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業界別、今年出世する人

プレジデントオンライン2015年3月3日(火)09:21

業界別、今年出世する人
(プレジデントオンライン)

PRESIDENT 2015年2月16日号 掲載

サラリーマン最大の関心事「出世」。その基準は業種や会社によってずいぶん違う。今はどんな人が上にいくのか。

■銀行と商社ではどこが違うか?

まず業界ごとの違いを知りたい。人事の専門家でヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス社長の渡部昭彦氏に聞くと、消費者市場からの距離が近い「BtoC(消費者向けビジネス)」と距離が遠い「BtoB(事業者向けビジネス)」に分け、さらに扱う商品やサービスの流動性が高い「フロービジネス」とインフラ型の「ストックビジネス」に分けて解説してくれた(図)。出世の傾向として、商社やITや証券は「外向きの営業系が優位」で、銀行や製造業(素材系)は「内向きのスタッフ系が優位」という。

「銀行は今でも減点主義なので、本店業務や法人営業を担当した人の中で、スマートでソツのないタイプが上にいく。同じ金融でも証券は少し異なり、まずは営業で実績を挙げた人が出世するが、役員クラスにはバランスのとれたタイプが登用されます」。理由は、役員になると主幹事証券会社として事業会社の経営幹部との付き合いも増え、求められる資質が変わるためだとか。

次に商社は「採用人数も銀行に比べて少ないのでエッジのきいた人が入社する。個性的な人が出世するという意味では銀行と正反対」という。総合商社の副社長を経て公共放送の会長に就任した某氏のようなタイプは、銀行での出世は難しいだろう。

製造業の場合、出世するタイプが異なる。「製品というモノが生命線なので、研究開発や生産技術といった地道さが大切な業務も多く、ソツのなさは求められません。偉くなっても純朴な人が多い」(渡部氏)。

図の一方の軸であるフロービジネスは、小売りに代表されるように商品が頻繁に動き、その場での判断が求められる業種だ。銀行員のような緻密さや慎重さよりも、即断即決のできる行動力が求められる。もっとも、「とくにスーパーはオーナー系が多いので、従順な人が評価されます。行動する馬力はあるが、自己主張をしない人が上にいくケースが目立つ」という特徴も。

ただし、同じ小売業でも百貨店は例外だ。「呉服系の老舗にしろ電鉄系にしろ、大手百貨店の多くはすでにオーナー系ではありません。だからスーパーなどに比べると、したたかな人が出世しています」と指摘する。

ITに関しては「営業能力とコンサル能力の2要素が必要。顧客を獲得して数字を上げる部分は馬力といえるが、論理性が必要なのでスマートな営業マンといったタイプ」となる。

■卒業基準と入学基準

サラリーマンの出世について、以上とはちょっと異なる視点を提供してくれるのが人事コンサルタントの平康慶浩氏だ。ベストセラーとなった著書『出世する人は人事評価を気にしない』では、役職による登用基準の違いを「卒業基準」と「入学基準」という言葉で表現した。

「業種や個別の状況にもよりますが、大企業ではおおむね課長の手前までは目の前の仕事ができる人が出世します。小学校を卒業して中学校に入るような『卒業基準』です。でも部長や役員に進むには大学入試に合格するような『入学基準』が適用される。つまり、上の役職に見合う判断や組織運営の視点で登用されるのです」

ただし、現場の仕事が経営判断に直結するような業種では、役員クラスでも「卒業基準」が適用される。「たとえば金融の中でも証券、とくにファンド系はそうですね。アナリスト的な仕事ができなければ投資判断ができませんし、投資判断ができなければ、顧客に自社の商品ファンドを勧められないからです」(同氏)。

一般に専門性の高い職種では課長以上でも「卒業基準」が適用される。たとえば製造業の知財部門など専門部署は、現場の仕事ができる人がそのまま部長になるケースが多いという。

小売りや飲食などサービス業の場合は、別の事情から「卒業基準」が適用される。「これらの業種は実績しか信じられるものがないので、成績を上げた店長をブロック長やスーパーバイザーに登用します。逆に別の評価制度を導入するのがむずかしい」。

アクセンチュア日本総合研究所コンサルタントとして活躍したのちに独立開業した同氏は、大企業だけでなく中小企業の実情にも詳しい。

「自社がオーナー系かどうかも判断基準となります。そこで出世する条件は、オーナー一族と家族ぐるみで付き合えるかどうか。中小企業では縁故で採用した人を、仕事ができるかどうかを問わず役員に取り立てる例も多い。役員にしてから、オーナー自らが育てるという考えです」

■もう1つの出世ルート

こうした業種別の傾向を踏まえたうえで、渡部氏が唱えるのが「社風」による違いだ。著書(『日本の人事は社風で決まる』)でも次のような都銀の事例が紹介されている。

「今も合併前の社風は脈々と生きており、一番強烈なキャラクターは住友銀行。高収益率の要因は行内の競争の激しさの結果としての行員の強さにある。個性が強い『一匹オオカミ』的な社風だ。その対極が合併相手の三井銀行で、一言でいうと草食系の社風」

渡部氏の大学の同級生でも、とある地方出身者がメガバンクの常務から子会社の副社長に転じて出世頭となった例がある。新卒時に「地味で泥臭い」といわれた都銀に入社したその人は、社風にぴったりのキャラクター。他行との合併後も順調に出世した。

となれば、自分が勤める会社の社風を見極めることも大切だが、平康氏はこんな見解を示す。「社風だけでなく『変化』の視点でも考えたい。組織にとって最大の変化は『顧客が代わり、商品やサービスが変わること』。自分の勤め先が変化の激しいベンチャー企業なのか、変化の乏しい役所かで違ってきます」。

こうした出世事情を踏まえたうえで、2人のアドバイスは似ている。渡部氏は「自分の会社を理解し、目の前の仕事に埋没しつつ、クールな目でもう1人の自分が見ていること」と言う。

平康氏は「業務に没頭する一方で上司の仕事ぶりも観察しておく。アナログ的には一緒に飲みにいくなどして、早くから上の役職の意識を学んでおくといい」と話す。

もっとも、同じ会社のラインで上にいくことだけが出世ではない。なかには異業種に転職したり起業したりして真価を発揮する人もいる。今回登場してもらった2人も、そうした経歴を歩んで専門性を磨いてきた。

渡部氏は金融の保守本流といえる長期信用銀行の旧日本長期信用銀行を出発点に、旧日本興業銀行を経て、セブン-イレブン・ジャパン、楽天グループという新興企業で人事の専門家として腕を振るってきた。平康氏は、アクセンチュア日本総合研究所での経験をもとに、独立開業した。

変化の激しい時代に生きるサラリーマンは、そうした「もう1つの出世ルート」があることも、常に意識の隅に置いておくべきではないだろうか。