さんぽ

環境関連、武術、その他、気になったことをつれづれに。

異常気象の原因は、温暖化よりも森林減少ではないか

生物多様性至上主義者からの提案 二村 聡 2012年8月9日(木)

このコラムでも何度か表明しているように私は生物多様性至上主義者だ。内外を問わず「経済政策」や「国家安全保障政策」と「生物多様性保全」の利害がぶつかったら迷うことなく「生物多様性保全」を選択する。まあ、狂信者と言ってもいいだろう。なので、本項を読んで賛同する必要は全くないが、ビューポイントを複数持つと物事が立体的に見えてくるのも確かなので、そんなつもりでご笑覧いただければ幸いである。

■環境問題のチャンピオン「温暖化」

一般の人にとって環境問題で一番身近なのは温室効果ガス<注1>による地球温暖化である。

<注1>二酸化炭素以外にも多くの物質が温室効果を持つが、地球上に存在する量、人間活動と発生の因果関係から二酸化炭素をメーンターゲットとしているので本項でも「温室効果ガス≒二酸化炭素」と考えることにする。

「地球は人間生活に由来する二酸化炭素の過剰な発生によって温暖化の道を突き進んでおり、近年の様々な異常気象はこの温暖化ゆえである。このままだと南極の氷が溶けて海水面の上昇によりいくつかの島は沈没し、暑熱に耐えられずに動植物が絶滅する。人間が自分たちを含めたこの地球の生態系を維持する為には二酸化炭素の発生を抑制しなければならない」。後半の温暖化による地球環境の変化とその帰結については多少異論はあるにしても、社会全体を覆うコンセンサスはこんな感じではないだろうか。

狂信者である私は個人的には大変怪しいと思っているので、それについて書いてみることにする。あ、その前にはっきりさせておきたいのだが、二酸化炭素温室効果ガスであり、二酸化炭素の増加が温暖化を招くというロジックは実験室レベルで証明されている事実である。筆者もその点については疑問を持っていない。

■森林の減少の方が問題だ

まず問題になっている異常気象について考えてみる。

異常気象の定義が難しいのだが、局地的な豪雨、高温、大雪、竜巻、強風などは、最近確かに増えているような気がする。近頃のメディア(特にワイドショー的番組)では、こういう現象が発生すると短絡的に「地球温暖化の影響で…」と紹介されることが多いようだが、私はそんなことはないと思うのだ。

二酸化炭素の排出による微妙な温暖化がメーンの原因ではなく、どちらかと言うと、太陽光、水(水蒸気)、空気、温度差といったいくつかの気候要因を全体的にマイルドに調整する「森林」というバッファーが失われた結果、局地的に極端な気象状況が生まれていると思うのだがどうだろう。

つまり、森林の減少こそがすべての元凶なのである(狂信者の独断だから許されたい)。

考えてほしい、樹木が無く、水分の極端に少ない砂漠(あるいは土漠)は日中40〜50度という高温でも、夜間には急激に温度が下がり、地域によってはマイナスを記録することもある。極端な日較差を解消する、つまり日中の気温を下げ、夜間の気温低下を防ぐ役割を果たすのが、水(水蒸気)であり、それを生み出す植物の蒸散作用である。森林はその上、日陰によって気温を下げ、さらには根によって地表に雨水を蓄えて水の循環を緩やかにする。森林があることで、生態系を保全しやすい環境が生み出されているのだ。

もちろん砂漠には砂漠の、湿地には湿地の独自の生態系がある。しかし、最も豊かな生態系は森林にあると言って間違いないだろう。

人間はその森林を根気よく地道に破壊してきた。生活圏の拡大のためだったり、生活に必要な薪や木材を得るためだったり、目的は様々である。密林を切り開く努力は並大抵のものではなかっただろう。先人の努力にケチをつける気は無い。しかし、開拓によって失われた生物の多様性はもう2度と戻ることはないこともまた事実である。

二酸化炭素削減など“楽勝”だが、生物多様性保全は…

そもそも地球温暖化の解決法が二酸化炭素削減だけだとしたら解決は非常に簡単である。産業革命以降開拓された旧森林地域を徹底的に緑化すればいいのだ。<注2>

<注2>例えば二酸化炭素削減関連で計上している予算を植林に充てればいい。一番いいのは発展途上国(中国やインドを含む)の荒地を在来種で覆っていくことだ。それならば環境スワップで世銀やNPOから、ある程度の予算が確保できるはずだ。日本を含めた先進国が温暖化のシナリオを本当に信じていて、危機感を持っているなら、合計で兆円単位のお金を拠出することができるはずだ。それなら、何も問題はない。Just do (plant)it!である。

これは以前から方々で主張していることだが、二酸化炭素のコントロールは、結局のところ総量の問題であり、ほんとに解決を望んでいて、排出量削減が難しいのなら森林の拡張によって吸収を頑張ればよいのである。だが、生物多様性はそうはいかない。

前回のエントリーでベトナムジャワサイが昨年絶滅したことを書いた。そして先月ガラパゴス群島のロンサムジョージが死んで、ピンタゾウガメは絶滅した。

もちろん放っておいても絶滅する種は多い。しかし、人間活動による生育環境破壊が原因で絶滅した種は微生物まで含めるとそれこそ天文学的数字になる。生物多様性を守るなら今すぐあらゆる自然破壊活動をフリーズしなければならない。原子力発電を止めたように。

■「二酸化炭素≒温暖化」説に嫉妬する

筆者の暴論が果たして正しいのか?というのは正直どうでもいい。

現在、地球上で起こっている局地的豪雨とそれに伴う洪水、干ばつなどの様々な自然災害の原因を「温暖化」と決めつけ、その根本原因を二酸化炭素に一点集約した「リードの巧妙さ」に唸らされる。正直嫉妬すら覚えるほどだ。

今やメディアも産業界も一致団結して「二酸化炭素削減」を錦の御旗としている。国民もそれに同調して、二酸化炭素削減のためならまだまだ使える車を廃棄してハイブリッド車を買うし、冷蔵庫やエアコンも省エネモデルに買い替える。なぜなら政府がエコカー減税と言う助成金を提供しているし、エコポイントという名の販売促進費が家電にも住宅にも準備されているからである。

繰り返しになるが、「二酸化炭素≒温暖化」の商業主義あるいは利己主義について文句が言いたいのではない。生物多様性保全も「二酸化炭素」のようなキャッチ―なアイテムをみつけてエコポイント助成のような形で推進してもらいたいということなのである。

■何のために生物多様性保全するのか?

おそらく多くの日本人が、生物多様性保全した方がいい、と(漠然とだが)感じているはずである。しかし、“二酸化炭素≒温暖化タッグ”のような放置すること「イコール地球の破滅」的な絶対的危機感を喚起させるパワーはない。何より、じゃあ日々の暮らしの中でどうすればいいのかの「エアコンの設定温度を28度に設定する」ような具体的な方法論がないのである。逆に言うと産業界も明確な行動指針さえ決めてくれればすぐにビジネスモデルを作れるに違いない。

筆者は生物多様性至上主義の森林派である(スンニ派、シーア派みたいな感じで)ので、目指すは森林の保全と拡大である。その森林もプランテーションのような単一林ではなく、準自然林である。具体策はこうだ。

■「バイオマス発電の復権」を提案する

2010年現在日本全国に40万ヘクタールあると言われている耕作放棄地はすべて準自然林に転換する(2010年世界農林業センサス結果の概要参照)。加えて、2010年時点で日本の陸地は66.8%が森林に覆われているのだが、そのうちの20%強を占める国有林を準自然林に転換する。その際に伐採される木材は国のお金を使って製材すると民間林業者が被害を受けるので、すべてチップ化し、バイオマス燃料として発電に利用する。

770万ヘクタールある国有林の約40%が人工林であるから、約300万ヘクタールに相当する。1ヘクタール当たりの木材生産量は全国平均で375立方メートルなので(林野庁資料)、少なめに200トン程度と換算すると約6億トンが国有林の再生可能木質バイオ量ということになる。6億トンを20年間で1ローテーションするように利用するとすると、1年間で利用可能なバイオマスは3000万トンとなる。

木質バイオマスのみで発電している大型プラント「吾妻木質バイオマス発電所」(オリックス)の発電効率は1トン当たり約653キロワット時である(アジアバイオマスエネルギー協力推進オフィス)。上で計算した3000万トンに653キロワット時を乗じて、1世帯が1年間に必要な電力5500キロワット時で割ると、356万世帯という数字が出てくる。

ちなみに木質バイオマス専焼コストは、1キロワット時当たり17.4〜32.2円と試算されている(コスト等検証委員会報告書)。再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)によって1キロワット時当たり33.6円(未利用木材)で購入してもらえるので採算は合うのではないか。少なくとも損は出ないはずだ。<注3>

<注3>森林の専門家やバイオマスエネルギーの専門家の方が、木質バイオマスの発電は採算が合わないという、試算に基づく見解を出していることは把握している。木質バイオマスは発電エネルギー源とするには伐採や搬出などにかかるコストがあまりにも高いのだそうだ。したがって、木材として利用し、残材を活用し、廃材を木質バイオマスにする、というような利用しつくす戦略がないとコストが合わないらしい。また、さらに重要なのは発電のみではなく、発電に際し発生する熱を有効活用することだとのことだ。本稿では上記の2つの資料をベースに生物多様性至上主義狂信者の「たわごと」として書かれているのでご了承いただきたい。

あーいかんいかん、経済性など無視するのが原理主義者の立場だった。

もちろん自然林には一切手をつけない。人工林のうち、アクセスの困難な森林には伐採利用後順次、在来樹種を植林して準自然林とし、こちらは伐採を行わない保護林として維持する。残りの人工林は発電用の資源として、成長が速く、バイオマスとして優秀な樹種を植える。そして民間林業者の森林を遠隔地から順に30〜50%程度買い取って同じように半分を準自然林化しつつ、木質バイオマスを獲得していく。国内森林をどんどん準自然林化する一方で、木質バイオマス発電を普及させていくのがこのプロジェクトの肝である。

二酸化炭素に関しては完全にカーボンニュートラルであり、なおかつ在来種の植栽により生物多様性スワップの権利が発生するおまけがある。500万世帯分くらいの電力は賄えるように思う。誰かきちんと試算してもらえないだろうか?

森林国家はエネルギー大国でもあるのだ。エネルギー安全保障という点では、これに勝る計画はない、なにしろ自国生産である。2030年頃には地熱発電太陽光発電風力発電も徐々に普及していることだろう。となれば、原子力発電はもとより、化石燃料を利用した火力発電さえ、かなり縮小した発電事情になるに違いない。そして、日本の至る所に豊かな照葉樹林が現出し、山の餌が増えることで野生動物が農作物に被害を与えることも少なくなるだろう。そして皆さん、杉花粉の健康被害(花粉症)が極端に少なくなること請け合いである。

さあ、生物多様性至上主義に今すぐ参加しよう(笑)!

■参考文献
バイオマス本当の話: 持続可能な社会に向けて』(泊みゆき著、築地書館
『日本の森はなぜ危機なのか―環境と経済の新林業レポート 』(田中淳夫著、平凡社新書)
『森林異変-日本の林業に未来はあるか』 (田中淳夫著、平凡社新書)


−−−−−−−−−−

言ってること、おもしろい!
かなり納得した。