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講演で伝えたい「困難を突破するために必要なもの」とは何か


2014年12月19日(金) PRESIDENT Online スペシャル 掲載

■身の丈を越えていても選ぶべき「ベストな選択肢」

いよいよ2014年が終わろうとしています。11月の Thanksgiving Holidaysから漂いはじめたホリデーシーズンのムードはまっさかりです。

この1年をふりかえるといろんなことがありました。私にとって一番大きかったことといえば、やはり東証マザーズに上場できたことです。米国企業が単独上場するはじめてのケースです。ただただ頑張ってくれた社員と関係者の皆様には、感謝してもしきれません。

会社の上場を話題にいろんなメディアがとりあげてくださったせいか、今年は大学や大学院での講演の依頼もいただくようになりました。これからの時代を担う学生たちとの会話から学べることもあり、個人的にはとても有意義な機会だと考えています。

講演に招かれるきっかけはさまざまで、facebook経由で学生さんから「話を聞きたい」と、直接依頼をいただくこともあります。私も学生だった頃は会いたい人には会いにいっていましたので、積極的にコンタクトをしてくれる姿勢に懐かしさを感じます。会って話を聞いてみたい人がいたら 躊躇せず、まずは連絡してみてほしいと思います。

私が講演依頼を受ける理由は、自分の人生は思ってもない方向に道が開けることもありますし、自分の意思次第で人生は変えられることをこれから社会に出る学生に伝えたいからです。つい最近あった慶應義塾大学医学部の同窓会では、まさか私が会社を興して上場するなんてまったく想像が出来なかったと知人に言われました。あの頃の私は、もくもくと研究に明け暮れる生活を楽しんでいましたし、起業するとかしないとかを考えることなどありませんでした。

ただ、私には世界中の人を失明から守りたいという明確なビジョンがありました。仮説を立てて検証し、次に進むということをやっていくうちに起業という選択肢に出合ったわけです。多様な選択肢からベストを選ぶときは、出来るか出来ないかを基準にするのではなく、身の丈をはるかに越えていても目標を達成するための選択をする。これをやるかやらないかで次の選択肢も変わってきますから、医者、研究者、起業家という私のキャリアチェンジはそう真似できることではないかもしれませんが、事例としてはわかりやすいのではないでしょうか。

■つらさのなかにもやり抜く糧を見いだす

医者が起業して経営者になるケースはかなり稀ですし、アメリカでのビジネス実績もありませんでしたから、資金調達は難航しました。お会いした投資家に断られてしまったときも、その時いただいたフィードバックをもとにまた一歩、出資してくれる投資家に出会える確率があがったのだとポジティブに考え 、諦める気持ちは微塵もありませんでした。それほど自分の手で世界から失明を減らしたいという思いが強かったのだと思います。

乗り越えなければいけないことを列挙して出来ない理由を考えるのは簡単です。ではアントレプレナーの話を聞いて成功する法則を見いだせばよいかと言うとそうでもない。同じ成功は存在しないと考えたほうがいいからです。根底で共通しているとしたら、結果を生まずして諦めるという選択をしないことくらいで、成功のパターンは人それぞれですから。

アントレプレナーが成功したプロセスを真似るのではなく自分がやり抜くためには何が必要なのかを考える糧にすることが大事だと思います。また、プロセス自体が楽しめるようなプロジェクトに出会うことも重要です。出資を仰ぐたびに、投資家に断られるのはつらかったですが、新しい人との出会いや、いろいろなご意見・ご指摘は大変勉強になり、つらいなかにも楽しみを見いだすことができました。

■未来の「フロントランナー」に幸あれ!

先日、私の母校・慶應義塾大学の公認団体Front Runner(http://www.front-runner.net/)の依頼で講演(http://bit.ly/1u1E7jE)をしました。学生だけではなく一般の方も出席できる講演会で300人を越える方々が会場にお越しくださいました。起業を目指す方もいれば、未来のキャリアを考えている方もいました。たった1人のアイデアとわずかな投資家とビジョンに共感する仲間ができれば前に進めることや、「前例がない」に惑わされないこと、価値ある失敗をすること、小さな成功の積み重ねから信頼をかせぐことなど、私が経験してきたことをお話しました。

この講演会を運営していた学生たちと後日ランチを一緒にすることになり、彼らの活動について話を聞かせてもらいました。団体を運営する彼らは2年生で、4月から12月まで毎月テーマを設定して週に1回、学習やディベート、そのテーマで活躍する人物を講演に招くといった活動をしているそうです。お会いした代表の岸本さん、副代表の内田さん、企画の宮村さん、広報の矢部さん、それぞれに志を持ってFront Runnerに参加されています。業界を問わずいろんな方たちの生き方に学び、 将来を見据えて視野を広げたいという話をされていました。

社会に出れば人生の岐路に立つこともあろうかと思います。その時にFront Runnerで学んだことや考えたことが役に立つかもしれません。今やっていることが後の人生にどんな影響を及ぼすかなんてわかりませんし、それが後の自分の助けになることは大きな喜びになります。 今月をもって次の代に運営をバトンタッチする彼らが、今後どんなキャリアを選ぶのかが楽しみです。

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窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者・会長兼CEOで、医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』がある。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp

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