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“逃げ出し転職”は絶対失敗する! 転職に向いている時・いない時の見極め方

 転職がうまくいくかどうかを左右する大きなポイントの1つに「タイミング」があります。キャリアの中では転職に向いている時、向いていない時があり、判断を間違えないようにすることが大切ですが、あまり意識されていないのが実情です。

 1つ事例を紹介しましょう。

 以前、私がサラリーマン時代にお世話になった先輩が「転職したい」といって当社にやって来ました。若手の頃から実績を出してきたとても優秀な方で、いつもはつらつとお話になるのですが、そのときはどことなく「しんどいオーラ」が漂っていました。実はいまの職場ではあまり活躍できておらず、疲労困憊していたのです。私たちはそういうオーラは決して見逃しません。

 「いまは転職しないほうがよいと思いますよ」

 その時はそうアドバイスしてお帰りいただきました。

 それから2年ほど経った頃、その先輩にぴったりのイメージが湧く案件が出てきたので連絡を取ってみると、以前とは打って変わって元気にご活躍の様子でした。

 「丸山、いまは新しいプロジェクトが忙しくて転職どころじゃないんだ」

 しかし、実はこういう時こそ転職には向いているタイミングです。そうお伝えしてお会いしてみると、しんどいオーラが出ていた時とはまったく雰囲気が変わり、ノリに乗っているオーラに満ち溢れていました。

 そこで「こういう案件がありますが」と提案すると、「大変だけど面白そうだね」と前向きに受け止めていただきました。早速、求人を出している会社のトップとお会いしてもらったところ、即座に採用が決定しました。ちなみにこのときご紹介した案件は上場準備に入ったある企業の部長職で、転職の数年後にこの企業は上場を果たしました。

転職が最高にうまくいくタイミングとは?

 現在の会社でいま一つ活躍できていないとき、人は新天地を求めて転職しようと考えがちです。しかしそういう時期は、本人に自覚はないかもしれませんが負のオーラが出ていて、脳の働きもあまり活性化していません。

 優秀な経営者や経営幹部は当然、面接でそれを見抜きます。経営者はもともと感覚の鋭い方が多いですし、まして採用面接となれば五感をフルに使ってシビアにジャッジしてきます。したがって活躍できていない時期は、本人の「転職したい」気持ちの高まりとは裏腹に、あまり転職には向いたタイミングではありません。

 一方、いま活躍している人は転職のことなどあまり眼中にないかもしれませんが、ノリに乗っているオーラが発せられ、脳も活性化しています。こういう時期は経営者のシビアなジャッジをクリアでき、転職した後もその勢いに乗って仕事ができるので、実は転職に向いているタイミングです。

 一見すると転職する必要のないくらい活躍している人が、よりエキサイティングな機会にめぐりあい、新たなチャレンジをするために転職するケースがもっともうまくいくパターンなのです。

転職はいまの不安・不満に
ケリをつけてから

 転職に向いているタイミング・向いていないタイミングを見極めるポイントとしてもう1つ挙げられるのが、「いまの職場での不安・不満にちゃんとケリを付けたかどうか」です。これも2つ事例を紹介しましょう。

 Aさんは会社の準創業メンバー42歳。同社は株式公開して3年、業績も株価もそこそこ順調、そんななか、転職を考えているという相談がきました。お聞きすると、ここ1年くらいで創業メンバーが次々と退職して、外からどんどん幹部クラスの人材が入ってくる。社長も創業時の質を重視する経営から売上拡大、利益追求に汲々としていて最近何を考えているのかわからないし、そろそろ自分も次のチャレンジをしようかなとのこと。

 「Aさんは最近社長と話しましたか?」

 「はい。でも会議や軽く立ち話をする程度ですが」

 「時間をちゃんととって、話はされていないのですか?」

 「社長も私も忙しくて…」

 これはよくあることなのですが、創業当初は人も少なく、社長も現場寄りなのでいろんな話がこってりと自然にできます。でも会社が大きくなると自然に話はできなくなり、わざわざ時間を取らなくてはいけない。この「わざわざ」をお互いやらずにコミュニケーション不足に陥って、お互いがお互い考えていること、行動がわからなくなるのです。

 わからなくなると部下から見れば、「最近の社長は何を考えてるかわからない」「もう俺のことは必要ないんじゃないか」などという疑心がわいてきます。そう思うと、いつのまにか社長と話すことが怖くなりを避けるようになってくるのです。そして退職を1人で決意する。こんなパターンが実はとても多いのです。

 この場合やらなければいけないことは「わざわざ」時間を取って「コミュニケーション不足」を補うことです。社長と話して社長が事業に対して自分に対して何を考えているのかを確認すること、それを聞いて自分の思いを話すことなのです。大事なことはやりたくないことが多いもの。あなたが幹部で社長と話すのが億劫だったら、ぜひともあえて時間を取って話すべきです。そうするまで転職をしてはいけません。

 もう1つ事例を紹介しましょう。先日、ある大手企業の総務部勤務の方が転職相談に来られました。この方を仮にBさんとしましょう。35歳のBさんは職場環境の悪さを転職理由としてあげていました。

 Bさん曰く、職場は人がいるのにシーンとしていて活気がなく、エネルギーを吸い取られそうな雰囲気である。上司は部下の仕事ぶりをまったく見ておらず、きちんと評価やフィードバックをしてくれない。仕事は非常に忙しくてみんな毎日9時、10時まで残業しているが、人員を増やしたり業務を見直したりする気配がない。だからみんな不満を溜め込んでいて、逃げ出したいと感じている――。

 そんなお話をうかがった後、いくつか質問してみました。

 「Bさんは職場がどんな風になったらよいと思いますか?」

 「最低でもあいさつや『ありがとう』と感謝の言葉を交わせるようになるといいですね」

 「なるほど。では、ご自身はあいさつや『ありがとう』と言っていますか」

 「いえ……。いつもシーンとしているので自分から言い出しにくくて……」

 他の点についても詳しくお話を聞いてみたところ、上司の評価や仕事の多忙さに関して突っ込んで議論し、解決策に取り組むことはあまりしていませんでした。

 「転職を考える前にまずは自分からあいさつしたり、職場の問題点について上司や同僚と議論したりすることからはじめてみてはどうでしょう」

 そうアドバイスしたところ、Bさんは「やってみます!」とすっきりした顔をして帰っていきました。

 会社に何らかの不満があって転職を希望する人は少なくありませんが、その多くは自分が動けば解決できることがまだまだあるのに「どうせ言っても無駄」と勝手に思い込み、大して解決に取り組まないまま会社を去っていこうとしています。

 もし当社へ相談に来られていなかったら、Bさんもそのまま転職していた可能性が高いと思います。しかし、それはあまり好ましくない転職です。なぜなら同じような問題に直面するたびに、また同じように会社を辞めていくことになるからです。それは「逃げ出し転職」であり、決してうまくはいきません。

 転職したくなるほどの不満や職場の問題点を解決するために、自分ができることを十分に果たしたか。すなわち、きちんとケリをつけたかどうか。そうでない人は、まだ転職のタイミングが訪れていない人です。