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難病の現実 失ったキャリアと誇り…フルタイム難しく「仕事がない」

■「自分の力で生きていきたい」

 得意の語学力を生かしてバリバリ働き、社会に貢献したい。そんな夢は道半ばで絶たれ現在は事務のアルバイトに就いている。「もっと働きたいのに」。きっかけは難病の発症だった。

 愛知県弥富(やとみ)市の加藤志穂さん(31)は平成21年4月、勤務していた航空貨物会社の研修で台湾に滞在中、突然、耳の腫れに襲われた。アイスピックで刺され、引っ張られるような激しい痛み。現地の大学病院で「再発性多発軟骨炎」と診断された。

 免疫の異常で、耳や鼻などの軟骨を異物と誤認して攻撃し、痛みや発熱を伴う炎症を繰り返す。気道や気管支の軟骨で炎症が起きれば、窒息の恐れもある。

 「病院で聞いた英語の病名を日本語に直したら、『再発』だの『多発』だの恐ろしい言葉が重なっている。嘘でしょ、と衝撃を受けました」

◆フルタイム難しく

 仕事ぶりを認められ、ようやく参加した研修だった。帰国を余儀なくされ、治療のため会社を1年ほど休職したが、耳の炎症はたびたび再発した。免疫抑制剤などで症状は抑えられるが、抜本的な治療にはつながらず激しい痛みは突然やってくる。フルタイムでの仕事は難しかった。

 「短時間勤務を適用できないか聞きましたが、会社から『前例がない』と断られたんです」

 失意のうちに退職し、改めて仕事が好きだったことに気づいた。「20代後半は、ちょうど仕事が花開いていくとき。取り残されるもどかしさ、焦りは思い出したくないほどです」

 地元の有名大で英語を学んだ才女が、ハローワークに通っても、就職先が見つからない。障害者向けの就労支援サービスはあったが、当時、難病患者向けはなかった。ようやく知人に紹介された医療関係の会社で、事務のアルバイトを始めた。

 「自信をなくしていたけれど、働くことで責任が生まれ、自分の存在価値も見いだせる」。アルバイトでは徐々に勤務を増やし現在は1日5時間、週4日働く。かつての年収は400万円。それが現在の稼ぎは月8万円ほどだ。働くことで「誇り」は取り戻せたが、不安はある。

◆通院だけで3万円

 月額の治療費は通院だけで約3万円。発症前より負担が増えながら、正社員の道はなかなか開けない。同居の両親は元気だが、「将来を考えるとアルバイトで生計を立てられるのか」。国民健康保険の支払いも重くのしかかる。

 同じ病気に悩む患者の中には、医療費の支払いのため、3つのアルバイトを掛け持ちしたり、後ろめたさを感じながらも、年老いた親に食べさせてもらったりしている人もいる。

 金銭負担を軽減する医療費の助成制度について、どう思うのか。「支援はありがたいが、症状が軽く、自分で働けるうちは、人に頼らず自分の力で生きていきたい」と返ってきた。

 「条件さえ折り合えば、社会の中で生きていける」と加藤さん。多大な気遣いは必要としていない。少しばかりの理解と支援があればいいと願う。(この連載は伊藤鉄平、道丸摩耶が担当しました。)

■患者の就労支援など拡充へ

 厚生労働省が平成27年1月の導入を目指す難病対策の新制度では、患者や家族への社会的支援が医療費、研究助成と並ぶ「3本目の柱」に据えられている。

 労働可能な比較的軽症な患者向けには、就労支援体制を拡充。ハローワークに「難病患者就職サポーター」を置き、就職後も含め対応をフォローする。事業主への助言や指導も行う。

 介護が必要な重症患者向けには、障害者施設の利用ができるよう制度改革。グループホーム訪問介護などのサービスが受けられるようにし、家族の負担を減らす。いずれも今年度から一部地域や疾患で先行導入されているが、適用範囲を拡大する。

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こういう人を助ける事ができる仕事が理想かもしれない。