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「もう抜かれとるやないか」、電子立国日本の再挑戦はあるか

Business Media 誠より

1991年に『電子立国 日本の自叙伝』というNHKスペシャルが放映されました。内容は半導体およびマイコンの開発について、その黎明期からその当時に至るまでの話で、当時日本が絶対的な競争力を持っていたDRAMを中心とした半導体や電子計算機の事業に焦点をあてたものでした。

その番組の中で今でも私が覚えているのは電卓の開発競争のエピソードです。その当時のカシオ計算機とシャープの、電卓における熾烈な小型化や価格競争などの開発競争は大変なものでした。その当時の(どちらかの企業の)開発者が「日本の中で熾烈な電卓戦争をしている間に、ふと周りを見渡してみると日本以外の企業はいなくなっていた」と述べていたのです。

ご存じのように半導体はもともとテキサス・インスツルメンツなどの米国企業が技術開発においてもリーダー的な存在でした。しかし、圧倒的な量産化と電卓を始めとする電子機器の需要により、日本の大手電機(電気)メーカーによる生産力やコスト競争力にまったくかなわなくなってしまいました。その結果として先の開発者のコメントにつながったのです。

最近、日経新聞がこのNHKスペシャルの主人公役の1社であるシャープに関する特集記事「シャープの決断」を掲載していました。この記事は鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープへの出資・提携について取り上げており、かなり内部に入り込んだ取材をしており非常に興味深いものでした。私自身もシャープが世界最大のEMSである鴻海グループより出資を受けるという発表にはビックリしました。しかも、これは日本の電機大手としての初めての本格的な国際提携だということです。

昨今の日本の電機・電気メーカーの状況は『電子立国 日本の自叙伝』に描かれている米国企業の状況と似ています。鴻海精密工業iPhoneiPadの生産を中国の子会社で行っていることはよく知られています。全世界統一仕様の圧倒的な数量をベースにした生産力。安価な労働力による低コスト生産。圧倒的な調達力を活用した低コスト調達。このような巨大企業を前に日本企業のコスト競争力はまったくなくなってしまいました。

追い打ちをかけるような円高、震災、タイ洪水。技術的優位性があるうちは良いものの、電子・電気機器はすでにモジュール化が進んだ汎用品ビジネスになっています。日本企業は何らかの技術的優位性を見出そうとして、なくてもよいようないわゆるガラパゴス技術に自己満足している状況が続いていたわけです。これらを日本企業における構造的な問題ととらえるなら、今回のシャープの決断は『電子立国 日本の自叙伝』に描かれている世界同様、構造的な問題を解決するための決断だったのかもしれません。

ただし、ミクロで見た場合、「構造的な問題だけが今の状況を招いているか?」というとそうでもないことが分かってきます。

●「もう抜かれとるやないか」

シャープの決断(3)には資本出資の交渉のやりとりで「日本とは変な国だな」という鴻海の薫事長である郭台銘氏のコメントが載せられています。シャープは有価証券報告書の主要株主の一番上に鴻海が載せられることを嫌い、出資母体を4つの企業に分けるように鴻海側に交渉したそうです。「金融機関が一番上にいればいいのか」「そうだ」「日本というのは変な国だな」というやり取りがあったと書かれています。

シャープの決断(4)にはこんなエピソードが載っています。「鴻海の人は『シャープの社員の頭はコンクリートだ』と言っている」、シャープ相談役の町田勝彦氏のコメントにあるのは、1980年代米RCA社のOEMを担当した当時のことを振り返り、「我々も寝る間も惜しんで仕事をした。鴻海との提携で、あのダイナミズムを取り戻せたら」。

シャープの決断(5)では2011年8月に町田氏が鴻海の技術開発拠点を訪れた際に「もう抜かれとるやないか」という印象を持ったとあります。「人件費が安いとか、そういう次元の話やない」とも書かれています。

5月29日の日経誌には町田相談役のインタビュー記事が出ています。「シャープも含め日本の家電メーカーは昭和30年代からの成功体験で保守的になったところがある。鴻海の仕事のスピード感とか、ものの考え方とかをシャープに植え付けたいと思った」「ずいぶん悩んだが、この提携は日本のデジタル家電メーカーが窮地を脱する1つの解決策だと信じている」と。

これらの記事に見られるように日本企業は構造的な問題だけでなく、過去の成功体験から中途半端に図体だけ大きな巨像になっていたのかもしれません。今後のシャープを始めとする日本の電機・電気メーカーの再挑戦に期待したいと思います。

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太字のコメントがやたらと気になった。
栄枯盛衰。
驕れる者は久しからず。

どこかの会社も二度と同じ轍を踏まないようにと願う。