、退職OBのような仕事ぶりにならないでほしい。
 *本来自分がやるべき仕事なのに、人に振らないでほしい。
 *自慢話は程々に、新しい知識や技術などは若手や部下からもきちんと学んでほしい。
 *部下育成・技能・人脈の伝承をきちんとやってほしい。
 *組織の中で完成した大人の仕事人として存在感を示してほしい

 こちらは役割期待の反面、そのマインドや態度のギャップを指摘する声が多い。

50代社員を“ガラパゴス人材”にするな!

 周囲からのホンネはこのあたりだが、当の50代社員は「なんで俺のことをわかってくれないんだろう」と胸中、複雑なものがある。結果的に50代社員と周囲との間に奇妙な“きしみ”が生まれることになる。

 このきしみは、50代社員にとっては、長い勤務経験や過去の貢献感覚に根差す意識が、新しい組織・仕事環境の変化に自分を変化させる際のきしみであり、また周囲にとっては環境や役割に順応しきれない50代社員に違和感を覚えることが、このきしみとなっているのだろう。

 50代社員の心の内をたどると、会社の期待の中核に位置していた30代・40代の立場が終わり、役職定年・再雇用を迎える50代の新しい役割変化の中で、これまでのような積極的な期待とは違う目標、モチベーション、仕事能力の発揮が求められる。それは、本人にとって望ましくもうれしくもない現実の訪れだ。周囲がみて、なんだか怠けているように見える諸現象は、組織内の役割変化に適応を続ける上で、「少しはオレのこともわかってくれよ」のきしみの声ともとれる。

 組織の秩序だった仕事ネットワークの中で、我々の仕事は相互に連携・補完し合い、個人の仕事は組織の仕事として連結・完成されていく。ここで、少々のキャリアショックに直面した50代社員を、“ガラパゴス人材”にしてはいけない。たえず自己の役割を組織貢献行動に結び付ける仕事ネットワークからこぼしてはならない。

 今回は1回目として、連載の趣旨、シニア活用調査結果から見た50代社員の評価ギャップ、現場関係者の50代社員に対するホンネなどをみてきた。大きな課題は最後に述べた50代社員を自社の仕事ネットワークに上手に組み入れるために、どんな対応を講じるべきかその処方箋を考えることが、本連載の目的である。

 次回は当の50代社員を取り巻く環境変化と、その変化に対する50代社員の様々な対応の仕方を探っていきたい。