さんぽ

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28歳までのキャリアは“勢い”、29歳からのキャリアは“意志”

私は自分が行う研修で、いつも次の言葉を紹介している。

「20歳の顔は自然の贈りもの。50歳の顔はあなたの功績」――ココ・シャネル(シャネル創業者)

本当に人の顔は、10年、20年と経つうちに、その人の歴史と内容を表すものになる。
偏狭な人は顔つきも偏狭になるし、寛大な人は寛大な顔つきになる。銀行勤めの人は銀行員っぽい顔になってくるし、ベンチャーの人はベンチャーの顔になる。
職人の方は否応なしに職人顔になる。漁師一筋、農業一筋の方々は、味わい深き漁師顔、農夫顔になる。また、役人には役人然とした顔というのがあるように思える。

顔は目で見て分かりやすいものだが、目に見えないキャリア(職業人生)でも原則は同じ。10年、20年を経るうちに、確実にその人の内実を表すようになる。

だから、50歳の時点で、どんな仕事に就き、どんな内容のことをやっているか。
そしてそれまでにどんなものを世に残してきたかというのは、実は、自分のそれまでの生き方を表明していることにほかならない。

そんな意味を込めて、私はシャネルの言葉をこう言い換えて受講者に伝えている。

「28歳までのキャリアは、勢い。29歳からのキャリアは、意志。そして、50歳でのキャリアは、あなたの人生の作品」

人生の作品とは、仕事上で成し遂げた数々の実績はもちろんそうだが、その人の人格・人間性を含めて考えたいと思う。働くことはその人自身を作り上げる作業でもあるからだ。

20代と30代(正確には上に書いた通り、28〜29歳あたりが重要な境目)とでは、仕事・キャリアに向かう意識をがらりと変えなければならない。自分に問わねばならない問題の質が根本的に変わるからだ。

●職業人生で求められることとは
何十年と続く職業人生を航海に例えるなら、次の3つが求められる。

・自分という船を強く性能良く造ること

・ぶれないコンパス(羅針盤)を持つこと

・地図を持ち、そこに目的地を描くこと

1番目は、つまり知識・技能・経済力をどう身につけていくかという「自立」の問題である。2番目は、働く上での主義・信条・哲学・価値といったものをどう築き、どう自分を方向付けしていくかという「自律」の問題になる。そして3番目は、自分の仕事に意味を与え、どんな目的に向かって自分自身を導いていくかという「自導」の問題である。

20代での最優先課題は船をきちんと造ること、すなわち「自立」だから分かりやすいし、取り組みもしやすい。根気があれば何とかなる。

しかし、30代以降に求められる「自律」や「自導」の問題は、決して一筋縄ではいかない作業となる。

自らの価値観を真っ当に醸成し、ぶれないコンパスを持つこと。中長期の視野に立って創造的意志を起こし、自分が目指す方向性や像を地図として描くこと。それと同時に、そこからの逆算で不足する知識や技能を新たに習得して、船を補強すること――これらは、もはや「自分の仕事観」なしには解決できない問題である。

世の中には、知識本やハウツー本・成功本が数多くある。しかし、自分に仕事観を作らない状態では、これらの本に翻弄されるだけになる。常にそういう類のものを読んでいないと落ち着かない、あるいは、玉石混交の中から良いものを判別できないといったことだ。

仕事観を作ることで初めて、知識・技能・ハウツー情報に「頼る・振り回される」から、「生かす・取捨選択できる」へと変わることができる。

また、もっと重要なことは、良い仕事観を作れば、良い仕事観を持った人たちに引き寄せられ、良い仕事チャンスに恵まれるようになること。そうした中でコンパスが作られ、地図に目的地が描けるようになってもくる。20代終わりから30代にかけてこの回路に入ることこそ、その年代にいる働き手が得るべき最重要のものである。

すべてのビジネスパーソンに問いたい。

・就職時の勢いに任せて、いつしか仕事・職業人生を考えることがおざなりになっていないか?

・船の細かな性能向上(=知識・技能習得)ばかりに気を取られて、コンパスを作ること、地図を持ち目的地を描くことを忘れていないか?

・社内・社外を問わず、仕事観を共有できる人々(=同志)と出会っているだろうか?

経営者・上司・人事の方々にも問いたい。

・ひとりひとりの働き手が、自らのコンパスを醸成できるよう、また地図に目的地を描けるよう刺激しているか? 対話しているか?

・あなたの組織という港には、性能はそこそこ良いが、コンパスを持たず、目的地を描くこともできずに、大海原を渡っていけない船がたくさん停泊しているのではないか?