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【自殺考 命を救う現場(2)】手首を切る…子供1割が自傷経験 半身マヒの叫び、届くか 2012.11.7

(1)学校、いじめ加害者を助長…から続く

「私の命は内側にある生命力と、周囲の助けで生かされました。これからは、自分も、他人も、傷つけないように生きると決めました」。腰塚勇人さん(47)は全国の小中高校を訪れ、「命の授業」で静かに語りかける。

平成14(2002)年3月、神奈川県で中学校の体育教師をしていた腰塚さんは、スキー事故で首を骨折。緊急手術の麻酔から覚めると、首から下がまったく動かなかった。医師は「このまま寝たきりか、良くて車いすの生活になるでしょう」と家族に説明していた。

「脳からいくら『動け』と命令を出しても動かない。死んだ方がましだと思いました。おれの人生終わった、と。どうやって生きていけばいいか分からなかった」

そんなとき、看護師が声をかけてくれた。「つらさは分かってあげられないけど、私にできることは何でもしますから、言ってくださいね」

腰塚さんは、気持ちを分かろうとしてくれた人がいたことに気付き、その夜、一晩中泣いたという。弱音を吐くことは、いけないことだと思ってきた。でも、本当は「助けて」と言いたかった自分の気持ちに気付いた。

弱さを見せることは悪いことではない。そう思うと同時に、周囲に対する感謝の気持ちがわいた。このころから手足が少しずつ動くようになったという。

現在も下半身と右半身に麻痺(まひ)が残るものの、自分の足で歩き、生活できるようになった。事故から4カ月後、職場復帰を果たした。21年に小学校時代の恩師から連絡があった。「体験したことを話してくれないか」。その小学校ではいじめがあり、リストカットする児童もいた。

 学校に赴き、全校生徒の前で話した。自分が経験を通じて知った命の大切さや生きることのすばらしさ。支えてくれる人の存在…。低学年に1時間15分の授業は長いかもしれないとの不安もあった。しかし、児童たちは2月の寒い体育館で、しっかりと腰塚さんを見つめ、話を聞いていた。授業のあと、児童が書いた感想文には「両親に産んでくれてありがとうと言いたい」「自分のクラスにはいじめがあります。見て見ぬふりをしていたけれど、その子にごめんと言いたい」と書かれていた。

「子供に、しっかり自分のメッセージが届いていると思いました。子供が変わったというけれど、それは違う。大人の方がきちんと向き合っていないだけだ」と腰塚さんは確信する。

全国高等学校PTA連合会が高校2年生約6400人を対象にした自傷行為の実態調査(平成18年)では、男子の7%、女子の12・5%がリストカットなど何らかの自傷行為を経験したことがあるという。

8月の改正「自殺総合対策大綱」には命の大切さを実感できる教育の推進が盛り込まれた。

命の大切さを実感できる教育とはどうできるものなのか。神奈川県茅ケ崎市立浜之郷小学校の元校長の大瀬敏昭さんは、がんと闘う自分の姿を通じて、命の大切さを訴える授業を行い、16年に亡くなった。

大瀬さんはその著書「輝け!いのちの授業」(小学館)で記している。

《『いのちの授業』を行う教師自身が、どれくらい自らの命について真剣に向き合っているかということが求められる。授業としての『いのちの授業』では、本当に子どもたちの心に響く授業となるのであろうか》

腰塚さんはいう。「教育の専門家がいくら話しても『そんなこと、おまえに言われたくない』と子供たちは反感を持つ。つらい思いをしているやつの気持ちは同じ思いをしたやつにしかわからない。共感することが大事なんです。ぼくの経験から、なにか感じてくれればいい。それがぼくの『命の授業』です」