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僕が仕事の相手とお酒を飲まない理由

食事のコミュニケーション 岩瀬大輔

 僕は食べることが大好きです。飲むことも大好きです。けれども、仕事の相手と夜、会食をするのは好きではありません。夜の会食は、基本的にいらない、というのが個人的な考えです。

 じゃあ、なぜ僕が「仕事相手と夜の会食はいらない」と断言するのか。まず、仕事の相手は、プロフェッショナルな関係です。だったら、お酒を飲もうが飲まなかろうが、仕事に必要なことは語り尽くせるし、議論もできるし、分かり合えるはずです。

 お酒を飲まないと、お互いなかなか本音が出てこない? それはおかしい。本音が出てこないのはお酒を飲んでないからではなくて、向き合って腹を割って話をしていないからです。何も酒の力を借りる必要はありません。

 もちろん、お酒の席で、会議室では出てこないようなプライベートが垣間見えることはあります。お互いの趣味がわかったり、好きな映画が同じだったり、実は学校の先輩後輩だったり等々……。飲みニケーションですね、いわゆる。その結果、お互いの距離がぐんと縮まって、仕事にもいい影響が出る。こんな経験を実際にした方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。

 だったら、やはり仕事先と飲む、があったほうがいろいろいいこと、あるんじゃないか?
 ところが、実はいまお酒の席を設けなくても、たった1回の会食よりもはるかに相手と距離が縮まる武器が登場しました。

■飲みニケーションの大半は、フェイスブックで事足りる

 フェイスブックです。
 お互い、フェイスブック上で「友だち」になれば、相手の趣味や、家族の話などは、たいがい見えてきます。意外な趣味をもっていたり、文章を通して「考え方」も伝わってきます。

 1回お酒を飲むよりも、はるかに多くの側面をお互いに見せあうのがフェイスブックという「場所」です。かつて、飲みニケーションが果たしていた役割の大半は、すでにフェイスブックに移行しているのです。飲みニケーションは、親しくなる可能性がある一方で、酔っぱらっているだけに、逆に険悪な関係に陥ってしまうおそれだってあります。

 しらふでフェイスブックを通じてコミュニケーションをとっていれば、その心配もありません。なにより、フェイスブックはタダです(笑)。

 では、社内コミュニケーションに「飲み会」を活用するのはどうでしょうか?
 個人的には、こちらもあまり好きではありません。もちろん、社員とは仲良くしたい。率直にものを言い合える関係でありたい。けれども、僕自身は経営者です。社員の給与や人事を決める立場にあります。それだけに、社員たちとは、仲良くしつつも、一定の緊張関係は崩したくない。悪い意味で、情に流されたりするようであってはいけない。

 だから、僕は例外を除くと、社員と飲みに行く機会は基本的に設けません。そう決めておくと、こちらにもいい意味で責任が生まれてきます。

 社員とのコミュニケーションを就業時間中にちゃんととらなければいけない、ということです。飲みニケーションで親睦を図ろう、と考えていると、逆に普段のコミュニケーションがおろそかになってしまうかもしれません。

 最初から、社員とは飲まない、と決めておけば、経営のために日頃から社員一人一人にちゃんと目配りをしなければ、という意識が強く生まれます。飲みニケーションに逃げず、就業時間中に、ちゃんとコミュニケーションをとればいい。それが僕の持論です。

■社員同士の飲み会は不平と不満と愚痴で終わる

 では、経営者ではなく、社員同士の飲み会はどうでしょうか?こちらは、経営者と従業員の関係でないのならば、チームワークを高めるのにうってつけじゃないか。……と思うかもしれません。 でも、僕自身は、同じ会社の中での社員同士の飲み会というのも、あまりおすすめいたしません。

 これは社長の出口とも同意見なのですが、会社の人間同士で飲みにいくと、必ず話題が内向きになってしまうからです。飲み会のテーマは、仕事への愚痴と、会社への不満ばかりになります。その愚痴や不平不満の吐露で、何かいいことがあるか、というと、ありません。まったく生産的ではないのです。

 それに、仕事相手の飲み会のところでも話しましたが、飲みニケーションはプラスに働くとは限りません。日頃から不満のある同士の場合、酔ったあげくに喧嘩になったりすることもあり得ます。社員同士の関係は、「友だち」ではありません。「プロフェッショナル」です。酔いにまかせて、ということは、あってはならないのです。

 それに、酒好き、飯好きとしても、貴重な夜の時間を、愚痴と会社への不満ですごしてほしくないな、と思います。もちろん長い時間を一緒に過ごしていますから、家族のような関係になったりします。より仲良くなるためにお酒でも、と思うのもわかります。それで得られる関係もあるでしょう。でも、失うものもある。しらふの状態で、仲良くなってほしい。

 経営者として、個人として、僕はそう思っています。

 では、タッグを組んでいる出口と僕とはどうでしょうか?。実はまるで一緒に飲んでいません。10月23日はライフネット生命保険の創業日で、毎年この日は一緒に食事をしていたのですが、ある年、お互いにうっかり予定を入れるのを忘れてから、その習慣もなくなりました。

そもそも、もはや出口と食事をしながら打ち解けて話したい、と思わないんですね。

 え、仲が悪いのかって?

 違います。逆です。毎日のように、朝から晩まで顔をあわせて話をしまくっている間柄なのです。誰よりもコミュニケーションをとっている仲なのです。つまり、わざわざ酒を飲む必要が、ないんですね。

 さて、ここまで僕は、仕事相手や社員同士で「夜の」食事をお酒と一緒にとるのはいかがなものか、と述べてまいりました。けれども以上のお話は、就業時間が終わった「夜に」「お酒を交えて」の食事でのコミュニケーション=飲みニケーションの効用に疑問を呈しただけです。

 昼食や朝食の時間を活用して、仕事相手や社員とコミュニケーションをとるのは、大いに結構だと思います。たとえば、僕自身、社員とランチを一緒にとることはしょっちゅうあります。おいしい弁当を注文して、会議室で、みんなで食べながらあれこれ話すのも大好きです。

■パワーブレックファーストを飲み会の代わりに

 また、朝食=パワーブレックファーストも活用の価値がありますね。そもそも、仕事相手と朝食をとりながらミーティングを行うパワーブレックファーストの習慣は欧米企業では昔からあったもので、日本でも外資系企業がずいぶん前から実施していたりします。

 朝7時から8時くらいに、仕事相手や、社員や、勉強友だちや、経営者仲間と、朝食を囲みながらミーティングする。パワーブレックファーストというと、高級ホテルの高い朝食をとりながらというイメージがありますが、スターバックスのようなカフェで十分です。お金をかける必要はありません。

 パワーブレックファーストのいいところは3点に集約できます。第1に「早起きをする」気合いがあれば、必ず時間を捻出できること。朝の30分から1時間を確保するのは、気合いの問題です。気合いをいれれば、出張でも入っていない限り、必ず確保できます。

 第2に、パワーブレックファーストのあとに、すぐにパワー全開で仕事を始められること。朝9時始業だからと9時に会社についてパソコンの電源を入れるのと、朝7時半から集まって食事をしながら話し合い、1時間ほど脳みその暖気運転が済んでいる状態とでは、その後の仕事の効率がまったく違います。実際にやってみてください。本当に違いますから。

 第3に、パワーブレックファーストは「終わりの時間」が決まっていること。もし、夜、お酒を飲みながらの会食だと、だらだらと3時間くらい過ごしてしまいがちです。そのあとカラオケにいったり、クラブにいったり、となると、あっという間に午前様。翌日の仕事にも確実に響きます。 

 が、朝なら30分から45分で、その時間を相手と分かち合いながら、語り合いたいことは語り合えます。で、終わりの時間が決まっている。9時には会社が始まるから、15分前にはおしまいにしましょう、という具合に。これがいいんですね。ムダもありません。

■仕事の関係を超えて付き合いたい人こそが、飲み友だち

 さて、仕事を交えての夜の飲み会はいかがなものか、と語ってきましたが、冒頭申し上げたように、僕自身は食べるのも飲むのも大好きです。もちろん独りじゃなくて、いろいろな人と一緒におしゃべりしながら。では夜、誰と食事をしたいかというと、それは、仕事の関係を超えてでも付き合いたい人と、ですね。

 放送作家で食通としても知られる小山薫堂さんは『一食入魂』とおっしゃっていますが、限りある食事の機会は、大切な方と過ごしたいと思っています。ですから、個人的に誰かと食事に行くときは、店選びに全力を尽くします。
 東京において、お店は無限にあります。しかもお店選びにはさまざまなパラメーターがあります。Aという人にとっては最上のお店が、Bという人には不満の残る店になったりしてしまう。それだけに、どんなお店を選ぶのか、ということに、一緒に訪れる相手をどれだけ自分が理解しているか、ということがそのまま出てしまいます。

 また、店を選ぶことで自分という人間を知ってもらうことにもつながります。場所は? 価格帯は? 雰囲気は? 内装は?食器は? 音楽は? サービスは? そして客層は? 味の傾向もパラメーターの1つではありますが、お店選びにおいて比重はあまり高くありません。むしろ、お店がまとっている全体の「空気」が、一緒に食事をする相手と合うかどうかが大きい、ですね。

 僕が個人的に好きなタイプのお店は、おいしいけれどあまり高くなく、そしてあまり知られていない店です。エリアもわりあいと渋いところから選びます。神楽坂や西麻布でも少し奥まったあたり。根津の近辺も好きですね。このあたり、実は出口とずいぶん趣味が異なります。

 出口が好きなのは、日本橋人形町あたり。そして出口のお好みの店には必ず50代くらいのきれいな女将さんがいます(笑)。

 というわけで、僕と出口がプライベートで、お店で鉢合わせをする心配はまずありません。