初対面で相手に良い印象を残せたとして、その印象をずっと保ってもらうにはどうしたらいいのだろうか。第一印象はもちろん重要だが、相手との人間関係が深まるのは「二度目」以降に会う機会だろう。初対面ではお互い緊張していても、二度目以降はある程度うちとけてくることもあり、相手からもより詳しく見られていると思うべきだ。どう接したら相手との関係が長続きするのだろうか。営業や接客、コミュニケーションのプロである森下裕道氏にアドバイスをいただいた。<取材・構成=塚田有香>

◆二度目に会った瞬間「満面の笑顔」を作る

一度会った人と二度目に会う前、たいていの人は「前回はあの話をしたから、次はこの話をしよう」などと話す内容を色々と考えます。もちろん、それが必要ないとは言いませんが、もっと大切なことがあります。
それは、会った瞬間に満面の笑顔で挨拶すること。ただの笑顔ではなく、「満面の笑顔」というのが非常に重要なポイントです。
たとえるなら、好きな歌手がコンサートの舞台に出て来た瞬間や、学生時代に仲が良かった友人と十年ぶりに道でばったり会った瞬間に、自然と浮かんでくるような笑顔といえばイメージしやすいでしょうか。
ニコッとする程度ではなく、あなたの顔がパッと明るくなって、「わー、お会いできて嬉しいです!」「あっ、お久しぶりです!」などと挨拶の前につい感嘆詞が出てしまうくらい感情を込めた笑顔で相手を迎えてください。
人は満面の笑顔を向けられると、「自分は相手に受け入れられている」と感じます。人は誰もが「自分をわかってほしい」「人から認められたい」という欲求を持っているので、会った瞬間に「私はあなたを受け入れますよ」とメッセージを送られたら、その後の会話がどんな内容であれ、相手に好印象を抱くもの。
最近は会社や家庭でも「自分の居場所がない」と感じる人が増えています。そんな時、全面的に自分を受け入れてくれる人に出会ったら、その人との時間を何度でも作りたくなるし、相手のためにお金を使ってあげたくなる。「相手に信頼されるために、どんな話をしようか」とあれこれ考えるより、よほど大きな効果があります。

◆印象に残りやすいフォローメールとは

第二印象を良くするために、初めて会った後でアフターフォローのメールを送る人は多いでしょう。実は、二度目に会った時に満面の笑顔で迎えると、このメールの効果を倍増させることにもつながります。
アフターフォローのメールは、ともするとあざとくなりがちです。「本日はありがとうございました。次にお会いできるのが楽しみです」といった何気ない文章でも、もらったほうは「自分に何か買ってほしいのかな」と邪推しがち。お礼のメールのつもりが、逆に相手と距離を作ってしまうことも多いのです。
でも二度目に会った瞬間、満面の笑顔で迎えられたら、「本当に会うのを楽しみにしてくれていたんだな」と相手も素直に受け止めてくれます。
そこで改めて「先日は本当に楽しかったです!」と言えば、言葉の真実味も増します。満面の笑顔を心がけるだけで、アフターフォローのメールを最大限に生かすことができるのです。
とはいえ、メールの文面があまりに素っ気ないのも問題です。一度目に会ったときは互いに打ち解けたように感じられたのに、その後に来たメールに形式的な堅苦しい文章が並んでいると、相手は「親しみやすい人だと思ったのに、勘違いだったかな」と考え、心の距離は開いてしまいます。
ですからメールのどこかに、必ず自分ならではのパーソナルな言葉を盛り込みましょう。
「先日のゴルフのお話、楽しかったです。私もさっそく、教えて頂いたスイングのコツを思い出しながら素振りをしてみました!」といったひと言が添えてあるだけで、相手はこちらに親近感を持ってくれます。
ちなみに、アフターフォローとして手書きの手紙を送る人もいますが、私はあまりお勧めしません。メール以上にあざとい印象になりがちな上、手間と時間がかかるわりに効果はそれほど大きくないからです。
それよりも、二度目の相手に会う前にぜひお勧めしたいのが、その人の似顔絵を描くこと。絵そのものは下手でもまったく構いません。似顔絵を描く狙いは、相手に気持ちを向けることにあるからです。
人に会う前は、「自分をどうやって良く見せようか」と自分にばかり意識が向きがちです。でも似顔絵を描くには、一度会った相手のことをじっくり思い出さなくてはいけない。
似顔絵を描いている間は、相手のことしか考えていない状態になるわけです。人と会う時に大事なのは、自分に興味を持ってもらうことではなく、自分が相手に興味を持つこと。その準備として、似顔絵はうってつけです。
似顔絵を描くと、本人に会ったときに緊張しなくなるという効果もあります。人と会うと緊張するのは、自分が相手に見られていると感じるからです。
しかし、事前に似顔絵を描いていれば、実際に会ったときも「思ったより目が大きいな」「前回会ったときより髪が伸びたみたい」などとつい相手を観察してしまうので、「自分が相手を見る」立場になる。見られるのではなく、見る立場になっただけで、不思議なほど緊張しなくなります。
とくに、初対面で「苦手なタイプだな」と思った人こそ、ぜひ似顔絵を描いてください。描いているうちに、「怖そうな人だと思ったけれど、目が意外とチャーミングだな」などと思えてきて、相手に親しみが湧いてきます。
こちらが相手に親近感を持てば、相手もこちらに親近感を持つ。結果、第二印象を良くすることにもつながります。
 
◆二度目につながる「魔法の質問」

最後に、二度目以降の印象を良くするために、ぜひ初対面のときにしておきたい「魔法の質問」を教えましょう。
それは「好きな芸能人は誰ですか?」。
ありふれた質問だと思うかもしれませんが、実はこれが相手との関係を築く上で効果絶大なのです。
相手が男性なら男性の芸能人を、相手が女性なら女性の芸能人を聞き出してください。といっても、あくまでも雑談のなかで自然に聞き出すのがコツ。
水谷豊さん演じる右京警部が好きで、ドラマの『相棒』にハマっているんですが、○○さんは好きな芸能人とかいらっしゃるんですか?」とったような流れで聞き出すとよいでしょう。
そして重要なのは、「どうしてその芸能人が好きなのか」という理由を聞くこと。なぜなら、「好きな理由=自分がそう見られたい願望」だからです。
たとえば、相手が「北野武かな。いつも物事の本質を鋭く見極めてるし、何より頭がいいよね」と答えたとします。
つまりこの相手は、「自分も頭が良く見られたい。物事の本質を捉えていると思われたい」と思っているわけです。だったら、それをアフターメールの文章や二度目以降に会ったときの会話に盛り込んでください。
相手が使った表現そのままだとわざとらしいので、少し言い方を変えて「○○さんは、いつも見ている視点が他の人と全然違いますね!」などと褒めればいいのです。すると相手は「この人は自分をわかってくれている」と思う。
自分が見られたいと思っている願望のとおりに相手が褒めてくれるのですから、本人はとても喜ぶし、こちらに好印象を持ってくれます。長期的に良い関係を築くためにも、この 「魔法の質問」は非常に有効ですから、ぜひ皆さんも実践してみてください。
 
《『THE21』2015年12月号より》
 
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パッと浮かんだ阿部寛さん。