「でかした。よくやったぞ」-三宅義行
2012年8月17日(金)(プレジデントオンライン)
■三宅義行(ウエイトリフティング日本代表選手団コーチ)
ロンドン五輪の女子重量挙げで銀メダルに輝いた三宅宏美の父であり、コーチである。12年間。二人三脚で世界を目指してきた。その集大成の最後の五輪。最後のジャークの試技の直前、父は娘に耳打ちした。「これを挙げたらメダルだぞ」と。
見事、娘はバーベルを持ち上げ、銀メダルを決めた。走りこんでくる娘に、父は叫んだ。「でかした。よくやったぞ」。表彰式のあと、娘は父の胸にメダルをかけた。ふたりが写真に収まる。最高の笑顔だった。
父の義行は66歳。1968年メキシコ五輪の銅メダリストである。あの三宅兄弟の弟となる。女子重量挙げが採用された2000年シドニー五輪を見て、中学3年生の宏美が「重量挙げをしたい」と言ってきた。
過酷な練習が始まった。けんかもした。娘が家出をしたこともある。でも、いつも娘は父の元に帰ってきた。一緒にバーベルを挙げ続けた。最近は「1日7時間」の猛練習を積んできた。「だから、何が起きても動じることはない」と自信を膨らませていた。
3度目の五輪だった。実は日本からのロンドンへの飛行機で一緒になった。エコノミー席。飛行機に乗り込むやいなや、父は機内を見て回り、競技に臨む娘のため、横になれる並んだ空席を確保した。「おい。こっちだ。ここで休めるぞ」。
よき父であり、よきコーチである。12年間、同じ目標を抱き、二人三脚で歩んできた。父はちょっぴり、誇らしげに言った。「(バーベルを)挙げたのは宏美だが、自分は12年間、ずっとサポートしてきた。一緒に戦ってきた」。愛娘を見る目はとてもやさしかった。