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サハラ砂漠の2%で世界の電力需要をまかなう高効率太陽光発電

 通常の太陽光発電では太陽光のうち最大30%しか利用できないが、IBMは残りの7割の多くを熱として再利用することで、システム全体の熱損失を入射エネルギーの約20%まで減らせる「HCPVT(High Concentration Photovoltaic Thermal)」を開発した。

IBM研究所が制作したHCPVTの試作品。

 チューリッヒにあるIBM研究所は4月22日(現地時間)、IBM社のスーパーコンピューター技術を応用した冷却システムにより、集光型太陽光発電(CPV:concentrated photovoltaic)の全体的な効率を劇的に向上させることに成功したと発表した。

 同研究所に設置されたシステムは「HCPVT(High Concentration Photovoltaic Thermal)」と呼ばれ、他のCPVと同じように、入射する太陽光をパラボラ反射鏡で集めて太陽電池に集中させている。反射鏡は追跡システムを使って太陽の動きを追い、太陽光を2,000倍にして高効率のトリプルジャンクション太陽電池が搭載されたセンサーに集中させる。

 こうしたシステムでは、1平方センチメートルの太陽電池チップ1枚で日中に平均200〜250Wの電力が生成され、これは入射した太陽光のうち最大30%を利用していることになる。そして残りの70%のエネルギーは通常、熱として失われる。しかしIBM研究所の技術では、水を使ってその熱の多くを再利用することにより、システム全体の熱損失を、入射エネルギー全体の約20%まで減らせるようになったという。

 この熱システムは、IBM社が製造して2010年からスイス連邦工科大学チューリッヒ校で稼働している6テラフロップスのスーパーコンピューター「Aquasar」に使われた技術を応用して作られたものだ。Aquasarでは水を冷却液として使用することにより、エネルギー消費量を同時期の空冷型マシンの3/5に減らした。

熱せられた水は、大学の建物を温めるためにも利用できる。そのためAquasarの二酸化炭素排出量は、水を暖房に利用しなかった場合と比べて15%まで削減されるとIBM研究所では主張している。

 IBM研究所が開発したHCPVTシステムでは、Aquasarと同じように直径50〜100μmのマイクロチャネルを使って、水を熱源(Aquasarの場合はCPUだが、このシステムでは太陽電池)のすぐ近くまで運んでいる。そのため、より大規模な水路を使うほかのシステムと比べて、熱抵抗が1/10まで削減されるという。

 「奇妙に聞こえるかもしれないが、このシステムでは温度の高い水で冷却することができる」とIBM研究所のブルーノ・ミシェル博士はSkypeで語ってくれた。「太陽電池チップは摂氏100度ほどで、冷却液の温度は90度だ」

 IBM研究所では、副産物としての熱を利用することで、水を浄化したり、吸収式冷凍機(吸収力の高い液体に冷媒を吸収させて発生する低圧によって、別の位置の冷媒を気化させて低温を得る冷凍機)で建物を冷やしたりできるシステムを検討している。

 研究チームは今回、4cm四方の太陽電池チップを搭載し、約1kWを生み出す試作品を作成した。今後は、25cm四方の太陽電池チップを搭載する100平方メートルのシステム(以下の想像図)を作成したいと考えている。こちらは25kWの電気と50kWの熱を生み出せる予定だという。

 試算によれば、サハラ砂漠の2%をこのHCPVTシステムで覆い尽くせば、世界の電力需要を満たすことができるという(送電の問題は別の話だが)。もちろん、このシステムは砂漠に限らず、世界のどの場所でも使える。熱を利用できるため、応用例が広いという。

 このシステムは5年前から開発が行われているもので、最初はエジプトのナノテク研究センターと共同で研究が行われていた。