高校野球100年の年」として、大いに盛り上がった夏の甲子園東海大相模が45年ぶり2度目の優勝を果たす形で幕を閉じました。

昨今の高校野球は、体格や技術だけでなく、取り組む姿勢やトレーニングメソッドなども、プロ顔負けのレベル。今年も、沖縄代表・興南高校の2年生エース・比屋根雅也投手の、ユニークなメンタル術が話題となりました。

チームをベスト8に導いた彼の、マウンド上でのリラックス法が「自己実況中継」。

1球ごとに自分の投球を「今のはいい球でしたね」「さぁ、ピッチャー、第1球」などブツブツと解説。こうすることで、自分を客観的に見ることができるのだとか。

このほか数年前、桐光学園(現・楽天イーグルス)の松井裕樹投手が行っていた、「相手チームへの応援歌を、まるで自分のためのかのように、マウンド上で口ずさむ」という方法。今大会でも何人かの投手が行う光景が見られました。

これらのアプローチに共通するのは「客観視」「醒めた視点」「俯瞰の意識」です。

常に大変なプレッシャーにさらされるピッチャーというポジションで、「自分はどうしたいのか」や「相手は何を考えているのか」という勝負の意識を持ちすぎると、リラックスできず、本来の力を発揮できなくなるということです。

これは、私が普段提唱している「仕事・人づきあいは演技でいい」というメッセージにも通底することでしょう。

演出家の鴻上尚史は以前、就職活動の面接を控えて緊張する学生に対して、「ノックをする前に頭の中で、『ショートコント・面接』と唱えてから入りなさい。そうすれば、他人事のように思えて緊張しない」というアドバイスを行っていました。

全身全霊をかけて、自分がなんとか状況を打開する、相手をやりこめるという発想ではなく、“神の目線”で「あらかじめ決められたことを演じるだけ」という意識を持つことで、無駄な緊張がほぐれるのです。

「演じる」ということに抵抗がある人には、「フリをする」と言い換えてもいいかもしれません。

こんなエピソードがあります。私の知人が経営する会社で、仲の悪い社員2名がいました。彼個人としては、結果さえ出してくれればどうでもいいのですが、周囲が2人の仲を気にして仕事が手につかない様子。見るに見かねた彼は、ある日2人を別室に呼び出し、こう命じました。

「仲よくなれとは、言わない。仲のいいフリをしろ」

何を言われるか、と身構えていた2人も気が抜けて、「そういうことなら」と快諾。それ以降は、意識して談笑するようにしたり、笑顔を絶やさないようにしたりして、仲のいいフリを心がけたそうです。おかげで周囲も安心して、仕事に打ち込めるように。

さらにこれには後日談があって、そうやってフレンドリーな振る舞いを続けていった結果、2人は実際に仲良くなったのだとか。嘘から出た誠、とはこのことでしょう。

今回紹介した、甲子園のエピソード、ショートコント技法、フリをするテクニック、どれにも共通するのが、「周りが見えなくなるほど、目の前の状況に入れ込みすぎない」ということ。

「仕事なんて『仕事プレイ』でいい」とは、昨今よく言われることですが、人づきあいにおいても「仲のいいプレイ」「できる男プレイ」でかまわないし、そのためには、自分が周囲からどのように見えているかを、醒めた目線で客観視できる余裕が欠かせないということです。

9月を迎え、新しい人間関係も生まれる季節。ぜひ心がけてみてください!