ビジネスマンであれば、会食時の会話でその人の“センス”を見定めることはないだろうか。もちろん会食の場合、他愛もない話が中心にはなるだろうが、それでも相手の話のもって行き方、ユーモアセンス、教養などから、その人物の力量はそれなりに推し量れるもの。当然、相手もこちらのセンスや力量を、他愛もない会話から測っているはずだ。

 また、場合によっては政治や経済、国際情勢などそれなりに思想信条が反映されやすい話題に転がることもある。そのような話題は力量が如実に表れるし、仮に会食の相手が重要な取引先であった場合、何気ない一言が命取りになる……ということだってあり得るだろう。

 元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、新著『超したたか勉強術』で、ビジネスマンの会食での、こうしたナイーブな話題での“話術”についてこう指摘している。

「会食の場という性格上、無難に切り抜けるのも一つの手だ。自分の意見を挟まずに、新聞や雑誌、テレビやネット、つまり公開情報から得た情報を繰り返すだけにする。これならば、相手方にどんな思想信条の持ち主がいても、いやな思いをさせないですむ」

 たしかにこの方法であれば、不毛な議論に陥るリスクも低く、ビジネストークの振る舞いとしては「鉄板」であろう。一方、佐藤氏は複数の公開情報をつなぎあわせて、自分なりの見解、視座をもって話すという攻めの選択肢を勧める。「これはかなり高度な組み立てと話術が必要だが、説得力のある内容ならば、相手方に強い印象を残すだろう」というのだ。

 もちろん独自の視座をもっても、組織の論理は無視してはいけない。むしろ、独自の視座が、組織にとって有益だと認識させるだけの「したたかな技術」を身につける必要があると佐藤氏は指摘する。

 ただ、そのようなバランス感覚に優れた独自の視座を持つにはどうしたらいいのか。本書にて佐藤氏は、「最低限必要な要素」として次の4つを挙げる。

(1)基礎教養を身につける
(2)情報収集――新聞や雑誌など活字媒体を中心に、自分の仕事や関心のある分野以外の記事も含め幅広くチェックしておく
(3)基礎教養と収集した情報の運用――ある出来事や事件<(2)で収集した情報>が、何に由来しているのか、あるいはどのような要素で構成されているのかを、関連分野の基礎教養<(1)>を参照して分析する。そのうえで歴史的な位置づけを試みる
(4)内在的論理を探る――中心テーマ<(3)の作業を経たもの>を他の情報と関連づけて、そのテーマがもつ意味や内的動因を探る

 佐藤氏は(1)と(2)について、「普段からこつこつと積み上げていくことに尽きる」(本書より)と語る一方、(3)と(4)については「技術として身につけることが可能」(本書より)としている。つまり普段から基礎教養を身につけるよう意識し、さらに基礎教養と収集した情報の運用力を向上させ「いくつかの基本的な思考パターン」を鍛えていくこと。それがバランスのいい独自の視座を作る最低限の要素だというのだ。

 基本的な思考パターンを鍛え、自分の頭で「したたか」に考え、あらゆる会話に対応すること。感情論ではなく、どんな思想信条、立場の人とも有益な議論ができれば、ビジネスパーソンとしてより信頼、尊敬されるのは間違いないであろう。

 対ロシア外交のほか、あらゆる国際舞台で活躍してきた佐藤氏が伝授する「最強のインテリジェンス思考法」が凝縮した本書。ワンランク上を目指すビジネスパーソンに読んでもらいたい一冊となっている。