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1週間前:資料集め&ポイントの明確化に徹する

「本番1週間前・1日前・1時間前」の鉄則【1】
PRESIDENT 2011年2月14日号
準備の初期段階にやるべきことと直前でもできることは異なる。万全の体制で当日を迎えるためのコツを、厳しいスケジュールの中で成果を出してきた2達人が伝授する。

ライフネット生命副社長 岩瀬大輔
何らかのプロジェクトを行う際や大きなイベント、プレゼンテーションの準備をするときには、自分なりの時間感覚を持つことが大事です。マラソンに例えれば、今どのあたりを走っていて疲れ具合はどれくらいか、ラストスパートするためには、どれくらいの余力を温存すればいいかというペース配分を常に意識する。

人によってペースは違うので、まずは自分の勝ちパターンを知り、ペース配分をします。早めに取りかかって先行逃げ切りが得意なタイプもいれば、終盤に馬力を発揮して追い込むタイプもいます。私の場合は後者で、プレゼンの準備や原稿を書く際、本番3日前の段階でまったく取りかかっていなくても、材料が揃っていたり構想や切り口が見えていたりすれば、追い込んで最後にはいいアウトプットが出せるというのが経験則になっています。

仮に早く資料づくりに取りかかったとしても、おもしろい切り口が見えてこないと直前で不安になってしまう。

そのため、たとえば準備に1カ月期間があれば、最初はとにかく材料を集めることに専念します。本を買い込み、ネットで関連する記事やブログを探してダウンロードする。読まなくてもいいから、まずは材料を集めて手元に置いておくのです。

1週間くらい前までには、それらにパラパラと目を通しながら、自分に合う本や資料を見つけ出して、問題の勘所をつかみます。与えられたテキストで勉強しなければならなかった学生時代とは違うのだから、1冊に決め打ちせず、数冊を大人買いして自分に合う本を探したほうが効率的です。

このとき重要なのは、本や資料で数値データを拾いつつ、自分なりに論点や訴求点を切り出していくことです。そのうえで第三者に当たり、不明なところをつぶします。

先般、税制と社会保障というテーマでテレビの報道番組に出演する機会がありました。出演を打診された5日前の時点では、この分野についての知識はほぼ素人といっていいくらいでした。

5日しかない中で、まず何をしたか。ざっと資料集めをする一方で、財務省金融庁厚生労働省の知り合いに連絡して、専門家から話が聞けないか相談しました。すると幸運なことに、直接レクチャーを受けることができました。また、知人の外資投資銀行のチーフエコノミストを昼食に誘って話を聞いたりもしました。このように、社会保障税制改正に携わる人たちの説明を受けて論点ペーパーをまとめたので、番組出演の前日には、それなりの議論ができるようになっていました。

日々の仕事の中でも、この手法が使えます。たとえば上司から、未知の業界についての資料づくりを依頼されたとします。まずはざっと資料を集め、仮説でかまわないので論点を切り出し、その分野に明るい人に直接当たる。そうすれば、短期間でも十分な準備ができるでしょう。

■ヤフー執行役員 事業戦略統括本部長 安宅和人
1週間前、1カ月前の段階ですべきことは何か。それは、「最終的にこのレベルの答えを出さなければならない」というものを、言葉とビジュアルでイメージすることです。

マッキンゼー時代、ヘルスケア領域の企業からデューデリジェンス(事業精査)のプロジェクトを請け負ったことがあります。ある事業体を買収する価値があるかどうか、1週間で答えを出してCEOにプレゼンせよというものでした。

これほど短期間だと、1時間のロスが致命的になり、半日無駄にすれば爆死確実といえるプロジェクトです。このときはあまりに短期間だったため、最終形のイメージをつくる前にメンバーのモチベーションを高めるステップを取り入れました。

「どんなに不可能と思えても、クオリティの高いアウトプットを出し、クライアントに喜ばれてわれわれも楽しめる究極の事例をつくろう」。4人のプロジェクトチームのマネジャーだった私はこう考え、最初の1時間でアスピレーション(向上心)を高めるためのチーム目標を皆で立てました。

その後、最終形のイメージづくりを始めます。まず、どういう問いに対してどういう答えを出さなければならないのか、1〜2時間かけて徹底的に議論します。CEOが判断するために不可欠なものは何か、これにケリがつかなければ論理的な答えが引き出せないというポイントの洗い出しです。

初日の午前中に5〜6点ほど、カギになる論点を明らかにし、こういうレベルでこういった答えが出れば大丈夫という最終形のイメージをつくります。プロジェクトでもプレゼンの準備でも、期限が決まっているものに取り組むときは、初日のうちにこの作業を行うことが成否を分けるともいえます。

午後からは作業設計をします。ゴールまでのロードマップをつくり、役割分担をして一気に取りかかりました。結果、予備にしていた週末も使わず、期日どおりにやり遂げることができました。

ここで挙げたのは極端な事例ですが、コンサルティングのプロジェクトを2週間や10日で行う場合、初日の段階で明確な最終形のイメージを持てないようでは、数千万円レベルのフィーはもらえないというのが、これまでの経験を通しての私の実感です。

脳科学の観点からいえば、脳は脳自身が「意味がある」と思うことしか認知できません。最初の段階で、どのような話に意味があるかという最終形のイメージを脳に明確に刻み付けることで、それに類する情報に対するクロスレファレンス(相互参照)が脳の中でしやすくなります。結果、アウトプットの精度が高まるのです。またポイントが明確になって、活動に集中しやすくなります。

最終形のイメージを持ったら、次はそこに導くための全体的な論理骨格、ストーリーラインをつくっていきます。つまり、どういう結論をどういうロジックで裏付けていくかというプレゼンの流れを決めるのです。

ストーリーラインをつくるときには、ここを見極めておかないとストーリーが根底から崩れてしまうというサブ論点がいくつか出てくるもの。時間が限られているのですから、これをさっさと見切るのが勝負です。詳細な調査は後回しにして、早急に検証して論理的におおむね大丈夫そうだという目処をつけます。

描いたストーリーラインは常に概観し、どこの論理が弱いか、話のつながりに無理がないか、バランスがおかしくないかなどを毎日確認します。日々、枝葉を分析・検証しながらアップデートしていくのです。これを繰り返すことで、プロジェクトが無事着地できるかどうかが見えてきます。