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静かに終わる太陽電池バブル 幕を降ろしたメガソーラー投資

この2年で2兆円規模に拡大した太陽電池市場。「太陽電池バブル」とまで言われたブームは静かな終焉を迎える。メガソーラー投資は打ち止め、“ブローカー案件”とも言われた未着工計画も一掃される。
 「メガソーラー事業は打ち止め。再生可能エネルギー事業は続けるが、これからは風力やバイオマス、地熱に切り替えていく」

 大林組でエネルギー事業を統括する蓮輪賢治常務はこう打ち明ける。大林組は、固定価格買い取り制度の初日に当たる2012年7月1日にメガソーラー(大規模太陽光発電所)を稼働させたほど、メガソーラー建設に入れ込んできた。

 矢継ぎ早に建設計画を進め、既に全国23カ所でメガソーラー設置を決定済み。続々と完成を迎えている。その大林組が早々とメガソーラーに見切りをつけたのだ。


大林組は全国でメガソーラー建設を進めてきた。写真は今年4月に稼働した熊本県の芦北太陽光発電

 理由は 事業性の低下にほかならない。固定価格買い取り制度が始まった2012年度は、メガソーラーの電力は1キロワット時当たり42円(税込)で買い取ってもらえた。それが2013年度は同36円(税込)、そして2014年度は32円(税別)にまで低下した。

 加えて用地の問題もある。メガソーラーの建設ラッシュが進んだ結果、好条件の土地が減った。メガソーラーともなれば、広大な未利用地が必要だ。平地で造成が不要であればなお良い。電力会社の電力網(系統)へつなぎ込むための接続費用は事業者負担のため、接続地点までの距離は短い方が良い。

 「現在の買い取り価格だと、土地を造成したらコストが合わなくなる。系統への接続地点が遠い場合も合わない。そうなると、もうまとまった土地がない」と蓮輪常務は言う。

 メガソーラーに見切りを付けた事業者は大林組だけではない。積極的にメガソーラー投資を進めてきたソフトバンクグループやオリックスグループ、丸紅などの新電力も同様のスタンスだ。

 「メガソーラーに投資しないとは言わないが、よっぽど良い案件が出てこない限りやらない。といっても、もう国内に大規模に太陽電池を敷設できる場所はないと思うが・・・」。ある新電力幹部はつぶやく。

■悪質な事業者による案件を一掃

 メガソーラーへの新規投資が終焉を迎える一方、悪質な事業者による案件の一掃も進んでいる。

 経済産業省によると、2012年度に設備認定を受けた案件のうち、2014年1月末までに稼働したのは22%にとどまる。

 メガソーラーの建設は、計画を国に申請し「設備認定」を受けるところから始まる。その後、土地の確保や設備の発注、電力会社と系統連系協議、さらに工事事業者などとの調整を経て着工する。

 電力会社との系統連系に関する電気工事などは待ち行列ができている状況で、1〜1年半待ちも珍しくない。2012年度に設備認定を受けたもの、未稼働の案件のなかには、工事待ちのものが相当含まれている。

 このほか、農地法太陽電池の敷設が制限される田んぼでの建設計画や、地権者の相続問題で土地の売却・貸与が進まない案件、計画は立てたものの金融機関の融資が得られない案件などがある。

 さらに、買い取り価格は認定を受けた時期によって決まるため、好条件のうちに設備認定を受け、パネル価格の下落を待って調達することで収益性が高められる利点もあった。このなかには、一時期世間を賑わせた「太陽電池ブローカー」とも言うべき悪質な事業者も存在すると言われる。

 経産省は、こうした未稼働案件の一掃に動き出した。経産省が順次聴聞し、8月31日時点までに土地の取得や賃貸の契約、設備の発注などがなされていない案件については、設備認定を取り消すことにしたのだ。

 さらに現在は、設備認定から6カ月の間に土地の取得や設備を発注しなければならないというルールも整備。バブルの象徴とも言える未稼働案件の整理がつくことで、太陽電池市場は落ち着きを取り戻すだろう。

■宴の後に残るもの

 バブルの終焉をもって太陽電池市場は縮小の一途をたどるのか。関係者の声を集めると、「今後も年間3ギガ〜5ギガワットの新規投資はありそう」との見方が大勢だ。

 まず、2014年度末までは太陽電池が「グリーン投資減税」の対象だ。節税対策として太陽電池の設置をすすめる税理士や会計士は多い。中小企業の経営者が自ら保有する土地へ太陽電池を設置するケースはまだまだ増えそうだ。

 市場の急拡大が太陽電池の価格や施工費用を下落させたことによるメリットも、徐々に効いてくる。

■今後数年で日本市場も「グリッド・パリティ」に到達

 電力会社から電力を購入する価格と太陽電池などによる発電コストが同等になることを「グリッド・パリティ」と呼ぶ。今後数年のうちにも日本市場はグリッド・パリティに到達するという見方もある。

 長らく太陽電池普及の足かせだったコストの負担は確実に軽くなっている。メガソーラーや中小規模の太陽光発電所の投資が減ったとしても、住宅や店舗、工場の屋根など規模の小さな投資は続くとみてよさそうだ。

 太陽電池コンサルティングの草分けである資源総合システムの一木修社長は、こう説明する。

 「太陽電池は長らく官製市場だった。つまり、市場を育てる時代が続いてきた。だが、2014年に放っておいても市場が拡大する時代に突入した。それだけ太陽電池は安くなった」

 「かつてこんな時代がやってくるとは想像できなかった」。1980年代から太陽電池ビジネスに携わってきた一木社長の言葉は、この2年の変化率の大きさを物語る。それだけ固定価格買い取り制度とグリーン投資減税の市場刺激力は強かった。

■いよいよ太陽電池市場の「実力値」が見えてくる

 固定価格買い取り制度の開始から3年間は、加速度期間に位置付けられている。2014年度で加速度期間は終わり、この制度の本来の姿に戻っていく見通しだ。

 ドイツで考案されたこの制度は、「価格が高い再生可能エネルギーに下駄を履かせて収支をトントンにする」というのがコンセプトだ。事業者が必死でコスト削減に努めると少し収益性が高まる。こういう塩梅の制度なのだ。

 今後は、単に太陽電池を設置すれば儲かるという時代ではなくなる。一方で、安価な製品が入手しやすくなり、施工技術などを持った事業者も増えており、工夫次第では新しい商機が見えてきそうだ。

 「今年1年の市場動向を見れば、誰が太陽電池ビジネスに本気なのか。来年以降がどんな市場になるのかが見えてくる」と一木社長は予測する。いよいよ日本における分散電源の真の使い方を考える時がやってくる。