北極海の最近まで常に海氷に覆われていた海域で、約5メートルの高波が観察された。科学者は、これを地球温暖化の新たな徴候だと見ている。
波は海氷を砕き、より多くの太陽光が海水に吸収されて水温が上がる。そしてさらに氷が溶け、風が発生し、波が高くなる。
アラスカ北部のボーフォート海では、最近まで波の観測が行われていなかった。この地域は常に海氷に覆われていたため、波が形成されなかったためだ。しかし現在、ボーフォート海の大部分が9月まで氷のない状態となっており、2012年に同海域の中央に、波の高さを計測するためのセンサーが設置された。
「波の頻繁な形成は正のフィードバック作用を持ち、夏には北極海に海氷がまったく見られなくなる可能性がある」。シアトルに本拠を置くワシントン大学のジム・トムソン(Jim Thomson)氏とミシシッピ州にある米国海軍研究所 (NRL)のエリック・ロジャース(Erick Rogers)氏は「Geophysical Research Letters」誌に発表した論文の中で述べている。
風が外洋上で長い距離を移動すると、それにつれて波の高さが高くなる。海氷の存在は風の移動距離を制限し、波の形成を抑えている。 「今後、北極海の季節的海氷域は縮小すると予想されるため、高い波が形成されるだろう」と著者らは指摘する。
北極海で研究に携わる物理海洋学者ダレク・ボグッキ(Darek Bogucki)氏は、今後、高い波の形成は北極海でよく見られる現象になるかもしれないと述べている。同氏は今回の研究には参加していない。
ボグッキ氏によると、高い波が頻繁に形成されるようになると、海岸は高さを増す波に打たれて激しく浸食され、海岸線が変化する可能性があるという。大気と海との間で交換される二酸化炭素の量も変化し、北極海が大気中に放出する温室ガスの量も増加するおそれがある。
ボーフォート海の開水域は年ごと0に変化するが、海氷域が最大となる4月には開水域はほとんどなくなり、海氷域が最小となる9月には1000キロメートル以上となる。1970年代の終わり以来、北極海の海氷域は縮小し続けているが、この傾向は2002年からさらに加速している。2012年9月18日、強風を伴う暴風雨が発生した際に5メートルの波が観測された。