強い意志や目標がないほうが人は成長できる 自分を成長させる「仕組み作り」とは?
夏休みシーズンですね。学生時代に夏期講習に通ったり、部活やバイトに打ち込んだり、新しいことを始めたりした夏休みの記憶が体に染み付いているからでしょうか。この時期になると、「自分を変えたい」「自分を成長させたい」というようなピュアな気持ちが湧いてくる人が多いように感じます。
そんなことが背景にあるのでしょうか。ダイエットやエクササイズ、体質改善、語学や資格取得に向けた勉強、新しい習い事などにおいて「自分を変える、成長させるメソッド」がメディアでよく紹介されています。これらに共通しているのが、「強いキモチ(意志力)を持つ」と「結果にコミットする」を強調していること。「本当にそう?」と疑ってしまうのはボクだけでしょうか。
「この夏オレは変わるぞ! 結果を出すぞ!」と新しいチャレンジを始めるものの空回りして挫折し、結局何も変わらない。周囲から「お前、やせるんじゃなかったっけ?」と突っ込まれる「強いキモチで結果にコミット君」のひと夏をよく見かけます。
自分を変えるには、”キモチ”や”コミット”の前に「自分マネジメント(セルフマネジメント)」が必要です。男女ともに自分マネジメント上手な人たちは、「強いキモチを持って結果にコミット」なんてしていません。
どうして「結果にコミット君」は失敗するのでしょうか。自分マネジメント上手な人たちのやり方とは何が違うのでしょうか。夏休みシーズンの今回は、自分を変える新しいセルフマネジメントのお作法を考えます。
■「結果にコミット君」を待ち受ける3つのわな
「結果にコミット君」は、自己啓発本によく書いてあるようなこんなステップを踏むパターンが多いようです。
1.目的を立てる:
ダイエットを例にとれば「やせてモテる(周りからの評価を上げる)」
2.数値目標を立てる:
ダイエットを例にとれば「○kg減量、体脂肪○%ダウン」
3.方法を考える:
ダイエットを例にとれば「〜法を試す」「〜茶を毎日飲む」など
一見正しいアプローチのようですが、このやり方は多くの場合うまくいきません。このステップを踏む「結果にコミット君」には、以下3つのわなが待っているからです。
(1)数字のわな
数値目標が一人歩きするわな。とりあえず数値をクリアしようと無理して、後でしわ寄せがくる。
(2)カタチのわな
方法論が先走りするわな。「この方法さえ続ければ結果が出るのだ!」と信じ込んで実践するものの、その方法が必ずしも正しいとは限らないため、結局結果が出ない。
(3)強いキモチのわな
目的達成に対する「強いキモチ」があれば頑張り続けられると念じるが、キモチは割と簡単に折れる。
「オレはやる!」と結果にコミットするあまり、数字・カタチ・強いキモチにとらわれて、かえって結果が出ない。目的・目標・方法というアプローチは意志力を消費します。とりわけ意志の強い人には向いているのかもしれませんが、万人向きとはいえません。
■大事なのは行動パターンを自然に変えること
セルフマネジメントには結果にコミットするよりもっと大事なことがあります。それは「行動を自然に変える」こと。強い意志力は不要です。セルフマネジメントは、自然に気持ちや行動パターンが変わる「仕組み作り」がカギです。
自分の行動を自然に変える、セルフマネジメントのポイントは次の3ステップです。
(1)美〜ビジュアル
目的を立てるのでなく、意識や感覚に訴えるビジュアルイメージを脳に刷り込む。心理学でも証明されていますが、人間の行動を変えるにはビジュアルイメージで訴えるのが最も効果的です。
(2)論〜ロジック
先に数値目標を定めるのではなく、数値が向上するロジックを考える。数値目標に縛られるとそれを達成することばかりにとらわれて、実態は何も変わっていないということがよくあります。理論的にいちばん効果の出る方程式を考えるのです。
(3)慣〜コンティニュー
方法論にこだわらず、考えたロジックを楽しく継続できる習慣化が大事。強いキモチで努力すると挫折することも。意志力など関係なく、何も考えずにやってしまうような仕掛けが行動を変える近道です。
上記の3ステップをもう少し具体的に説明します。
まず、「美〜ビジュアル」に効果的なお作法は2つあります。一つは、大きな姿見を設置すること。入浴後や外出前などに自分を眺める時間を持つだけで自分に対するイメージはとても高まります。2つ目はプロフィール写真をプロのカメラマンに撮影してもらうこと。これによってテンションが上がり、自分への意識が大きく変わります。SNSにはお気に入りのプロフィール写真を設定しましょう。
次に「論〜ロジック」。このステップにはちょっとおもしろいお作法があります。それは「超一流の10%の努力」を続けるだけでもかなりの努力量に相当するというロジック。自分が憧れる超一流の人と同じ努力はできないけれどその10%の努力だったらできるかもしれません。
憧れの超一流ビジネスパーソンが1日1冊本を読むなら、10日1冊のペースで本を読んでみる。それでも年間36冊もの本を読むことになります。毎日1000回の腹筋を習慣としている超一流アスリートをお手本にするなら、毎日100回だけでも続けてみましょう。2カ月も経てば大きく変わった自分に気づくはずです。
そして「慣〜コンティニュー」に効果的なお作法は、ゲーム感覚を取り入れることです。本を1冊読んだ、タスクを1つ終えた、1日分のトレーニングを済ませた……などの進捗をゲーム感覚で管理するのです。たとえばノルマを完了するごとにカレンダーにお気に入りのキャラクターのスタンプやシールを貼る。それだけで習慣化しやすくなります。
単調なタスクやトレーニングを楽しい習慣にする方法もあります。たとえばジョギングを続けるのは苦しいけれど、仕事帰りに一駅前で電車を降りて好きな通りを散歩するのを日課にすれば、確実に習慣化できます。
強いキモチで結果にコミットするより、ビジュアルイメージを刷り込んで習慣化するセルフマネジメントのほうが効果的であることに気づかせてくれたのは、米国のある女優でした。
彼女は肥満体型で決して美人ではない、もとは素人の黒人女性。そんな彼女がある日、オーディションを受けてハリウッド映画主演に抜擢され、アカデミー主演女優賞にノミネートされました。どうして女優業にチャレンジしようと思ったのか、インタビュアーの質問に対する彼女の回答が、本質を突いていてカッコよかったのです。「セルフマネジメントとはコレだ!」と気づかされました。
セルフマネジメントの極意ともいえる彼女のその一言とはこれでした。
あるとき私は、自分を美しいと決めたの。〜 ガボレイ・シディベ