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そもそも式「説得力が2倍違う」説明の仕方【2】

2012年7月31日(火)(プレジデントオンライン)

■「へぇ……面白いなぁ」と思ったら
菅元首相が所信表明演説で述べた「強い経済、強い財政、強い社会保障」。
シンプルな言葉なので、優秀な新聞記者は普通の人はわかるだろうと思い込んだのか、そのまま使われていることが多い。
しかし私は当初、これは絶対にわからないだろうなと思いました。

菅首相が目指しているのは、環境やエネルギー、街づくりなど日本が抱えるさまざまな課題への取り組みを通じて新たな需要や雇用を生み出すこと。これが強い経済であり、経済がよくなって会社が儲かれば税金もたくさん納めてくれるので国のお金が豊かになる。これが強い財政。国のお金が豊かになれば、弱い人々に振り向けるお金も増える。これが強い社会保障

このように経済、財政、社会保障の3つがつながっていることをきちんと説明しておかなければ意味が通じないと思います。

それから、私は自分で取材に行ったり関連する書物を読んで「へぇ」と思ったことは、多くの視聴者も「へぇ」と思ってくれるのではないかと期待していたりします。

難しい話をそのまま難しく話しても面白くない。
ちょっとした驚き、お得な情報、トリビア的な雑学、何でもいいから「へぇ」と思わせなければ、関心を持ってもらえません。
そして関心を持ってもらえなければ、いくら丁寧に説明しても理解は進まない。

口蹄疫というのは口と蹄に同じような水ぶくれの症状が出ることから名付けられた病名です。
英語で「foot and mouth disease」。
要するに、子供がかかる手足口病と基本的には同じ病気なのです。
これくらいまで説明すると、聞いている人は多分「へぇ」と思う。

口蹄疫」の回では、語句の説明までしなくてもいいのでは……という番組スタッフもいましたが、あえて前段部分までは説明しました。

回りくどくなっても、キーワードは何らかの形でわかりやすい日本語に変えるし、「へぇ」と思わせるような一工夫を加える。そこにはこだわっています。

もう一点、わかりやすく伝えるために、重要視しているのはビジュアルの工夫です。
私たちが「パターン」と呼んでいる文字のフリップ。あるいは図版や模型。
耳だけで情報を聞いても絶対に印象には残らない。
耳からの情報に加えて、目に見えるものがあると、より鮮明に理解が進みます。

それがハッキリしていたのが「週刊こどもニュース」で、主役は私の解説ではなくもっぱら模型。
模型を理解してもらうために、そのサポートとして私が説明していたようなものです。

テレビは原稿一つですべてを表現する媒体ではありません。
わかりやすい言葉に言い換えるのと同じくらいの比重で、どういう表を作るか、どういう模型を作るかということにこだわっています。
作りが甘ければ、ギリギリの段階でも手直しする。

■キーワードはあえて重複させる
蹄疫問題では、感染拡大を防ぐために、感染源から半径10キロが「移動制限区域」に、さらに広い半径20キロが「搬出制限区域」に設定されました。
番組では宮崎県の地図の上に丸い二重のリングの模型を載せて説明しようとしましたが、そのリングに10と20の数字が書かれていなかった。
二重に制限区域があるという説明ならそれで事足りるけれど、このときのキーワードは「10キロ」「20キロ」という制限距離。
数字が書かれていない模型ではそれがまったく伝わらない。

こちらが強調したいことは、必ず目で見ても強調されるようなものにしておかなければいけません。

最近のビジネスマンはプレゼンテーションのときに上手にパワーポイントで資料を作りますが、プレゼンで強調したいキーワードや数字が資料から抜けていることがときどきあります。

話が重複するから書かなくてもいいと思っている人もいるようですが、逆です。
強調するためには重複させなければいけない。
我々の業界でも「それはキャスターが話をするからいいんじゃないの」と言われることがありますが、そうではない。
よりわかりやすくするためには、キャスターが話す内容とビジュアルを重複させて、耳から入る情報と見る情報、相乗効果を持たせるべきです。

以上のようなことを心掛けながら番組は進行して、最後にもう一度私がコメントして締めます。
そのコメント原稿もあらかじめ自分で作りますが、エンディングで一番大事にしているのは「腑に落とす」ということ。

どういう結論であってもいいのですが、見ている人が腑に落ちないと、見終わった後にスッキリしない。
すべての物事はスッキリ終わるわけではないし、必ずどこかに不満が残るものですが、視聴者に少なくとも「へぇ」と思わせたり、腑に落とそうとする姿勢が番組製作者側には必要だと思います。

要するに、わかってもらおうとして作っている、ということをわかってもらうことが大切。
だからまだ結論が出せないとき、これ以上は憶測になるようなときは、無理に結論じみたことを言うより、「結論はまだわかりません」とか、「ここから先は私見ですが……」と正直に言ってしまったほうが、見ている人は納得してくれるような気がします。