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地域が支える「里親の村」

「ほっとけない」広がる取り組み

虐待などで実の親と暮らせない子どもの中で、里親家庭に預けられるのは、全国平均で1割にすぎない。ところが、福岡市は2010年度末で24・8%(105人)。04年度末の6・9%(27人)からの伸び率は全国トップだ。それには理由がある。



里親の阿南知子さん(43)が昨年末、4人目の里子になる生後1か月だった男の子を家に迎えようとした時だった。「赤ちゃんは僕。だから歩かん!」

「出会えてよかった」。阿南さんは今、子どもたちの将来を想像するのが楽しみなのだという(福岡市の「子どもの村福岡」で)

それまで「末っ子」だった男児(2)が泣き出し、一日中、抱っこをせがんだ。

阿南さんは、男児が落ち着くまで、昼間だけ、男の子をすぐそばに住む専門の支援スタッフに預けた。「里親は一人で悩みを抱え込まなくていいんです」

博多湾に近い福岡市西区の農村地帯に洋風の5軒が並ぶ「子どもの村福岡」。10年4月にできた日本唯一の里親の村だ。「育親」と呼ばれる里親が、実の親と一緒に生活できない子どもたちを育てる。5軒を見渡すセンターハウスにはスタッフが常駐し、里親をサポートする。

阿南さんは児童養護施設に約10年勤めた保育士。傷ついた子どもたちの里親になりたいと、昨年4月、大分市の家を引き払って村に住民票を移し、翌月、両親から十分に養育されていなかった、男児と2人の姉(6歳と3歳)を受け入れた。

暮らし始めた頃、長姉は、食事があることを確かめないと心配なのか、いつも「ご飯は?」と聞いてきた。次の姉は、不安な時も甘え方を知らず、男児は、大人を見ると体を固まらせ、一歩も動けなかった。

阿南さんは当初、「ママ」と呼ばれることに戸惑ったが、半年程で違和感はなくなった。「隣で見てくれている人がいる」と思うと心強かった。

村では今、阿南さんら里親4人と子ども10人が、4軒で家庭生活を営む。



福岡市で里親が増えたのは、児童養護施設乳児院が、満杯になったことがきっかけだ。市の児童相談所(児相)は県外の施設に頼るほど切羽詰まり、里親委託へかじを切った。期待したのが市民の力だった。

「里親を増やしたい。協力してほしい」。子どもNPOセンター福岡代表理事の大谷順子さん(76)は05年初め、児相から頼まれても即答できなかった。児童虐待や里親は未知の分野だったからだ。

しかし、実情を聞き、「ほっとけない」と承諾。05年度、里親の普及に向け、官民一体で取り組む「ファミリーシップふくおか」が発足した。

年2回のフォーラムでは里親に体験を語ってもらった。「里子が小学校で『捨て子』といじめられたが、めげなかった。自尊心を持てたから」。あまり知られていなかった里親家庭の現実。毎回100人超の参加者は終了後、「里親になりたい」「寄付したい」との声を寄せた。

大谷さんは、市民の可能性を実感し、里親を支えるための交流の場も設けた。児相は、1人だった里親担当職員を順次増やし、今は4人(うち嘱託職員2人)が支援にあたる。



子どもの村福岡の設立に動いたのは大谷さんら市民や地元企業など。世界で里親の村を展開する国際NGO「SOS子どもの村」(本部・オーストリア)に共感し、133か国目として開村した。運営費などは地元企業や市民らが支える。

子どもの村福岡の村長・坂本雅子さん(69)は誓う。「地域社会に支えられたこの村で、里親支援のモデルを築きたい」



国連ガイドライン 実親の養育を受けられない子どもの支援に関する指針で、特に3歳以下には家庭を基盤とする環境を提供すべきだとする。2009年11月に採択された。欧米では保護が必要な子どもの約半数が里親委託されるが、日本は10年度末で12%。厚生労働省は今後十数年で30%にすることを目標に掲げる。

(おわり)

(2012年3月8日 読売新聞)

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記者の方々、名前は記載しませんでしたが、ありがとうございました。