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【自殺考 命を救う現場(3)】消耗する遺族…自殺者への「思い」心に秘め 2012.11.9 11:02

父の自殺を学校で謝罪させられた娘

「これからもよろしくお願いしますと頭を下げろ」

自殺者の遺族に向けられる差別偏見の解消を目指すNPO法人「セレニティー」(東京)。その代表理事を務める田口まゆさん(39)には今も忘れられない思い出がある。

中学1年生のとき田口さんの父=当時(39)=が亡くなった。突然行方不明になり数日後、自宅から遠く離れた山中で遺体が見つかった。

父親の死は中国地方の小都市ではすぐに知れ渡った。父親の喪が明け、中学校に登校した日、朝礼の時間に担任の教師が突然、田口さんをクラスメートの前に立たせ、謝罪をさせたのだ。

田口さんは「小さな町を騒がせたことを謝れということなんだろうか。なんで?と思いました。でも、当時は頭を下げなければいけない人間になってしまったと思い、抵抗できなかった。大切な父を失ったショックに加えて、父への怒りがわいた」と振り返る。

親族の間でも、父親の話をするのはタブーになった。母親は憔悴(しょうすい)し、精神的にも不安定に。学校に行きたくない、でもそれが言い出せなかった。田口さんは自分の感情を口にすることをやめた。母を喜ばせたいからと、高校では学年1位の成績を取った。早く、地元を出たい。大学進学とともに家を離れ、名古屋で1人暮らしを始めた。

3年、5年、10年…たっても消えない、苦しい感情。抜け出すきっかけを求めて、担任に会いに行くことを決めた。すでに校長になっていた教師は快く会ってくれた。

田口さんが「頭を下げなければいけなかったこと、本当につらくて。なぜなのか聞きたくて」とたずねると、返ってきた答えは「覚えていない」だった。「先生は、そのあと笑って『そんなこと気にしてるから結婚できないんだぞ』とまで言ったんです」

解決の糸口はまるで見つからなかった。行き場を失った心情を、自殺者の遺族同士が語り合う「分かち合いの会」で打ち明けた。

そこで遺族の会のメンバーは田口さん以上に怒りを表したという。「『教師が悪い』と言ってくれたんです。初めて、私はおかしくない、もっと怒っていいんだと思えたんです」と振り返る。20年以上の歳月が流れていた。

NPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」が平成20年にまとめた「自殺実態白書2008」によると、大切な人の死に際して、自殺者の遺族は周囲から「生命保険がたくさん入ってよかったじゃない」「あなたが責め立てて自殺に追いやった」などといわれることもあり、心の傷を深くする。遺族の4人に1人が直後に「自分も死にたい」と考えたという。そんな恐怖や不安から、遠く離れた「遺族の会」に通う人もいる。“自らを殺す”と書く「自殺」という言葉にも傷つく。周りに、感情をはき出し嘆くことができず、精神的、経済的に消耗していく遺族は多い。

自殺者が3万人を超える現在、遺族はその何倍も存在している。身近なところにも、誰にも心の内を明かすことができない遺族がいる。

田口さんは講演などで自分の経験を話すことで、遺族に対する理解を訴える。「遺族は、自分を責めることだけはしないでほしい」と語る。

仕事を抱えてのNPO活動のため休日はほとんどない。疲れていても、活動中はエネルギーがみなぎるという。「力の源はもしかしたら父への怒りかもしれない。父への思いなのかもしれない。父に何かをぶつけられないかわりに、活動しているのかもしれません」と田口さんは話した。