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メンバーの能力を最大限引きだすリーダーの条件

『個人、チーム、組織を伸ばす 目標管理の教科書』の著者による連載の最終回は、部下がモチベーションを高め、目標達成に自律的に取り組むために必要なリーダー像と、2つの打ち手を紹介します。

■マネジャーに必要な「真摯さ」とは
連載の最終回は、目標管理(MBO−S)に取り組むリーダーの条件について考えてみましょう。
ドラッカーは、マネジャーの資質は「真摯さ」だと述べています。
私もそれが絶対条件だと信じていますし、折に触れて痛感します。

私の周りで、『もしドラ』を読んだほとんどの人たちが、「真摯という言葉を重く受け止めた」、あるいは「心に響いた」と言っています。

若い人の中には、「生まれて初めて聞いた言葉だが、ものすごく気にいった!」と興奮気味に話す人もいるくらいです。
多くの人が真摯さに共感を抱いている証しだと思います。

真摯とは、「真面目でひたむきな態度」であり、『黒字浮上!最終指令』の著者も、「人間主義経営」というキーワードを用いて、ドラッカーと同様の考え方を示しています
(それも当然です。『黒字浮上!最終指令』はドラッカーのMBO-Sの実践物語なのですから……)。

では、真摯さを職場のリーダーの行動に置き換えると、具体的にはどのような行動をすることなのでしょうか。

私は、以下の2つが大切だと考えます。

1.「Y理論のスタンス」で自分にもメンバーにも接すること
2.メンバーに、「ストローク」を機関銃のように打ち込むこと


■リーダーによる「ひと引っ張り」
連載の第2回では、内発的動機づけ(自分で自分を動機づけること)の一つに、仕事の面白さがあると述べました。
「あっ、そうだったのか!」という気づきや「やったぁ〜」という達成感を味わうことです。

仕事の面白さは、仕事にのめり込む以外には実感できないものです。
しかし、そう頭ではわかっていても、ギリギリ背伸びした目標の達成という修羅場に入るのが怖くなり、躊躇する人も稀ではありません。

そんなとき、リーダーはどうするか。
「修羅場へのひと引っ張り」をしてあげるのです。

「悩む前に行動しよう!」
「行動しながら考えて、行動を修正する。そういう仕事のやり方に切り替えよう」
「逃げてはダメだ。オレがサポートするから、一緒に修羅場に入ろう。そうすれば、仕事の面白さがついてくる」

そう励ましながら、リーダーはメンバーを修羅場の中に、ぐいっと一歩引っ張り込む。
これがリーダーのものすごく大事な役割です。

■ノルマ管理との違いは?
研修などで、「ひと引っ張り」の話をすると、決まって「それではノルマ管理と一緒じゃないか?」という、疑問とも非難とも取れるような質問に出会います。

確かにそうです。

リーダーが「X理論」(『新版・企業の人間的側面』/ダグラス・マグレガー著/産能大学出版部/1966年)でメンバーに接すれば、まちがいなくノルマ管理の出現です。

X理論の信奉者は、「仕事に必要な意欲・能力・責任感は、オレをはじめとする一部のエリートだけのものであり、一般庶民には無縁な存在だ」という目でメンバーを見てしまいます。

私の主張する「ひと引っ張り」と、ノルマ管理との違いは、リーダーがX理論ではなく、「Y理論のスタンス」を身につけているかどうかです。

松下幸之助は、Y理論の世界を「人間の本質は、磨けば輝くダイヤモンドの原石」(『人生心得帖』/松下幸之助著/1984年/PHP研究所)と表現しました。
実にうまい、Y理論の言い換えだと思います。

『普通の人間は意欲・能力・責任感を潜在的に持っているが、発揮度にはバラツキがある。』

そう人間を肯定的に捉えて、潜在能力の顕在化に向けた努力をするのがY理論の世界です。

そのY理論のスタンスで、リーダーはメンバーをグイとひと引っ張りします。

修羅場に入るのは、たしかに苦しい。過去のオレもそうだった。
しかし、チャレンジ目標の達成は避けて通れないみんなの責務だ。
そう腹をくくって修羅場に飛び込めば、必ず仕事の面白さが味わえる。
オレと一緒に修羅場を乗り切ろう。

そういう思いをメンバーに、目と心で、優しく熱く伝えていく。
それがY理論のリーダー行動であり、そういうスタンスを持つリーダーに、メンバーは真摯さを感じるのだろうと思います。


■どうしたらY理論が身につくのか?
では、リーダーは、Y理論のスタンスを身につけるために、どんな努力をすればいいのでしょうか。

一つは、リーダーが自分自身をY理論で見つめること。
つまり、自分の中には自分の知らない可能性が潜んでいる、そう無条件に自分に言い聞かすことが大切です。

生涯発達心理学の研究からも明らかなように、たとえ年をとっても、人間の中には生涯にわたって成長し続ける能力があると言われています。

たとえば、「ワザ(技)を究める」という世界です。いわんや、若い世代の人たちは「自分は無限の可能性を持っている」と考えて、まず間違いないでしょう。

また、自分の持ち味や強みを自覚して、それに磨きをかけることもY理論のスタンスづくりを促進します。

私は、他人から、「気の利いたジョークの一つも喋れない。面白さに欠ける人間だ」と言われることがあります。
カチンときますが、事実だから苦笑いをしながら認めます。
ユーモアたっぷりの喋りができたらいいなぁ〜、と思うこともしばしばですが、だからといって落ち込むことは最近ではありません。
40歳くらいの時に、面白さに欠ける裏返しは「真面目さ」なんだと気づき、今では真面目な自分が好きで、真面目さを楽しんでいます。

リーダーにとって、もう一つ大事なことがあります。
それは「メンバーの育成・支援に成功した」という成功体験です。

メンバーのチャレンジ目標の設定や、その達成プロセスを、個人の成熟度に応じて一所懸命に支援する。
結果として、メンバーが目標達成に成功する。あるいは、いいところまで追い詰める。

これはメンバーの成功体験であると同時に、リーダーの成功体験でもあります。
つまり、メンバー支援に関する成功体験の蓄積が、リーダーのY理論のスタンスを強化する、ということなのです。


■関心と愛情を注ぐ:ストロークの実践
リーダーの持つ真摯さの具現化行動のもう一つは、肯定的なストロークが打てるかどうかです。

ストロークとは、他者に対する関心と愛情の合図であり、どんな人間でもそれなしに生きていくことが難しいと言われている「人と人との心の触れ合い」です。

『黒字浮上!最終指令』の沢井社長は、毎日午後になると工場の現場に出かけます。
汗とほこりにまみえて働いている人たちに、ストロークを打つためです。

「子どもさんが生まれたんだって!?」「男なの、それとも女なの?」「そりゃぁ、よかった」という具合に、あっちこっちに声をかけながら工場の中を一巡りするのです。

社長から関心と愛情の合図をもらった従業員は、笑顔でストロークのお返しをしてきます。
そういう、関心と愛情のキャッチボールがごく自然に行なわれている状態が、「よい人間関係」であり、それが縁あって一緒に働く人たちの絆を強めるのです。

「ご苦労さん!」「体具合は大丈夫か?」
このリーダーの一言で、メンバーはどれだけ心が癒されて、明日への活力が生まれることか。

職場のリーダーの肯定的ストロークは、働く人々のヤル気の源泉として不可欠なものです。


■ときには必要な否定的ストローク
ただし、ときには「否定的ストローク」が必要なこともあります。

私は相手に面と向かって、否定的ストロークを発信するのが苦手です。
「人間関係が壊れるのでは?」という不安があるからです。
事実、否定的ストロークをもらった相手は、瞬間的にはムカッとした顔つきになります。

しかし、それでも、職場のリーダーは、必要を感じたならば、否定的ストロークをきちんと打ち込むことが必要です。

たとえば、メンバーが手抜き仕事をしたり、同じ失敗を何回も繰り返すときなどは、「しかる・注意する」というストロークを発信するのがリーダーの役割であり、それがメンバーに対する真摯さというものではないでしょうか。

たとえ否定的なストロークであったとしても、そこに関心と愛情が込められていれば、相手は比較的素直に受け止めてくれるもの。
それが私の経験ですが、否定的ストロークの打ち込み過ぎは禁物です。真剣にしかれば、少ない量でも十分効き目があるからです。

それに対して、肯定的ストロークはいくらあってもたりない。そう考えて、9対1くらいの比率で、肯定的ストロークを多めにすることがリーダーには望まれます。

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この記事の最後に「ミドルが元気を出すには、自分なりのマネジメント仮説を持つことが必要です。」
とあった。

ふと、これに近いことを実践している人が、いる、なぁ…。