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【最終回】先送りプログラムを科学的に治療する「倍速管理」

■先送りプログラムを治療する「倍速管理」の評判

コラム第1〜4回までで、思考を「あたりまえ化」して科学的に「自信」を身につけるにはどうしたらいいか。そのために、どのように葛藤を乗り越えていくか、などについて触れてきた。

ところが、日頃から結果を出すための行動だけをしていればいいかというと、そういうわけにはいかない。

通常はそれ以外にも、いろいろな業務、作業があるものだ。
こういった仕事を場当たり的に処理していると、頭の中が整理できなくなり、結果を出すための行動にも影響を及ぼす。
こういった周辺の仕事も「絶対達成」のメソッドを使って片づけていくことによって、自分のやりたいと思っていることを実現しやすくなる。

コラム最終回でご紹介する「倍速管理」は、まさにそのための仕事術と言える。

「倍速管理」は私が考案した「絶対達成」仕事術だ。
セミナーでこれを披露していると、多くの方から、

「倍速管理の考え方が、とにかく目からウロコでした」
「仕事に対する姿勢を根本的に変えるきっかけとなりました。ありがとうございます!」

というような感想をたくさんいただく。

コンサルティング現場でも実践し、多くの方の意見を取り入れて育てていった仕事術なのだ。
この考え方を参考にしていけば、なんでも先送りしてしまう「先送りプログラム」を書き換えていくことができる。
拙著新刊『絶対達成マインドのつくり方』には、「倍速管理」のテクニックを詳しく解説している。それでは要点を紹介していこう。

■期限を2つ折りにして、2倍速で仕事を片づける

「倍速管理」をひと言で書くと、期限を2つ折りにして、2倍速で仕事を片づけるやり方だ。
仕事には必ず「期限」と「ノルマ」がある。その期限を半分にするのだ。
そうすることで、理論上、仕事は「絶対達成」する。

たとえば今日が火曜日だとして、上司から「来週木曜日までに資料をつくってくれ」と言われたら、多くの人の頭にインプットされる期限のデータは「来週木曜日」であって、火曜日から来週木曜日までの実質的な期間ではない。

「期限」のデータとして「来週木曜日」しか頭に入らないと、多くの場合は「来週の木曜日までにやればいい」という発想になってしまいがちだ。

「来週の木曜日までにやればいい」と考えると、ついついその期限前日の水曜日にその作業をしても間に合うかもしれない。ひょっとしたら当日に始めてもいいかもしれないと思い込んでしまうものである。

しかし、仕事は「絶対達成」だ。「うまくいったら達成するかもしれない」などという「たら・れば」の発想ではダメだ。

仕事を先送りするリスクは2つある。
1つは依頼内容を忘れることだ。「ヘルマン・エビングハウス忘却曲線」によると、人間は、20分後には42%、1時間後には56%、1日後には74%、1週間後には77%のことを忘れる。
つまり時間の経過とともに、上司の指示、自分のやるべきことを忘れるのだ。
2つ目は、時間の経過とともに「面倒だ」という感覚は増幅すること。
コラム第2回で触れた「思考ノイズ」が次々に発生し、前述のとおり内容も忘れていく。内容をあまり覚えていないことを、面倒くささが増幅した状態で作業するので、時間は長くかかり、仕事のクオリティは著しく低下する。

私のクライアントである、飲食店店長Kさん(32)も、期限ギリギリにならないと行動しないタイプの方だった。女性らしく周囲に気を配る、気持ちのいい態度がウケて、お店は繁盛していた。

しかし、店舗経営に関しては、別だった。
お客様は来店してくれるが、客単価が低いこと、回転率が悪いことで、年初に立てた目標をなかなかクリアできない。
オーナーと一緒にアクションプランをつくるのだが、いつも返事だけはよく、「やります」「すぐできます」と宣言はする。
しかし時間が経つと、「そもそも、どうしてこれをやらなくちゃいけないんでしたっけ?」と言い始める。
新メニューの開発、チラシやポップづくり、ビラ配り、店舗外装の手入れ、アルバイトのマナー教育……など、やるべきことは山積しているのに、目の前の仕事に忙殺されていて、すべて手つかずのままだった。

■「皮を剥いたリンゴ」と利益を143%増にした飲食店店長

私はよく、仕事は「皮を剥いたリンゴ」だと表現する。
皮を剥いた新鮮なうちはリンゴも美しいし、おいしいし、エンザイム(酵素)が豊富で健康的だ。
ところが、そのまま放置しておくと、リンゴは酸化して変色していく。
すると見た目も悪くなって食べる意欲が落ちていく。
リンゴと同じで、仕事ははやくとりかかったほうが間違いなく健康的なのだ。

Kさんに「絶対達成」という表現を使うと、うまくペーシング(ペースを合わせること)ができなかった。
Kさんには、とても強い言葉に聞こえるからだろう。
だから私は「皮を剥いたリンゴ」の話をした。
するとKさんは、それだけですごく納得してもらえたようだった。
それからKさんは、イタリアから「皮を剥いたリンゴ」をモチーフにした絵を買ってきて、お店に飾った。
さらにオーナーと行動計画をつくると、Kさんはリンゴの絵が入ったイラストペーパーに印刷するのだ。そしてその行動計画を「皮を剥いたリンゴ」だと思い込むようにした。

その効果からか、少しずつKさんの「先送りプログラム」が解消されていった。
月に1回、店員とメニュー開発を実施し、常連客を招待して試食会を開き始めた。
そのためのビラづくり、アルバイト店員の教育なども手がけ、9ヵ月で9回メニューを開発を実施したのだ。
そしてのべ100人以上のお客様に試食してもらい、一番評価の高かったメニューが、のちに看板メニューとなり、店の売上を押し上げた。
売上は前年対比107%アップし、利益は143%も上昇したのである。
Kさんは、いまでもリンゴの絵のついたイラストペーパーに、行動計画を印刷して持ち歩いているそうだ。

■「先送りプログラム」を治療できないと……

期限ギリギリまで先送りしたあげく、「面倒」な感覚が膨れ上がりすぎてしまい、「やらない」という決断に踏み切ってしまう人もいる。

そのメカニズムはこうだ。
コラム第3回の「『自分探し』をする前に『目の前のこと』をやれ!」で書いたとおり、人間には「一貫性の法則」というものがある。
過去、自分がしてきたことは一貫して正当化したくなるものだ。
つまり、依頼された仕事に手をつけず、そのまま放置しておくと、放置しておいた期間を正当化したくなるので、放置期間が長ければ長いほど、その仕事に対する疑念が湧いてくる。その変化は以下のとおりだ。

●火曜日(依頼された日)「すぐ着手して片づけてしまおう」

●金曜日「なんだか面倒くさい。本当に必要な資料なのか?」

●来週月曜日「やる気が起こらない。つくらなくてもいいような気がしてきた」

●来週水曜日(期限前日)「いまさら間に合わない。それに、これはつくらないほうがいい気がする」

このように依頼されてから期限までの8日間(火曜日を含み土日を除く)、「思考ノイズ」が膨張する。
仕事を放置したため問題が深刻化し、思考が歪められてしまうのだ。
そして最終的には勝手に「やらない」という最低・最悪の決断をする。

自分から、この状況を報告する人はまずいない。
上司が聞くと、「バタバタしていたので時間をとれませんでした」などと言い訳をする。さらに、自分ができなかったことを正当化するために、「そもそもこれをやることに意味はあるんですか?」「実は最初から疑問を感じていたんです」などと言う場合もある。

上司からしてみれば、腹立たしい気持ちになるだろう。
「それなら相談してくれればいいじゃないか」と言えば、「なんで私が聞いた時点でそんなことを言うんだ」と問いただしたくなる。
しかし、「一貫性の法則」が働くため、あくまでも自分の言動は一貫して正当化したくなるものだ。すぐに「そうですね。私が間違ってました」などとは言えないものだ。

「課長が忙しそうにしていたので、相談できなかったんですよ」などと、ふてくされて言うから、よけいに問題を悪化させていく。
当然のことながら、依頼者に対し何の相談もなく、勝手に「やらない」という決断をすることなどありえない。
これでは、周囲とのラポール(信頼関係)など、絶対構築できない。

人間は、誰しも完璧ではない。
言い訳の一つくらい、たまにはしたいときもある。
それは、このコラムを読んでいるあなたもそうだろうし、私もそうだ。

しかし、言い訳が通じるのは、相手とのラポールが構築されているときだけだ。
そうでないと、本当に言い訳したいときもできなくなり、とても残念な気持ちを抱きながら日々をすごさなくてはならなくなる。
人間には「一貫性の法則」があり、過去、自分が「してきたこと/してこなかったこと」を一貫して正当化したくなるものだ。
過去の正当化が言い訳を生み出し、その言い訳が組み合わさり、架空の物語までつくりあげてしまう。
言い訳がモンスター化して「妄想」に変異していくので、言い訳の源泉である「思考ノイズ」をいかになくすか、これがポイントだ。

■「倍速管理」に必須の「スケールテクニック」

問題が大きくなる前に、先手を打つ必要がある。
そこで「倍速管理」である。
期限を2つ折りにしなければ「期限は来週木曜日だな」と曜日が頭に残るだけだが、期限を2つ折りにしようとすると、「半分はいつなのだろう?」と計算しなくてはならなくなる。

このプロセスが大事だ。「期限まで何日間あるのか」と考えるプロセスである。
今日が火曜日で、来週木曜日が期限なら、期限までには土日を除いて火曜日を含め8日間ある。
そしてこの「8日間」を半分にするのだから、「4日間」だ。「倍速管理」の考え方で新たに設定される期限は火曜を含めて4日後。つまり今週金曜日である。
このように、期限を2つ折りにするだけで、想像以上に脳が働くものだ。

期限を2つ折りにしたら、次に「スケールテクニック」を使う。
「スケールテクニック」とは、「その仕事にはどのくらいの時間がかかるのか」を客観的に見積もり、数値化することだ。
感覚でとらえていた作業時間を見積もる。この習慣を身につけよう。
最初のうちはうまく見積もることができなくても、あきらめないでいただきたい。
間違えてもいいから、とにかくアウトプットする。

たとえば、「会社の戦略マップをつくってほしい」と依頼されたとき、「そんなものはつくったことがない」とあきらめるのではなく、間違ってもいいから「1時間30分でできるかも」「3時間はかかるなあ」という仮説を立てるのだ。
結果的に7時間かかったとしてもかまわない。
「7時間かかった」と認識できれば、次に何か頼まれたときにその情報を活かして仮説を立てることができるからだ。
「スケールテクニック」を「あたりまえ化」できれば、行動に対する心理ハードルが低くなる。つまり従来の「感覚」が修正されるのだ。

「倍速管理」は、「期限の2つ折り」や「スケールテクニック」、そして拙著新刊『絶対達成マインドのつくり方』で取り上げた「ワンツー確認」などを総合した「絶対達成仕事術」である。
非常にシンプルなノウハウだが、シンプルだからこそ実践できるし、継続することもできる。だから効果も高い。

問題を先送りし続けると、問題は悪化するだけだ。
「先送り」の習慣を治療する絶対達成仕事術「倍速管理」を、ぜひとも体験してみてほしい。


絶対達成マインドのつくり方――科学的に自信をつける4つのステップ

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