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伊丹空港が「有機肥料」の“不思議” 企業価値向上につながる“意外”

2013.2.11[ビジネスの裏側]

伊丹空港の刈り草からできた肥料「伊丹空港1号」。においがなく、栄養価が高いという (新関西国際空港会社提供)

 「伊丹空港1号」と聞いて、なにが思い浮かぶだろう。「空港といえば飛行機」となるのが当然だが、正体は、大阪(伊丹)空港内で刈り取った雑草や芝から生まれた「有機肥料」。農林水産省の肥料登録も受けており、新関西国際空港会社は6月、阪神高速道路会社に納入し、貸し農園で使われるという。無農薬で栄養価が高いなど評判は上々。伊丹と関空の運営権売却(コンセッション)に向け、事業価値向上を目指す新関空会社にとって、空港発肥料は会社の評価も育ててくれるだろうか。

■高速道の農園で“空港産”肥料

 阪神高速大阪市福島区で設置を予定している高速道路の地下トンネル。その地上部分の遊休地(約2千平方メートル)に今秋、貸し農園がオープンする。ここで使われる肥料の一部が伊丹空港1号だ。

 新関空会社が6月に無償で提供する。伊丹空港1号はこれまで伊丹や関空内の農園などで使われていたが、外部への提供は初めて。JR西日本大阪市とも提供について調整を進めており、活躍の場が急拡大している。

 この“空港発”の肥料、どのようにして生まれたのか。

 チガヤ、シロツメクサ…。伊丹の滑走路脇などの緑地には、高さ1メートルにもなる雑草が生い茂る。芝と合わせて年3回刈り取られるが、量は年間計800〜900トンに上る。

 刈り草は焼却処分していたが、1400万円程度のコストがかかっていた。このため3年ほど前から二酸化炭素排出量カットとともに、処分費用圧縮のため、他の有効活用を模索し始めた。

 効率的な活用は飼料で、500〜600トンを兵庫県内の牧場に提供することになったが、問題は残る約300トン。雨にぬれると腐りやすく、飼料には不向きだったのだ。このため肥料として活用する検討が始まった。

■無農薬で臭わない高級品

 一般的に肥料を作るには、発酵に空気を必要とする「好気性菌」と呼ばれる菌を使う。ただ、原料をかき混ぜる手間があり、コストがかかる。

 伊丹が目指すのはコスト削減。そこで空気を必要としない「条件的嫌気性菌」での肥料作りに乗り出した。「純粋に試行錯誤を繰り返し」(担当者)、3年がかりで開発に成功。昨年7月に農林水産省で肥料登録された。

 こうして生まれた伊丹空港1号は、従来の肥料に比べ臭いがなく、完全無農薬で栄養価が高いのが特長。約300トンの刈り草から約100トンの肥料ができるという。条件的嫌気性菌による肥料を国内で量産しているところはなく、業界関係者は「ここまで大規模にできるとは」と舌を巻く。

 コスト削減の成果だが、300トンの刈り草を焼却処分すれば600万円程度かかるところを、肥料の生産費として約100万円に抑えることに成功した。将来、30〜40万円にしたい考えだ。

 こうなれば「肥料でひともうけ…」と考えたくなるが、新関空会社の担当者は「外販は検討していない」。目的が処分コスト削減と環境保全だからだ。

 また外販の軌道に乗せるには年間100トンの生産量では足りない。刈り草の調達量を増やそうにも、国際空港の関空では特定外来種が混じっていて使えない上、伊丹以外を混ぜると「品質を一定に保つことが困難」(担当者)という。

伊丹空港1号は「統合の象徴」

 伊丹は昨年7月に関空と経営統合した。新関空会社は両空港を一体運営し、事業価値を高めた上でコンセッションを目指す。

 空港利用を促進する一方、コスト削減にも取り組んでいるが、実は経営統合で伊丹側から初めて示されたコスト削減案が伊丹空港1号。関空内の農園でも使われており、新関空会社の幹部は「経営統合の象徴だ」と胸を張る。

 1兆円を超える負債を抱える会社としては“しょぼい”施策かもしれないが、新関空会社に生まれた低コスト経営の「芽」は、エコな肥料という話題とも相まって、「大きく育て」と関係者の期待を集める。

 なにより伊丹空港1号が利用され、空港と肥料という異色の組み合わせが注目を集めれば、間接的に企業価値を高めることにつながるかもしれない。