さんぽ

環境関連、武術、その他、気になったことをつれづれに。

自立しても「将来は不安」

社会になじめず職を転々

「ここ教えて」「しゃあないなぁ」。ロビーで宿題をする子どもたち。頼れる親がおらず、進学や自立は容易ではない(大阪府内の児童養護施設で)

4年前のことだ。大阪府内にある児童養護施設の男性職員(39)は、受話器から聞こえる切実な叫びに施設を飛び出した。

「もう無理。助けて」

電話は、「仕事なんか何とかなる」と約1か月前、施設を出て行った18歳のリョウタからだった。

近くの駅にいると言われて車を走らせた。喫茶店に連れて入ると、リョウタはカレーをかき込んだ。公園や駅で寝泊まりし、この1週間、何も食べていなかったという。

小5の頃、借金の取り立てから逃れる両親と車中で暮らした。食事はほとんどできず、風呂にも入れなかった。通報で児童相談所にネグレクト(育児放棄)として一時保護された。施設に入所した時は、体中が真っ黒でやせ細っていた。

軽度の知的障害があり、高校は3年で中退。寮付きの引っ越し会社に就職して施設を出たが、同僚とけんかして3か月で辞めた。次に勤めた水道工事会社では遅刻が多く2か月で解雇。施設に用意してもらった空き部屋に住んだが、心配する職員が職探しを促すと、「大丈夫や」といきがり、いなくなった。

助けを求める電話の後、職員は仕事探しに奔走し、ある建設会社に頼み込んだ。リョウタは今、22歳になった。だが、職員は「まだ将来は不安」と案じる。

児童福祉法上、児童養護施設で生活できるのは原則18歳まで。それ以前でも就職すれば施設を出て、自立しようとするケースが大半だ。

ただ、転職を繰り返し、社会になじみにくい子どもたちは多い。厚生労働省は昨年、就職しても自立できるまで養育するよう全国の施設に通知した。しかし、職員は「人手が足りず、自立に向けたフォローができないのが現状だ」と打ち明ける。



中3のダイスケ(15)は昨秋、高校進学を諦めた。

「みんな高校に行くし、俺も行けるよなあ」。当たり前のように思っていたが、進路を考える時期になって現実を突き付けられた。授業料が免除される公立には学力が届かず、私立で学費を施設に負担してもらうのは気が引けた。

小学校低学年の頃、母親が再婚した。夕方、学校から帰ると、義父に「うっとうしいから暗くなるまで帰ってくるな」と追い出され、晩ご飯も食べさせてもらえなかった。仕方なく夜まで街をうろつき、空腹をしのぐためコンビニエンスストアで万引きした。義父にばれると「しつけ」として激しく殴られ、中学で施設に入った。

「就職する。俺なりに考えた結果や」。昨年10月、男性職員(33)に打ち明けた。ただ、同級生は高校生活の夢を語り、受験に臨もうとしている。最近はイライラからささいなことで先生に反発したり、壁を殴ったりする。

職員は「割り切れない思いがあるんだろう」と感じる。先月、寮がある解体業者で働くことが決まった時に声をかけた。「お前が決めたことや。120%応援する」。誰かが見守っていると伝えたかった。

春、ダイスケは施設の隣町で一人暮らしを始める。



1月9日、施設出身者の成人を祝う会が会議室であった。毎年恒例の行事だ。

「おめでとう。最近どないしてるんや?」

「去年、長女が生まれてん。もっと仕事頑張るで」

スーツや振り袖で着飾った4人が職員らとビールで乾杯し、近況を披露した。

出席した職員は成長を喜ぶ反面、心にひっかかりを感じていた。参加を呼びかけた約10人のうち、半数の姿が見えなかったからだ。「施設を出てからも生きづらさを抱える彼ら、彼女らをどう支えればいいのか」

(文中仮名、敬称略)



進学と就職 厚生労働省によると、児童養護施設の子どもで、高校に進学したのは94%(全中卒者98%)だが、大学は12%(全高卒者54%)にとどまる。就職は中卒1.9%(全中卒者0.4%)、高卒が70%(全高卒者16%)だった。

(2012年3月2日 読売新聞)

−−−−−−−−−−

障害。
もし親と俺がいなくなったら、弟はどうやって生きていけるのか。