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連載「温暖化とIPCC」(上) 異常が日常になる日

カナロコ by 神奈川新聞 3月27日(木)11時30分配信
 地球温暖化に関する最新の知見を集める国連気候変動に関する政府間パネルIPCC)の総会が横浜市西区のパシフィコ横浜で開かれている。31日には、温暖化が社会や生態系に与える影響についての第2作業部会の報告書が発表される。温暖化の現状と対策の課題を足元から見詰めてみた。

 数字は語る。2月に気象庁が発表した「2013年の世界と日本の年平均気温」。世界の気温は平年を0・20度上回り、過去2番目の高さとなり、日本はプラス0・34度で8番目。担当者は言い切る。「温暖化の傾向は明瞭に表れている」。日本の年平均気温の上位10位はすべて1990年以降に記録され、うち2000年代が6年含まれている。

 記憶に新しい昨夏の全国的な猛暑。高知県四万十市観測史上最高の41・0度を記録したのをはじめ、全国927地点中143地点で過去最高を更新。さらに秋田、岩手、島根など各地で過去に例のない豪雨に見舞われた。

 気象庁異常気象分析検討会会長を務める東大大気海洋研究所の木本昌秀教授は「自然には振れ幅というものがある。個々の台風の強さや雨量の多さを温暖化の影響と結論付けるのは難しい」としつつ、「気温が100カ所以上で過去最高になるなんて振れ幅の範囲を超えている。全体を総合すれば異常な気候になっていると言わざるを得ない」。

 昨夏、県内でも海老名で38・1度、横浜で37・4度と観測史上1位を記録した。異常気象は偶然訪れたものではない。

 そしていつか迎える、異常が日常となる日−。

■止まらない上昇
 米ハワイ大学などの研究チームは昨年10月、ある見通しを発表した。

 上昇と下降を繰り返しながら、緩やかに上がり続けてきた年平均気温。研究チームは過去150年に記録したその最高値を常に上回るようになる時期を世界の各都市で推定した。それによると、温室効果ガスの排出が今のペースで続いた場合、横浜では2041年にその時を迎える。

 これまでに観測された気温上昇の範囲を超え、二度と後戻りしなくなる。それは現時点で経験したことのない気候が通常の状態になることを意味する。しかも、排出量削減に取り組んだとしても、67年には現在の最高値を超えるという。

 温暖化の原因や気温上昇の予測を担当するIPCC第1作業部会も同様の予測を示す。

 昨年9月の報告書では温暖化の要因が人間活動である可能性を「95%以上」と結論付けた。その上で対策を取らなかった場合、21世紀末までに予想される気温上昇は最大4・8度とした。排出量を削減した場合、最終的な気温上昇は小さくなるが、それでも1・5度を上回るとしている。すでに排出された温室効果ガスの影響は避けられないとみられるためだ。

 執筆者として参加した国立環境研究所の江守正多さんは「自然の振れ幅を考えれば、対策をしない場合とした場合の違いが明確に現れるのは数十年後。逆に言えば対策をしたとしても、数十年は同じように温暖化していく」と話す。

 その上で「排出量の削減と同時に温暖化にどう適応していくかを考えることも重要だ」と指摘する。報告書は温暖化の進行に伴い、すでに熱波や大雨などが増加した可能性に言及。それに伴って生じる影響や被害を軽減するための「適応策」の重要性を強調している。

■生態系への影響
 IPCC第2作業部会に報告書の執筆者として参加した東大生産技術研究所の沖大幹教授も同じ考えだ。「気候変動の影響が別次元に本格化するのはまだ先だが、現在でもすでに影響は表れている。つまり気候変動を完全に止められたとしても、いま起きているような気象災害がなくなるわけではない。そのことを忘れずに災害対策、温暖化対策をしていく必要がある」

 生態系への深刻な影響も懸念される。

 県北西部に広がる丹沢山地。尾根筋を歩くと立ち枯れたブナが無残な姿をさらしている。シカの食害や害虫のブナハバチの大量発生、大気汚染などいくつもの要因が組み合わさった結果と考えられているが、追い打ちをかける可能性があるのが温暖化だ。

 IPCC第2作業部会の報告書の執筆者で国立環境研究所の肱岡靖明さんは言う。「ブナの生育に適した地域は温暖化の進行によって2050年までに現在の半分程度に減少し、今世紀末には西日本や本州太平洋側からほとんど消失してしまう可能性がある」

 ブナは寒冷な気候に適するため、温暖化により深刻な影響を受ける。他の樹種に比べて再生が遅いため、保護区の設定に加え、競争種の排除など積極的な管理が必要になるという。

 ただし、平均気温が5度以上上昇した場合、関東などでは移動可能な場所の少ない山頂付近にブナが存在していることが多いため、保護区の候補地もほとんど残らないという。

◇独自プロセスで影響力
 国連気候変動に関する政府間パネルIPCC)は地球温暖化に関する科学研究成果を集め、総合的に評価する組織として1988年に設立。90年に最初の報告書を発表し、5〜7年ごとに改定を重ねてきた。

 現在195カ国が加盟。各国の研究者や政府関係者が作成に当たる報告書は、国際的に合意された科学的知見として扱われ、国際交渉や各国の温暖化対策にも大きな影響力を持つ。

 報告書の目的は「何がどこまで分かっているか」を明らかにし、正確な情報を政策決定者をはじめ広く一般に提供すること。それが影響力を持つ理由は客観的、包括的な内容にするための作成手順と各国政府から承認を受ける独自のプロセスにある。

 IPCC自体が研究しているわけではなく、出身地域や分野の異なる多数の専門家の意見を取り入れている。政策には中立的で、特定の政策を提言することもない。報告書の公表には参加したすべての国が承認する必要がある。

 2007年には原発の有効性についての記述で推進派の米国と欧州の一部の国の間で意見が対立。憲法原発を禁止しているオーストリアが最後まで反対し、報告書に「オーストリアはこの記述に同意できなかった」との注釈が付けられて採択された。

 25日に始まった横浜会合には約500人が集まり、31日に新たな報告書を公表する。15年末に交渉期限を迎える地球温暖化対策の国際的な枠組みづくりに大きな影響を及ぼすことから、各国間で激しいやりとりも予想される。