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家族農家が温暖化時代の農業のカギを握る


空から見た小麦の収穫。米国カンザス州(写真:Jim Richardson /National Geographic)

 2050年までに地球温暖化は進み、人口は90億人に膨れ上がる。食料生産が気候変動の影響を受けるなかで、それだけの人口を支える食料を確保するのは容易ではないだろう。そんななか、家族単位の農業経営に注目すべきという声が専門家の間で高まっている。

 現在、世界の食料生産の56%を支えているのは5億世帯を超える家族農家だ。その大半では自家消費が精一杯で、市場で売る作物はほとんど残らない。

■カギを握る5億の家族農家

 食料確保というと、大規模農業を営む多国籍企業に目が向けられがちだが、長い目で見ると、昔ながらの持続可能な技術を用いる小規模農業のほうが温暖化にうまく適応し、安定して食料を供給できるのではないか。

 そんな報告書を、持続可能な農業を目指す団体「フードタンク(Food Tank)」が発表した。「小規模農家は持続可能性の高い手法を用いて十分な量の食料を常に確保しており、世界の食料安全保障に貢献している」と評価する。

 たとえば大規模農業では、トウモロコシや小麦といった単一品種の収量を、化学肥料や農薬を使って増やすのに対し、小規模農家が栽培するのはその土地固有の作物。水など貴重な天然資源を浪費せず、作物の栄養価も高い。FAO(国連食糧農業機関)などが発表したデータに基づき、小規模農家は「世界を養うだけではなく地球を育んでいる」とする。


イタリアの家族農場で孫娘を抱く年老いた農夫(写真=Jay Dickman/National Geographic)

 一方、国連は2014年を国際家族農業年(IYFF2014) と定めている。これは、正当に評価されていない農家に対する認知度を高め、気候変動や栄養不良、貧困といった問題に対し家族農家や小規模農家が果たしうる役割に焦点を当てている。

■温暖化の影響が農業にも

 IPCC国連気候変動に関する政府間パネル)は4月 、地球温暖化の影響はすでに干ばつや猛暑、鉄砲水といったかたちで顕在化していると警告した。

 こうした気候変動は農業に大きな影響を与える。従来、食料の生産や流通を妨げてきたのは、内戦や政情不安、貧弱なインフラといった政治状況だった。

 しかし、USAID(米国国際開発庁)の農業生態学者、ジェリー・グローバーは「重大な変化」が起こっていると言う。「食料不足をもたらす新たな原因が生じています。土壌の劣化や気候変動の影響で、十分な収量を得られない農地が増えているのです」

 フードタンクの報告書では、気候変動や食料価格の高騰、自然災害や紛争への対抗手段として、小規模農家が古くから実践しているさまざまな「農業生態学的な手法」を挙げている。

 例えば、植栽した樹木の間で農作物の栽培や家畜の飼育を行う森林農業(agroforestry)や、太陽光発電を利用して作物の根に直接給水する点滴灌漑、複数の作物を隣接して栽培することで日光や水、養分を最大限に利用する間作農法、生育の早い植物を植えて土壌の侵食を防ぎ、養分を補給する緑肥農法などだ。


ペルー、パンパラクタの畑でジャガイモを収穫する家族農家(写真:Jim Richardson /National Geographic)

グアテマラの農法にヒント

 元米農務長官のダン・グリックマンは中米グアテマラで、こうした農業生態学的な手法を視察した。トウモロコシや豆類だけを栽培していた畑でほかの野菜も栽培することで生物多様性を確保したり、コーヒーと別の作物とを輪作することで被害をもたらす菌類の発生を抑えるといった農法だ。マンゴーやプランテン(料理用バナナ)の栽培では点滴灌漑も進めていたという。

 グリックマンは、ナショナル ジオグラフィック協会が主催した「食の未来」フォーラムでこう語った。「グアテマラの農家がいま必要としているのは、肥料と良質な種です。遺伝子組み換え作物は必要としていません」

 遺伝子組み換え作物は、収量を増やすことだけを追求してきた大規模農業の産物だ。FAOによると、植物の遺伝的多様性が過去100年の間に約75%も消滅した原因は、化学肥料や農薬、遺伝子組み換え種子を大量使用してきた大規模な単一栽培農業にあるという。

 フードタンクは、持続不可能な農業技術によって、世界の耕作地の30%で土壌の養分が枯渇し、生産性が低下していると指摘する。しかしその一方で、その土地原産の作物をいろいろ栽培している家族農家の収量は、単一品種だけを栽培する農家より20〜60%も多いとする。

 さらに言えば、トウモロコシや小麦、大豆や米などに比べて、主に小規模農家で栽培されるキビ、モロコシ(ソルガム) 、そして近年注目されているキヌアなど「忘れられた穀物」は、水が不足しがちな土地でも育ち、病気にも強い。

 「これらの作物は“貧者の食べ物”と揶揄され、“雑草”とまで言われることもある。だが、気候変動の影響に対する抵抗力に優れた食料なのです」とフードタンク代表のダニエル・ニーレンバーグは話す。


オーストラリア、干ばつで荒廃した畑に立つ少女たち(写真=Amy Toensing/National Geographic)

■農業による貧困からの脱却

 小規模農家の手法は、気候変動や人口増加時代の食料供給のあり方を示している。しかし同時に彼らは、気候や人口の変化にとりわけ脅かされる存在でもある。

 サハラ以南のアフリカやアジア、中央アメリカでは、2ヘクタール以下の家族農家の大半が、耕作の困難な痩せた土地で農業を営んでいる。つまり気候変動や異常気象の影響を受けやすい土地ということだ。たいていの農家は貧しく、栄養状態も十分でない。そのうえこうした家族農家が集まっているのは、これから急激に人口が増える地域だ。限られた資源がさらに乏しくなるのは目に見えている。

 元農務長官のグリックマンはこう語る。「途上国の貧しい人々の大半は地方の農村に暮らしています。サハラ以南のアフリカや南アジアの家族農家や小規模農家に、より優れた農法に必要な道具、良質な種子や肥料、良い作物を育てるための技術情報を提供すれば、彼らを貧困から救い出すことができます」

 フードタンクが引用した国連ミレニアム プロジェクト・ハンガー タスク フォース の報告によれば、世界で飢餓に苦しんでいる人々のおよそ半数は小規模な家族農家だという。 こうした農家に投資すれば、より栄養価の高い作物を栽培できるようになる。それは農家を貧困から抜け出させるだけでなく、温暖化の進む地球を救うことにもなる。