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父親の出番「自信を失ったわが子」の心を燃やす!【3】医療法人青流会理事長 上村順子

2012年7月29日(日)(プレジデントオンライン)
■褒められている子はオーラが違います
今は社会の基本的な安心感が消え、誰もが自分に対する肯定感を失っています。父親も含めて自信を持つのが難しい世の中で、自分のことが嫌いな子が大勢いて、「消えたい」「自分を消したい」とリストカットしたり摂食障害になります。

そこまでいかなくても、自信がない学校に行きたくない、勉強ができない等々、悩みのない子などいないのでは。特に対人関係で悩む子が多いですね。ほかの子を当たり障りなく扱ったり、周囲に合わせたりして、子どもは子どもなりの世界観の中ですごく苦労しています。

いずれにせよ、お父さんの出番は思った以上にあると思います。子どもにとって母親より少し距離のある憧れであり、大事な存在。どう動くかによって家族は大きく変わります。半面、家族はお父さんにいろんなものをプレゼントしてくれるはず。この夏に何かきっかけを掴むとしたら、お父さんがそのプレゼントを再発見し、その過程でコミュニケーションを取るのがいいのではないでしょうか。

例えば自分の子どもを、隣近所の子が遊びに来た、というイメージで少し違う角度から見直し、いろいろ質問をしてみる。質問してくるということは、関心があるということ。子どもにとって凄く嬉しいことです。答えが返ってきても、それをあれこれ評論してはいけない。「それはダメだよ」などと威張らずに、いかに子どもを褒めるかを練習すればいい。

人は見方次第でいろんなことを褒められます。そうすれば家の中に笑いが生まれるし、お父さん自身が自分を肯定する練習にもなる。普段まったく見向きもしていないことは家庭内に山ほどありますから、子どもと一緒に家の中を“探検”し、「教えてよ」「最近はこんなものがあるのか」などとコミュニケーションを取ることで、会話のチャンネルをたくさんつくっておく。すると夏休みが終わり、互いに忙しくなっても、また会話がしやすくなるのではないでしょうか。

現場で見ていても、褒められて大事にされている子はオーラが違います。容姿や勉強の出来は無関係。テストで100点取っても「当たり前だよ。お父さんは必ず100点取ったから東大に行けた」などと貶(けな)される子もいますから。

■「悩む力」が足りぬ今のお父さんたち
心にトラブルを抱えた子どもとその母親が求めているのは、「カミナリ親父」とか「友達パパ」といった表面的な父親像ではなく、もっと内面的な、人間の存在の根幹に関わるような部分です。

しかし今、「友達パパ」も「カミナリ親父」も普通のお父さんも、こうした子どもたちの危機にまったく関わろうとしない。これが大きな問題なのです。

現場でお会いするお父さんは、「気合が足りない」などと心の病気そのものを否定する。お金も出さず治療にも行かせず、「おまえがいけない」と妻を責める。子どもは余計怖がって病気が進行する。リストカットなど激しい行動に出て初めて病院に来ますが、連れてくるのは母親です。お父さんは仕事を理由に面接にも来ないし、来ても医者の話を聞きません。お父さんが変わるためには一度、自分がどういう父親かについて悩む必要がありますが、その「悩む」に到達するまでのハードルが非常に高い。

今のお父さんたちは、悩む力や自分を振り返る力がすごく弱いと思います。いい幼稚園、いい学校、いい大学へ通い、それをずっと親が面倒を見て、自宅からそのまま結婚する男性は、いいポジション、いいお金といった目に見えるわかりやすいものを追い求め、おおかた思考が非常にシンプル。世の中ではいろんな見方、考え方を受け容れていかなくてはならない、といった思考のトレーニングをあまりなさっていない感じがします。

奥さんも似た価値観の方になりがちですから、できた子どもは二人して悩まないで育てるというか、なるべく世間に合う価値観の下で学校に行かせようとします。子どもは放っておくと“エイリアン”になりますから、ペット化して一生懸命箱に入れよう、箱に入れようとする。

それに耐えられなくなった子どもが暴れ始めます。いい子でしかいられなかった、自分の感情を出したことがない、生きてる実感がない、でも自分が何を求めているのかわからない……親は「おまえをどれだけ可愛がったか」「どれだけお金をかけたか」と言いますが、子どもの知ったことではないでしょう。

しかし逆説的ですが、思春期に悩まないと、親とは違う自分の人生をつくり上げることができなくなります。一生自分を殺して生きることにもなりかねません。自信をなくして当たり前。悩んで当たり前。お父さんにもいえることですが、悩むということは悩む力、他人のことを考える力を持っていることでもあります。

ですから、悩みと闘う子どもを、上から目線でなく一人の人間としてリスペクトしてあげてください。人が尊敬できるというのは大事なこと。家族で褒めあうだけでなく、互いに尊敬しあうことで、社会でボロボロになったお父さん自身の自尊心も取り戻せるかもしれません。