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「私たち、親会社にゴメンナサイしました」

日経ビジネス 2014年6月30日

 初めまして。筆者は、M&A(合併・買収)コンサルティング会社の社長を務めています。

 M&Aコンサルティングって言われてもピンとこない方も多いと思いますが、M&Aを使い、どの事業領域を、どうやって強化するかを検討する(M&A戦略作り)ことが1つ。さらにM&Aのディールに入ったら、そのプロセスを進めていくのが、もう1つです。これを、世間では、“アドバイザリー業務”と言っています。これも業務領域です。

 さらに当社では、M&A後のガバナンス体制やオペレーション体制を作る(PMI=ポスト・マージャー・インテグレーション)際のコンサルティングもやっています。

 2005年から今のチーム体制でやっていますが、その間、株主交代に伴って、会社名が変わりました。この10年間を、思い返すと、会社名だけでなく、M&Aを取り巻く環境も大きく変化しました。

 マーバルという今の名前になる前のこと、私たちの親会社は、総合コンサルティング会社でした。その親会社には、当時、とても自由闊達な社風があり、「自分たちのビジネスをどんどん伸ばしなさい」という雰囲気でした。

 その「自由にやらせる」という有難いグループ経営手法のもと、私たちは、当時、とても楽しく、生産的な時間を送っていました。事業領域を広げるって、それはもう、楽しくって仕方がないのです。

ウチって、親会社とのシナジー、ないんじゃない?

 新しい相談事が持ち込まれると「新たなチャレンジの機会がもらえた!」と感謝! 
 誰もやったことがないような領域の仕事にチャレンジすることって、とても創造的!

 会社の人たちみんなそういうところがあるのです。
 もしかしたら、いわゆるコーポレートカルチャーかもしれません。

 そうは言っても、忙しすぎると「もうちょっとスローダウンしようよ」とか「これ以上仕事がくると身体を壊してしまいます!」と言う弱っちょろい若い子の悲鳴も聞こえてきましたが、当時の私には、これが嬉しい悲鳴に聞こえていました。

 そうやって、楽しい日々を送っていたある日、「ウチって、親会社との間にシナジー効果ってあるんだっけ?」と、痛いところに、気がついてしまったのです。

 私たちは、いみじくもM&Aコンサルを稼業としていますので、クライアント(お客様)にはいつも「シナジー効果がないM&Aはやる意味がない!」と言っています。

 でも「私たちって、そんな偉そうなこと言える?」
 「自分たちは、親会社との間にシナジー、ちゃんと作られてる?」  「答えはNOかも。言っていることとやっていることが、違うんじゃないか?」

 大いに反省です。
 反省して、ちょっと努力してみました。

 親会社の各事業部を行脚して、私たちのサービス内容を説明して回ったり。
 事業部長には、ニューズレターも送りました(…と偉そうに書きましたが、社内報のメールをCCしただけ)。

 でも、モノゴトには“空気の流れ”というものがあって、いきなりそんなことをやってみても、「じゃあ、一緒にコラボしよう」という状況にはなりませんし、親会社も「シナジーを出そう!」と息巻いてくれるわけではありません。

 ということで、依然として親会社とのシナジー効果は実現しないまま。

 「シナジーが出ないなら、出ないでいいんじゃない?」と言われそうですが、私たちは真面目に考えすぎたのでしょうか。クライアントにシナジー効果の話をしていても、わが身を振り返ると、ちょっと後ろめたい感じがするし、言行不一致にずっと心地悪い思いを抱いていました。

子会社から突き付けた「オーナーチェンジ」

 「いいのかなぁ、このままで・・・どうしよう・・・」
 自由を謳歌していた私たちも、しばらく悶々と考える日々を過ごしました。 
 モノゴトって、考え始めると、閉塞感が漂ってきます。 
 閉塞感って、結構、手ごわい。

 そのうち「シナジーが作れているかどうかを悩むより、この只ならぬ閉塞感を何とかしなきゃ!」となっていきました。

 ここから、話は三段跳びしますが、なんと「この状況を打破するには、オーナーチェンジしかない!」という結論に達したのです。オーナーチェンジ、言って見れば、親会社を変えてしまうことですね。

 という話を、講演やセミナーで、経営者層の方々にすると、最初は面白がってフンフンと聞いておられますが、このオーナーチェンジの話に及んだあたりで「おいおい、ちょっと待てよ。今、何て言った?“オーナーチェンジ”?」。下を向いていた皆さまが、顔を上げ始め、私の顔をシゲシゲと見ます。

 キョトンとした顔。「この人何を言っているんだろう」と不思議そうに私を見つめる目。

 はい、はい、分かっています。そうなんです。この話、構えずに聞くと、すんなり耳に入ってくる話です。でも、よ~く考えながら聞くと、あり得な~い。

 子会社の側から、親会社に向かって「あなたが持っているウチの所有権(株式)を手放して頂戴!新しい引き受け手は、自分たちで探してくるから!」と言っているのです。

 これは、世間の常識からすると、話が全く逆!
 皆さんの目が言っています。 
 「子会社の分際で“自ら主導して、親会社を変える”なんて信じられん。聞いたことがない。非常識!」 
 「あ~、そんな目で見ないで…」。私を見る経営者のオジサマ方の目がだんだん険しくなってきます。

 最後は「ここで一言言わずにいられない!」と目が訴えている“正統派のオジサマ”から「質問」という形で、キビシイお叱りのお言葉が飛んできます。

 安心してください! その非常識だと思う感覚、本当は、私もよく理解できるんです。ウチの仕事は、なんて言ったってM&Aコンサルですから。

M&Aは手段であって、目的ではない

 オーナーチェンジを相談してくる会社なんて、そう滅多にいないことも分かっています。

 「子会社をどう再編するかを、俺たち親会社は真剣に考えなきゃいけない」というクライアントをお手伝いしていますので、ウチのような子会社がそのクライアントのグループ会社にあったら、自分のことは棚に上げておいて「困った子会社ですねぇ。どういう料簡の経営者でしょうかねぇ」と言うのかな。

 でも、考えてみて下さい。そもそも「M&Aは親会社が主導するもの」って、誰が決めたんでしょう。M&Aは、手段であって、目的じゃないのです。誰がM&Aを主導するかは、誰がM&Aを必要とするかによるのです。

 私たちの場合は、「私たちの事業をもっと伸ばすためには、誰がオーナーであるべきか?」という素朴な疑問から出発して、しかもその解決策を自分たちで見つけようと思った、という背景があって、オーナーチェンジという答えに行き着き、そうなると株式の売買になるので、M&Aという手段を使った、という単純なことでした。

 …と、“正統派のオジサマ”からの「質問」には、答えるのですが、それでも、まだ狐につままれたような顔をしています。理解の外って感じでしょうか。

 「そうかもしれんが・・・自分たちで新しいオーナーを見つけてきても、今のオーナーが株式を手放さなかったら、それまでじゃないの?」「だったら、株式を持たれている側、つまり子会社側が自分の株主を変えるためのM&Aって、そんなの普通は、ありえないんじゃないの?」「あんたたちの場合は特別でしょ?M&Aの専門家だから、できただけなんじゃないの?」などと、みなさまおっしゃいます。

 そうかもしれません。私たちのM&Aは、珍しい事例でしょう。それは、そのとおりだと思います。
 これを可能としたのは、当時の親会社の考え方でした。

 ともすれば、子会社を「自分の所有物」のように扱い、「親会社だったら子会社をどうにでもできる」と勘違いしている人たちが多い中、「企業というのは、社会に価値を提供する器。その器の中で、価値を実際に創出するのは事業

 だから事業を伸ばすことが企業の使命。自分たちよりも、もっとシナジー効果が期待できて、事業を伸ばせるのであれば、そこがオーナーになるのも一つの考え方」として、私たちを縛りつけようとはしませんでした。さすが、コンサルタントの集団、ロジックで行動します。

親会社は、子会社に捨てられないよう頑張りましょう

 子会社が主導するM&Aって、アリだと思いませんか?

 皆さん、試しに、「“誰が株主であるべきか”も、現状を前提としなくていいから、どうしたら、自分たちの事業を成長させられるか、マッサラの状態で、自分たちのビジネス展開を考えてみたら?」と子会社に持ちかけてみたらいかがでしょう。

 もしかしたら、親会社の存在自体が、子会社の足かせになっていることもあるかもしれませんよ!
 「“誰がオーナーであるべきか”なんて、これまでおこがましくて、言い出せなかった」と思っている子会社があるかもしれませんよ。そういう子会社にはチャレンジさせてあげたらいいかも。

 しかしそうなると、グループ内で大切な役割を担って欲しい優良子会社が、硬直化した親会社に見切りをつけて、さっさとグループを出ていくかもしれません。

 親会社としては、それは困る!。ならば、親会社も、子会社に愛想をつかされないように、必要な努力をしなきゃいけないということです。

 そんな議論をしながら、件のオジサマ、最後は、ひとまず私を質問から解放してくれますが、「アンタの話、頭じゃ分かるけれど・・でもね、腑に落ちないんだよねぇ」と、おっしゃいます。

 そうそう、実は、M&Aって「頭じゃ分かるけれど、腑に落ちない」ことが多いのです。自分たちが主体者としてM&Aを使ってみて初めて分かったことも多くありました。

 「ええっ、そんな事になるんだ、知らなかったわけじゃないけれど、そんな~~~理不尽!」
 ということが多いから、M&Aは、危険な飛び道具だと思われている。 
 「ハゲタカ」呼ばわりもされるし、胡散臭いとも思われている。 
 これって、ちょっと切ない。

 だってM&Aは、使いこなせれば、最強の経営のツールにもなり得るのだから。

 そんな観点から、M&Aの現場で起きている「理不尽な話」について、次回から、少しずつ書いてみたいと思います。お楽しみに。

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えー、と。

自分の会社…、いや、なんだか、な…。