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意図的な練習をしているか?「一流になるための2つの条件」をモーツァルトとコービーから学ぶ

ライフハッカー[日本版]2013年10月16日(水)

ある分野で一流になるには、どれほどの時間を費やす必要があるのでしょうか。目標に到達できる人とできない人のちがいはどこにあるのでしょうか。カーネギーメロン大学の認知心理学教授であるジョン・ヘイズ教授は、その違いに興味を持ちました。

ヘイズ教授は、才能あふれるモーツァルトピカソといった、世界レベルの芸術家を対象に研究。一流と呼ばれるまでにどれほどの時間を要し、どのような決断や経験、練習が成功への鍵となったかを調べました。

ヘイズ教授の研究から明らかになった、目標を達成するために私たちがとるべき行動とはどのようなものなのでしょうか?


■名曲は「10年の沈黙期間」を経て生まれていた

ヘイズ教授の研究は、著名な作曲家の業績調査からスタートしました。教授は、1685年から1900年にかけて作曲された何千もの曲を分析しました。その過程でわき上がった大きな疑問が「ある作曲家が音楽に興味を持ち始めてから、世界レベルの作曲家となるまでにどれほどの時間がかかっているか」というものです。教授は、世界中のオーケストラによって演奏されることが多く、かつ「名曲」と呼ばれる500曲をリストアップ。その500曲は、76名の作曲家が生んだものでした。

次に、教授は各作曲家の年譜を描き出し、有名な曲を書くまでにどれほどの時間がかかったかを計算しました。その結果わかったことは、「名曲」と呼ばれるものは作曲家としての経験が10年以上経ったあとに生まれているということです。この結果に当てはまらない曲は、500曲のうちたったの3曲のみ。ただし、その3曲も作曲家になってから8年目、または9年目に書かれたものでした。

誰ひとりとして、10年間の練習を積む前に偉大な曲を生み出すことはなかったのです。モーツァルトのような天才でさえ、有名な曲を書く前には10年間の下積み期間がありました。ヘイズ教授は、懸命に努力を重ね、周囲からは認知されないこの下積み期間を「10年の沈黙期間」と表現します。


■10年間、あるいは1万時間をいかに過ごすか

その後の研究で、ヘイズ教授は同じパターンが著名な画家や詩人にも当てはまることを発見します。この法則は、一流の技能を身につけるには「1万時間」の練習が必要であることを示したK・アンダース・エリクソン博士など、複数の学者による研究でも裏付けられています。最近では、マルコム・グラッドウェル氏の著作『天才! 成功する人々の法則』によって、この法則が知られるようになりました。

しかし、ヘイズ教授、エリクソン博士などの研究者が深く追究すればするほど、この法則は単なる方程式の一部に過ぎないことも明らかになりました。成功は、単に10年間、または1万時間の練習による産物でもないのです。

では、潜在能力と技能を最大限に活かすには、どうすればよいのでしょうか? それを学ぶには、一流の人材の練習方法が大いに参考になるでしょう。アメリカ・バスケットボール界のスーパースター、コービー・ブライアントの練習方法は素晴らしいモデルになるはずです。


コービー・ブライアントが頂点に立てた理由

コービー・ブライアントは、その史上でも大いに成功したバスケットボール選手のひとりです。NBAチャンピオンに5回輝き、2個のオリンピック金メダルを獲得。選手としてのキャリアにおいて2億ドル(約200億円)を稼ぎました。

2012年、ブライアントがアメリカ代表チームのメンバーに選出された際、オリンピックの試合に備えて、トレーナーがブライアントの練習に付き添っていました。トレーナーを務めたロバート氏は投稿サイト「Reddit」で、ブライアントを担当した経験、また彼の成功の理由について、こう書き記しています。

アメリカ代表チームのトレーナー、ロバートより:

私は、ロンドンでの試合に発つ前のアメリカ代表チームのコンディショニングを手伝ってほしいという理由で、ラスベガスに呼ばれました。それまで、カーメロ・アンソニードウェイン・ウェイドといった選手のトレーニングを担当したことがありましたが、コービーを担当するのはそのときが初めてでした。

トレーニング1日目の前夜、私はホテルで『カサブランカ』を初めて鑑賞し、時刻はすでに午前3時半になっていました。

数分後、ベッドに入って、まどろみつつあったとき、携帯電話の着信音が鳴り響きました。コービーからでした。私は緊張しつつ、電話に出ました。

「やあ、ロブ。今、電話しても大丈夫だよね?」

「もちろん。どうしたんだ?」

「ちょっとコンディショニングを手伝ってもらえるかなと思って」

私は時計を見ました。午前4時15分。

「もちろんだよ。じゃあ、すぐに行くから」

身支度を整えるのに20分ほどかかったあと、ホテルを出ました。トレーニング施設に到着し、部屋に入ると、コービーがいました。彼は、全身びっしょりと汗まみれになっていました。まるで泳いだ直後かのように。そのとき、午前5時にもなっていませんでした。

私たちはコンディショニングを1時間15分かけて行いました。それから、ウェイトルームに移りました。45分、さまざまなウェイトトレーニングを行うための場所です。その後、私たちは別れました。彼は、シュートの練習をするために、練習ルームに戻っていきました。私はホテルに戻って、ベッドに倒れこみました。ふう!

私は11時に、再びトレーニング施設に戻ることになっていました。

目覚めたときには、眠さ、だるさといった、睡眠不足のあらゆる副作用に襲われていました(コービー、君のおかげだよ!)。ベーグルを食べ、トレーニング施設へと戻りました。

その後のことを、私は今でも鮮明に覚えています。アメリカ代表チームの全員がそこにいました。レブロン・ジェームズがカーメロに話しかけており、シャシェフスキーコーチがケビン・デュラントに何かを説明していました。部屋の右端では、コービーがジャンプ・シュートの練習をしていました。

私はコービーの元へ行き、背中を軽くたたき、話しかけました。

「今朝はがんばったね」

「え?」

「コンディショニングのことだよ。よくやった」

「ああ、そっか。ありがとう、ロブ。本当に助かったよ」

「君はいつ終えたの?」

「終えたって、なにを?」

「シュートの練習だよ。いつ施設を出たんだい?」

「ああ、たった今だよ。800本のシュート練習をしたかったんだ。たった今、終わったばかりだよ」


コービーは、4時半にコンディショニングを始め、6時までジョギングと走り込み、7時までウェイトトレーニング、その後11時まで800本のジャンプ・シュートの練習をこなしていました。

そして、それからアメリカ代表チームは合同練習を行ったのです。疑う余地もなく、コービーは1万時間の練習を積んでいましたが、それ以上に重要な点があります。


■「意図的な練習」の重要性

コービーは単に練習場へ来て、たくさん練習をしただけではありません。非常に明確な目的を持って練習していたのです。800本のジャンプ・シュートをこなす、という。意志を持って、シュートのスキルを磨くことに集中していたのです。その練習は計画性に基づくものでした。単純なことに聞こえるかもしれませんが、多くの人はこんな風に日々の仕事をこなしません。

多くの人は「頑張った」度合いの指標として、その行動に費やした時間を上げます。「今週は60時間仕事をした!」というように。しかし、多くの時間を費やすだけでは一流になれません。意図的に練習することは、また別のことです。熱心に練習することとは、ジムに通うことであり、シュートのスキルを磨くことではないと思われがちです。

バスケットボールの例をとって、「意図的な練習」についてわかりやすい例を紹介しましょう。

2名のバスケットボール選手が、フリースローの練習を1時間行ったとします。A選手は200本のシュートを打ち、B選手は50本のシュートを打ちました。B選手は、自分でシュートを拾い、のんびりドリブルしたり、数度の休憩をとって友人に話しかけていました。

A選手にはシュートを拾ってくれる仲間がいました。その仲間はシュートの記録もとっていました。シュートが入らなかったときには、飛距離が短いか、長いか、右に行ったか、左に行ったか、記録をしました。A選手は10分ごとにその記録を振り返りました。

2人の選手の練習内容が全く同じであるとは到底言えません。こうした異なる練習を毎日行った場合、2人のスキルがスタート地点では同じであったと仮定したとき、どちらの選手が100時間の練習後には上達していると思いますか?

── オーブリー・ダニエルズ

誰でも練習を1時間こなしたあとに、それを誇らしげに語ることはできます。しかし、意図的に練習をする人は一握りに限られます。これまでの研究では、各分野で一流と呼ばれる人は、意図的な練習をしていたことがわかっています。アーティスト、ミュージシャン、アスリート、CEO、起業家...彼らは、単に長時間、練習や仕事をするのではありません。特定のスキルを磨くために時間を使うのです。


■「意図的な練習」を日々の行動にどう取り入れるか?

モーツァルトは「天才の中の天才」と呼ばれましたが、そんな彼でも10年間懸命に練習をしたのちに有名な曲を生み出しました。この事実について、みなさんがどう感じるかはわかりませんが、わたしはとても心を動かされます。

わたしには、コービー・ブライアントのような天賦の能力も、モーツアルトのような卓越した才能もありませんが、「沈黙の10年間」を進んで費やしたい。このサイト上で書き始めてからまだ9カ月しか経っていませんが、今はまだ30年のプロジェクトの始まりに過ぎないと思っています。わたしはこのプロジェクトにずっと関わり続け、努力と粘り強さと揺るがない一貫性をもって、成功することができるはずです。みなさんも、仕事やなにかの目標で成功するには、同じ方法を使えるでしょう。「沈黙の10年間」そして「意図的な練習」、この2つを組み合わせることで、突出した成果を上げられるはずです。

日々の行動においては、大きな成果を上げることにこだわる必要はありません。日々直面する壁や失敗は、スキルを向上し、成長するためのきっかけになります。犠牲を払い、誰にも認められない期間は、いつか最高の仕事ができるようになるために必要です。つまり、失敗と思えるものの多くは成功への礎なのです。

喜ぶべきことに、毎日たった1時間、集中して意図的に練習するだけでも、いつかすばらしい結果を生み出すことにつながります。ぜひ、自分自身に問いかけてみてください。10年の沈黙期間を越えるために頑張っているか? スキルを磨くために意図的に集中しているか? それとも、単に「時間を費やす」だけで、どうにかなると思っていないか?