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VTJの金網で輝いたベテランたち。宇野薫が語った、“19年目”の未来。

宇野薫選手に感動しました。勝手ながら掲載させて頂きます。

 

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持ち前の粘り強さで脅威の6連勝を果たした宇野薫。2010年以来となるUFC復帰なるか。© photograph by Susumu Nagao 持ち前の粘り強さで脅威の6連勝を果たした宇野薫。2010年以来となるUFC復帰なるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

一昨年の12月にリニューアルスタートしたVTJは、“アメリカ直結型”MMAイベントである。そのコンセプトはアメリカで(UFCで)勝てる選手の発掘と育成。試合場はリングではなくケージで、アメリカのアスレチック・コミッションが認定するヒジ打ち有効のユニファイドルールが採用されている。日本人選手たちにとっても、アメリカで初めてケージやヒジを体験するのではなく、日本で充分に経験を積んだ上で“本場”を目指すことができるのだ。

 今年からパンクラスでもケージ&ユニファイドルールが定期化、DEEPはリングとケージを併用している。いまやほとんどの選手が海外での活躍を目指しているだけに、この流れは時代の要請と言っていい。

階級を下げたISAO、初体験のケージで完勝。

 VTJから世界に羽ばたいた代表格が堀口恭司だ。現在、UFCで3連勝中の彼は修斗で世界タイトルを獲得しただけでなく、VTJで国際戦や他団体トップとの闘いを経験している。

 10月4日、大田区総合体育館で開催された第6回大会には、パンクラスのライト級チャンピオンであるISAOがフェザー級に階級を下げて初参戦を果たした。ケージでの闘いは初めてだったISAOだが、打撃とテイクダウンを巧みに織り交ぜた試合運びでリオン武(元修斗世界王者)に完勝。メインイベントではフライ級トーナメントの決勝戦で、扇久保博正がシーザー・スクラヴォスを下している。

 ISAOは25歳、扇久保は27歳。まさにこれから選手としてのピークを迎える時期だろう。今後もケージで、そして世界の舞台での活躍が期待される。

 ただ、VTJは若い選手たちだけのものではないし、世界への飛躍は若者の特権でもない。30歳をすぎた選手たちも、キャリア最後の挑戦としてこの舞台に上がっている。今大会では、そんなベテランの存在感も光った。

ベテランたちが見せた驚くべき強さ。

 37歳のマモルは、修斗で世界戦を経験している飛猿☆No.2にTKO勝ち。序盤は打撃で先制されたものの、カウンターのヒジ一発で出血に追い込み、負傷による続行不能に追い込んだ。

 38歳の修斗世界ウェルター級王者・弘中邦佳は韓国のキム・ドンヒョンに肩固めを極めた。キムのパンチで後退し、金網を背負う場面も多かった弘中だが、そこからタックルでグラウンドに持ち込んでからは完全に圧倒している。スタンドでのピンチは、キムを打撃に集中させ、タックルへの警戒心を緩ませる作戦だったのではないかとも思わせる試合運びだった。

 HERO'SやDREAMでの活躍でも知られる高谷裕之は、自分より一回り年下の高橋遼伍を左フックからのパウンド連打でKOしている。修斗の成長株・高橋のローキックで何度も体勢を崩されながら前進を続けた迫力には、さすがと思わせるものがあった。

39歳の宇野薫、3度目のUFCを目指して。

 そして宇野薫だ。修斗から始まりUFC、HERO'S、DREAMと数々の舞台に上がってきた宇野は、いま39歳。3人の子を持つ父親でもある。しかし格闘技への意欲は衰えることなく、UFCとの3度目の契約を目指し、修斗やVTJなどで6連勝を飾っている。

 今回、宇野が7連勝をかけて対戦したのはアメリカで11連勝中のラージャ・シッペン。サイドキックやバックスピンキックを駆使する変則的なストライカーで、宇野はなかなか組み付くことができない。2ラウンドには左目の上から出血も。普通の選手であれば、このままズルズルとペースを握れないまま試合を終えてもおかしくない。そんな展開だった。

 だがその2ラウンド、思い切ったパンチで活路を見出すとテイクダウンに成功。そこからパンチ、ヒジを連打してダメージを与え、最後はリアネイキッドチョーク(裸絞め)でシッペンを仕留めた。

「まだ格闘技をあきらめません」

 ベテランの勝利は、若い選手が出世街道を突き進む姿とは違う感慨を観客に抱かせる。“まだ頑張ってるんだ”という驚きと嬉しさ。“生き残ってくれた”という安堵。選手としての“タイムリミット”を意識せざるをえないからこそ、試合を見る際の感情も濃いものになっていく。

 ただ、それが本人の気持ちと同じかどうかは分からない。彼らに選手生活のカウントダウンをしているつもりはないはずだ。年齢を意識しながらも、“上”を目指し続けているからこそVTJという最前線で闘っているのだろう。

 この日は、宇野のデビュー記念日でもあった。1996年の10月4日、彼は桜井速人(後の桜井“マッハ”速人)とプロデビュー戦を行なっている。

「今日で19年目。こんなに長く総合格闘技ができるとは思ってませんでした。でも、まだUFCを含めて、格闘技をあきらめません」

 試合後、マイクを握ってそう語った宇野。印象深いのは「デビュー18周年」ではなく「19年目」と言っていたことだ。彼にとっては、これまでの18年よりも19年目、つまり未来のほうが重要なのである。