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心の保ち方  佐藤優選─心が強くなる名言集

「あちこち旅をしてまわっても、自分から逃げることはできない。」ヘミングウェイ

人間の心はいったいどこにあるのだろうか? 心臓か? 腹か? それとも脳か? 心がどこにあるか指し示すことは誰にもできない。しかし、この世界には目に見えないが確実に存在するものがある。その一つが心だ。

世の中には恐ろしい心も存在する。1997年に神戸連続児童殺傷事件を起こした元少年Aの手記『絶歌』太田出版)が2015年6月11日に販売され、大きな議論を引き起こしている。この書籍は遺族や被害者に事前に説明されることなく突然刊行され、被害者の遺族は激しく反発している。遺族が反発するのは当然のことだと思う。殺害された土師淳君(当時11歳)の父・守さん(59歳)は同月12日、太田出版に手記の回収を求める申入書を送った。太田出版はそれに応じず、17日には初版10万部から5万部の増刷を決めている。

太田出版の対応を非難する声は多いが、筆者の意見は異なる。著者が元凶悪犯であっても、編集者が「このテキストを世の中に伝える必要がある」と考え、収益が見込まれるなら、本を出すことができるというのが資本主義社会における出版の現状だ。この状況を覆すことは不可能だ。

そしてこのテキストには力がある。仮に太田出版が出版を見送ったとしても、どこかの出版社が引き受けただろう。資本主義社会では本も商品であり、違法行為でない限り商品経済の論理を封じ込めることは難しい。一方で、この本が出たことで被害を受けたと考える人が著者と出版社に本の回収を要請するのも当然のことだ。そこで話がつかなければ、出版差し止め訴訟や出版差し止めの仮処分申請を行うという道がある。

今、有識者がやらなければならないのは、『絶歌』を読み解き、本書の危険がどこにあるのかを社会に伝えることだと筆者は考えている。元少年Aは、性衝動から繰り返し残虐な方法で猫を殺しているうちにそれがエスカレートし、殺人に発展したと説明している。しかし、この説明は上滑りで説得力に乏しい。むしろ元少年Aの本音が現れているのは以下の箇所だ。

大人になった今の僕が、もし十代の少年に「どうして人を殺してはいけないのですか?」と問われたら、ただこうとしか言えない。

「どうしていけないのかは、わかりません。でも絶対に、絶対にしないでください。もしやったら、あなたが想像しているよりもずっと、あなた自身が苦しむことになるから」。哲学的な捻りも何もない、こんな平易な言葉で、その少年を納得させられるとは到底思えない。でも、これが、少年院を出て以来十一年間、重い十字架を引き摺りながらのたうちまわって生き、やっと見付けた唯一の、僕の「答え」だった。

(282頁)

驚くべきことに、元少年Aは自分も社会から苦しめられている被害者だと思っている。また、殺人が悪だとは思っていない。

この手記を書くことによって、元少年Aは心の安定を保とうとしている。1997年7月25日、元少年Aは神戸市須磨警察署での取り調べを終え、神戸少年鑑別所に身柄を移された。

腰縄と手錠をかけられ、護送車に乗り込む時、その場に居合わせた、取り調べを担当した刑事が僕に声をかけた。/「おい、もぉ殺しはやめとけよ。アレは癖になってしまうから。次やったらどうなるかわかっとおな?」

(127頁)

元少年Aは、心の闇と破壊衝動を現在も抱えていることがテキストの行間から浮かび上がる。この刑事の懸念が現実にならないことを祈る。

 

関連した名言

「勇気とは、窮しても品位を失わないことだ。」アーネスト・ヘミングウェイ

 

「孤独は優れた精神の持ち主の運命である。」アルトゥール・ショーペンハウエル

 

「自分を低く評価している人を高く評価する人はいない。」アンソニー・トロロープ

 

「馬鹿不平多シ。」福沢諭吉

 

「いちど本音を吐いてしまえば人間案外肝が据わる。」山本周五郎『夜明けの辻』(新潮社)

 

「明日のことは、明日みずから思いわずらうだろう。一日の労苦は、その日一日だけで充分だ。」旧約聖書

 

「自分は大した人間ではないと思うな。そんなことは決して考えるな。他人からそんなものだと思われてしまう。」アントニー・トロロープ

 

「未だかつて、現在のなかで、自分は本当に幸福だと感じた人間は一人もいなかった、──もしそんなのがいたとしたら、多分酔っぱらってでもいたのだろう。」ショウペンハウエル『自殺について 他四篇』

 

「何事もゆきづまれば、まず、自分のものの見方を変えることである。案外、人は無意識の中にも一つの見方に執して、他の見方のあることを忘れがちである。」松下幸之助

 

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「貧乏人とは、多くを持たざる者ではない。多くを欲する者のことをいう。」スウェーデンのことわざ

 

「人間にとって大切なのは、何を「恥」と思うかです。」つかこうへい

 

「理由も分らずに押しつけられたものを大人しく受け取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。」中島敦『山月記・李陵』(岩波書店)
 
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なんかよかった。