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「子のために」風俗で働く

退所後の公的支援わずか

「子どもや施設長がいてくれたから、何とか今まで生きてこられた」。借金を返すため、風俗店で働く女性の腕にはリストカットの痕が残る(京都市内で)

京都市内にある児童養護施設の女性施設長(51)の携帯電話に1月下旬、施設出身の女性(21)から着信があった。

「実は、広島の風俗店で働いてるねん」。突然の告白だった。

女性が退所したのは3年前。「できちゃった婚」した一つ年上の夫は働かず、長女(2)と9か月になる長男の面倒も見ないといい、これまで何度も相談に乗った。幼子を抱え、困り果てて頼ってくるたび、特別に貸した生活費は100万円を超えていた。

「子どもは預かるから、ちゃんと働きや。シングルマザーでもやっていけるよう自立せな」。夫と別れると聞いた時、そう言い聞かせ、夜の仕事をしているのは知っていたが……。

「ほかに仕事見つからへんし、はよ借金返したいし」。近況を尋ねるうち、女性は今の仕事について切り出した。

声が次第に小さくなる。施設長は女性の心中を推し量り、「そうなんや。けど期間を区切りや」。それ以上、何も言えなかった。

「無理やり辞めさせるべきやろか。でも、ギリギリまで悩んで決めたことを頭ごなしに否定してもええんやろか」。葛藤するうち、自分の無力さに打ちのめされた。「どうしてあげたらよかったんやろか」



女性は生まれてすぐ、京都市内の乳児院に預けられた。両親の記憶はない。小1から里親家庭で育ったが、里父に暴力を受ける里母をかばううち、自分も「姿勢が悪い」と殴られた。

理不尽な暴力に耐えられず、中学に入ると家出を繰り返した。高校を1年で中退した時、「面倒見切れん。出て行け」と突き放された。

実の親だけでなく、里親に捨てられたショックは、大人への不信感を募らせ、生きる意味を見失わせた。施設に入ったが、ほとんど帰らず、繁華街をさまよった。金がなくなると、見知らぬ男性と一夜を過ごした。

17歳で友達だった夫との間に子どもができ、18歳の誕生日に施設を出て結婚。ようやくつかんだ幸せはしかし、長くは続かなかった。

同居した夫の家族に「施設の子はしつけがなってない」となじられ、すぐに別居した。間もなく長女を出産し、その後、長男も生まれたが、夫は仕事もせず、遊び歩いた。

子どもの夜泣きにイライラし、手を出しそうになったこともあった。「このままやとあかん」と思い始めた時、唯一手を差しのべてくれたのが施設長だった。

施設にいた時に家出をすると、「心配なんや」と帰るまで根気強く待ってくれた。結婚してからも愚痴を聞き、いつも見捨てずに、向き合ってくれた。

親代わりと慕う施設長にこれ以上迷惑はかけられない。借金の返済は待ってくれているが、早く返してけじめをつけたい。「短期間だけ」と自分に言い聞かせた。

2月上旬、女性は久しぶりに施設に顔を出した。大好きなアンパンマンのパジャマを着た長女が、抱きついてきた。長女の髪をとき、手を取り合うと、自然に笑みがこぼれた。「子どもたちのためなら何でもできる。早く一緒に暮らしたい」と願う。



施設退所者への公的支援はほとんどなく、大半は、施設職員らの善意に支えられているのが実情だ。

施設長は「頼れる親もいない子どもたちを、18歳になったからといって、『今からは自立して』と社会に放り出して、果たしてそれでいいのか」と疑問を感じる。だから、ボロボロになり、かろうじて生きている子どもたちとずっとつながり、支えるつもりだ。



自立と貧困 東京都の調査では、児童養護施設退所者の16%が無職、9%が生活保護受給者だった。また、働いていてもアルバイトや派遣・契約社員が男性で38%、女性では61%。月収15万円未満は46%に上る。

(2012年3月3日 読売新聞)