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われわれはブラックホールの中にいる?

2014年2月19日17時37分 ナショナルジオグラフィック式日本語サイト

(PHOTOGRAPH BY ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA/F. COMBES)  

 時計を巻き戻して、人類が生まれる前、地球が形成される前、太陽が輝き始める前、銀河が誕生する前、光さえまだ輝くことのできなかった頃に遡ってみよう。そこにあったのはビッグバン、138億年前の出来事だ。

 だが、その前は? 多くの物理学者は、「何もなかった」と答える。

 しかし、そう考えない異端の 物理学者も、わずかながらいる。彼らの説によれば、ビッグバンの直前には、生まれようとしている宇宙のすべ ての質量とエネルギーが、信じ難いほど高密度だが、有限な大きさを持つ1つの粒の中に押し込められていたと いう。この粒を「新宇宙の種」と呼ぶことにしよう。

 では、その種はどのようにして生まれたのか。 数年前から議論になっている1つの考え方は、われわれの宇宙の種は、自然界でおそらく最も極端な環境である 究極の炉、すなわちブラックホールの内部で作られたというものだ。とくに、ニューヘイブン大学のニコデム・ ポプラウスキー(Nikodem Poplawski)氏の説がよく知られる。

■マルチバース

 過去数十年 の間に、多くの理論物理学者が、宇宙は、われわれが暮らす宇宙1つだけではないと考えるようになった。この 宇宙は、無数の別々の宇宙からなる「マルチバース(多宇宙)」の中の1つかもしれないということだ。

 1つの宇宙が別の宇宙とどのようにつながるのか、あるいはそもそもつながっているのかという問題は、大きな論争を呼んでいる。すべては非常に思弁的な議論で、現時点では証明はまったく不可能だ。しかし、宇宙の種は植物の種のようなもので、基本物質が高度に圧縮され、保護殻の中に隠された塊となっているという考え方には説得力がある。この記述は、まさにブラックホールの内部で作られるものの説明と同じだ。

ブラックホールでは、重力があまりにも大きく、光でさえ逃げ出すことができない。ブラックホールの内側と外側を分けるその境界を、事象の地平線と呼ぶ。

■果てしない問題

 ブラックホールの底で起こっていることを確認するためにアインシュタインの理論を用いると、計算上、密度が無限大で大きさが無限小の「特異点」という仮説的概念に到達する。しかし、通常自然界では、無限というものは存在しない。アインシュタインの理論には、このような不調和がある。宇宙の大半については見事に計算できるが、巨大な力の前では破綻しがちなのだ。巨大な力とは、たとえばブラックホールの内部や、宇宙の誕生の瞬間に存在したような力である。

 ポプラウスキー氏らは、ブラックホール内の物質は、実際に、それ以上は押しつぶされない段階にまで到達すると主張する。この「種」は、信じ難いほど小さく、太陽の10億倍もの質量を持つかもしれないが、特異点とは異なり、現実に存在する。

 ポプラウスキー氏によれば、ブラックホールは自転しているため、圧縮のプロセスは引き止められる。自転は極めて速く、光速に近い可能性もある。この自転が、圧縮された種に巨大なねじれを与える。種は小さく重いだけでなく、ねじれ、圧縮されている。ばね仕掛けで飛び出すびっくり箱のヘビのような状態だ。

 それは突然、爆発するように飛び出すことができる。これがビッグバンだ。ポプラウスキー氏は「ビッグバウンス(大反跳)」という表現を好む。

 言い方を変えるなら、ブラックホールは2つの宇宙の間の導管、「1方通行のドア」である可能性があると、ポプラウスキー氏は話す。つまり、あなたが銀河系の中心のブラックホールに落ち込んだとしたら、あなた(少なくとも、かつてあなただった断片の粒子)は、最終的に別の宇宙に現れると考えられるのだ。その宇宙は、われわれの宇宙の中にあ るわけではないとポプラウスキー氏は説明する。ブラックホールは連絡路にすぎない。2本のヤマナラシの木をつなぐ地下茎のようなものだ。

 では、この宇宙の中にいるわれわれはどうなのか。われわれもまた、別の古い宇宙の産物なのかもしれない。それを母宇宙と呼ぼう。その母宇宙のブラックホールの中で鍛え上げられた種が、138億年前にビッグバウンスを起こした可能性がある。われわれの宇宙は以後ずっと急激な膨張を続けているが、それでも今なお、われわれはブラックホール事象の地平線の裏に隠れて存在しているのかもしれない。