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「脳の時間認識」を生かせば、〆切もミスも価格交渉も上手く乗り切れる

2013年6月18日(火)(ライフハッカー[日本版])

締め切りが迫っていて時間が欲しいときがありますよね。時間を作り出すことはできませんが、人の時間認識についての研究成果を活かすことならできます。

例えば、著名なジャーナリストのジョシュア・フォア氏は、「ある時点から別の時点までに、その間の記憶量を増やせれば、長生きした気分になれるのでは」と仮説を示しています。実際に寿命が延びるわけではありませんが、脳の錯覚を利用して、長生きしたように思い込むのです。同じように、私たちの時間認識は、意思決定に対する満足度や対人関係、生産性などにも影響をおよぼす可能性があります。

ここではまず、「いつも締め切りまでの時間が足りない気がするのはなぜ?」から話を始めましょう。

■脳はなぜ、仕事にかかる時間を見誤るのか

学生時代に徹夜したことを覚えてますか? どんなに成績が良かった人でも、一度や二度は一夜漬けをしたことがあるでしょう。たぶん、時間管理を誤ったせいですよね(注:筆者の個人的見解ですが)。

「仕事が完了するまでの時間」を過少に見積もる傾向を、「Planning Fallacy(計画錯誤)」と呼びます。社会心理学誌『Journal of Personality and Social Psychology』に掲載された論文で、Roger Buehler氏、Dale Griffin氏、Michael Ross氏による研究チームは、人は計画を立てる際に、楽観的なシナリオばかり考えがちだということを実験で明らかにしました。これでは不測の事態が起きた場合に問題が大きくなってしまいます。

そうならないための対策のひとつは、スケジュールを立てる際にもっと悲観的(もしくは「現実的」)になるよう自分をしつける(英文記事)ことです。最悪のシナリオに沿って計画を立てる必要はありませんが、心の準備は絶対に必要です。

この論文が勧めているもうひとつの方法は、時間の捉え方を変えてみることです。同じ方法は、人間が持つ合理性を題材にするコミュニティブログ「Less Wrong」でも推奨されています。あるプロジェクトに要する時間を見極める場合は、個別の事情にこだわらずに、過去の事例に目を向けます。ほかの人は同様のプロジェクトにどれだけ時間をかけたでしょうか。それらの事例は、あなたが自分のプロジェクトを完了させるまでにどのくらい時間がかかるかについての、正確な物差しになります。

そうは言っても、細かいタスクをひとつひとつ過去のものと比べるわけにもいきません。それに、認知科学者のダグラス・R・ホフスタッター氏が提唱した「ホフスタッターの法則」をご存じですか。「いつでも予測以上の時間がかかるものである──ホフスタッターの法則を計算に入れても」という、「自己言及する格言」です。

英紙『ガーディアン』のコラムにうまい解説があります。つまり、「どんな作業も常に計画した以上の時間がかかる」というホフスタッターの法則を念頭に置いて計画を立てたとしても、その作業はホフスタッターの法則の影響で、やはり計画した以上の時間がかかるのです。だから、「余裕を持って設定した予備の時間を過ぎたのに、まだプロジェクトが終わらない」という事態に陥ったとしても、驚くには当たりません。

■脳をダマして、「締め切りはすぐそこ」と思い込む

ベルギー大学の研究では、「人は遠い未来のことよりも、間近に迫った出来事について、より詳細に想像する」のだそうです。同様に、ごく最近の出来事ほど詳しく思い出します。裏を返せば、将来のプロジェクトの詳細を意識すれば、それが実際よりも間近で緊急性の高いもののように錯覚できるのです。

プロジェクトの早い段階ではつい先延ばししがち。これを何とかするには、まず時間をとってプロジェクトの土台を固めましょう。そうすると必然的に、頭の中に詳細を思い浮かべます。すると、締め切りが差し迫ったものに感じられ、先延ばしの危機を乗り越えられるでしょう。

要するに、とりあえずできるところから始めるのです。同じ理由で、アンソニー・ロビンズ氏をはじめ、多くの自己啓発コンサルタントも、目標はできるだけ具体的かつ詳細に決めるようアドバイスしています。そうすれば、目標の緊急性が高く感じられ、途中の各段階の締め切りまで、あまり日がないように思えてくるのです。

■脳は過去を忘れる。だからミスを恐れるな

「事前に許可を求めるな、事後に許してもらえ(Ask forgiveness, not permission)」という、起業家向けに言い古されたアドバイスがあります。『「週4時間」だけ働く。』がベストセラーになったティモシー・フェリス氏は、「始める前なら周りは全力で止めにかかる。始めてしまえば口出しされない」と書いています。

この言葉の正しさは、実験でも裏づけられています。シカゴ大学の実験では、被験者たちは過去に起きた悪いことよりも、これから起こりそうな悪いことのほうを、はるかに気に病むのが明らかになりました。これは、「未来は変えられるけれど、過去は変えられない」という認識から来るものと思われます。また、過去の出来事については感覚が鈍くなり、正当化がはたらくから、という理由もありそうです。

人の感情は自然と調整されるため、過去の出来事の印象は、時間の経過とともに薄れていきます。けれども、好ましくないことがこれから起きる見通しは、実際に何かが起こるよりも、はるかに精神衛生に良くないのです。

職場で新しい構想を提案するなど、あなたが何かを変えたいと考えていて、問題を最小限に抑えつつ、できる限りの支持を得たいのであれば、まずは行動に移しましょう。失敗したら「事後に許してもらえ」ば良いのです。いずれにしても、どんな形であれ一歩踏み出すことは、何もしないよりはずっと目標達成に役立ちます。ここでも、とりあえずできるところから始めるのが有効です。

■未来志向の脳を、価格交渉に活かせ

シカゴ大学が行った別の実験では、「人は近い将来のことを、近い過去よりも重視している」という明確な結果が出ました。この実験によると、予定が近づくにつれて、感情におよぼす影響が増大する一方で、その予定が完了すると、感情への影響は著しく減少するのだそうです。

研究チームはこの結果から、価格交渉を成功させるコツが明らかに見て取れると指摘しています。そのコツとは、「自分がものを買う立場なら後払い、売る立場なら先払いにする」ことです。この研究結果から類推するならば、例えばクライアントに対してサービスを提供したあとで請求書を送ると、価格を低めに設定してしまう可能性が高いからです。逆に言えば、サービスを受ける立場なら、そのあとで価格交渉をしたほうが、支払い額を抑えられる可能性が高いというわけです。もちろん、あなたがサービスを提供する側なら、前払いで請求して、最大の利益を狙うべきです。仕事のあとで、うっかり値下げ交渉に応じるようなヘマは避けましょう(買い叩かれる恐れがあります)。

今のところ、タイムマシンで未来を確かめることはできません。けれども、物事の受けとめ方が、時間の感覚によって変わるということを知っておけば、先々の計画を立てたり不測の事態に対処したりするのに役に立つ可能性があります。こうした経験則を把握しておくだけでも、ある種の行動や反応について、どうしてそうするのかの理解を深め、対応や意思決定を改善できる可能性があるのです。