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AKB48のルーツは京都花街にアリ!?(上)共通の「ビジネスシステム」とは

西尾 久美子 :京都女子大学現代社会学部准教授 2012年11月21日
「京都花街」と聞くと、多くの読者にとってはあまり縁がない世界のように感じられるかと思います。テレビや映画、あるいはお芝居などで、舞妓さんや芸妓さんの姿やお座敷遊びの様子を見たことがある、その程度がごく一般的な認識でしょう。

しかし京都花街は、一流のおもてなしでグローバルな認知度を誇る、日本を代表する伝統文化産業です。350年間という長きにわたり「一流」であり続けてきた京都花街には、現在のビジネスシーンにも通用するさまざまな制度的叡智が育まれてきました。

この連載では、そんな京都花街の叡智を紹介するとともに、現代の事象も取り上げながら、読者の皆さまに「ほー」「へー」などと、面白く立ち止まっていただける一瞬も提供します。

そして、ビジネスの継続とビジネスパーソン自身の能力を伸ばすことに役立つ、ビジネスに使えるヒントを紹介していこうと思います。

初回は、京都花街とAKB48の類似性についてです。「京都花街とAKB48」、えっと思われたのではありませんか? 実は京都花街で育まれてきた「一流の育て方」と「ビジネスシステム」、そしてそれらの結び付きの工夫は、AKB48にうまく取り入れられているのです。

この点をご説明するために、まず京都花街のビジネスの仕組みについて見ていきましょう。

■京都花街のビジネスの仕組み

 京都花街といえば、すぐに「舞妓さん」を思い浮かべられるでしょう。彼女たちは、おおむね10代。中学卒業後、全国から京都にある5つの花街にやってきて、置屋さんに住み込みます(京都では置屋さんのことを、屋形【やかた】と呼びます。主に舞妓さんの育成を行う、プロダクション兼人材派遣会社のような機能を持っています)。

舞妓さん希望者たちは、京ことばや立ち居振る舞いなどの舞妓さんらしさを、日常生活を通じて身に付けます。さらに日本舞踊や茶道などの伝統的かつ芸術的な専門技能の教育も受け、約1年後に舞妓さんとしてデビューします。舞妓さんになると「お座敷」と呼ばれるおもてなしの現場に行けるようになり、京都花街にある歌舞練場の舞台に立てるようにもなります。

「お座敷」で一緒にお客様をもてなす芸妓さんと舞妓さんは、実は固定メンバー制ではありません。お茶屋さん(おもてなしのコーディネーターとでも言えばわかりやすいでしょう)が、顧客の要望(たとえば、少人数の接待・大規模なパーティ・京都観光関連イベントなど)に沿うように、花街にある複数置屋さんから芸妓さんと舞妓さんを手配します。つまり、芸妓さんと舞妓さんは、お座敷ごとに編成される、プロジェクトチームでおもてなしをするのです。



お座敷がどのように成り立つのかをまとめたのが、上の図です。

さて、AKB48の公演やTV出演をご覧になったり、CDを購入されたりした経験のある方は、この京都花街のビジネスの仕組み、どこかAKB48の仕組みと似ている、そんな気がしませんか?

 AKB48は、よく知られているように48人のメンバーから構成されるグループではありません。一般的な流れとしては、応募者が書類審査で絞り込まれ、オーディションに合格するとAKB48へのメンバーになる道が拓けます。第○期生と呼ばれるのは、オーディションの時期の違いからです。

まずは研究生からスタートし、歌や踊りのレッスンを受け、そのうえで正規メンバーに選ばれると、彼女たちは、チームA、チームK、チームBの3つのうちのどこか1つに所属します。

AKB48として活動するときには、各チームから選ばれたメンバーがプロジェクトチームを組んでいます。私たちがその活動を楽しんでいるAKB48は確かに実在しますが、いつでもどこでも同じ人数・同じメンバーという固定制ではありません。秋葉原の専用劇場の公演とTV出演は別のメンバーから構成されていたとしても、どちらもAKB48なのです。

つまり、AKB48と名乗れるメンバーは決まっていますが、観客が目にするAKB48は、エンターテインメントの現場に応じて、その場その場で編成されるプロジェクトチームなのです。このAKB48のマネジメントは運営会社の株式会社AKSによって行われ、総合プロデューサーが秋元康氏です。

秋元氏のコーディネートによって、チームメンバーの編成がその都度異なっても(研究生は秋葉原の専用劇場にも出演しています)、じゃんけんでCD作成のメンバーが決まっても、チームとしてのトータルイメージが明確に統一されています。



そして、AKB48を構成するメンバーの一人ひとりは、AKB48であると同時に、その多くはいわゆる芸能プロダクション(所属事務所)に所属するタレントです。

タレントとしての個人のマネジメントは個々の所属事務所に任せて、AKS秋元康氏はAKB48としてのマネジメントに注力をするという、ビジネスの仕組みが出来上がっています。このビジネススキームをまとめると、上の図のようになります。

AKB48と京都花街

この図を見ていただくと、AKB48の興行の現場は、AKB48として活動が許されたメンバーによって構成されるその場その場のプロジェクトチーム制によって成り立ち、このプロジェクトチームをプロデューサーと運営会社が顧客満足を考えて組み立て(あるいは総選挙のように顧客参加型で組み立て)、しかもそのメンバーはそれぞれ別の所属事務所でマネジメントされている、ということがわかります。

実はこの仕組みは、京都花街のお座敷の成り立ちと同じビジネスの設計図に基づき、組み立てられています。

そう、舞妓さんたちも、おもてなしの現場ごとにお茶屋さんによって編成されるプロジェクトチーム制で、所属先の置屋さんは同一とは限りません。所属事務所が異なるAKB48のメンバーが集まり、プロジェクトチームAKB48になって、TVに出演したり劇場の舞台に立ったりすることと、京都花街のお座敷の成り立ちのビジネススキームは同じなのです。

■有効性と効率性

ビジネスの基本は、顧客が認める有効な差別化をどう作りだすのか、ということ。さらに有効なだけでなく、収益を生み出す効率性も必要です。有効性(顧客満足度)を高めようとすると経費や時間がかかります。そうすると収益率が下がり、ビジネスとしての効率性に問題が生じます。

つまり、有効性と効率性は両立のバランスが難しい、まさにトレードオフの関係にあるので、この2つをうまくバランスさせることが、ビジネスを継続させるための基礎要件ともいえます。

「会いに行けるアイドル」という新しいコンセプトで誕生したAKB48は、顧客満足度を高めるために、多人数で構成される「アイドルグループ・AKB48」というブランドのイメージを維持・向上していくことが求められます。この有効性に相当するところを、プロデューサーが顧客満足度を考慮し、現場に合わせて設計しています。

一方で、メンバー個々の立場になれば、現在のマネジメントとAKB48卒業後の将来の道を模索し、今からそれに備えた手を打っていくことも重要です。

そこでAKB48の活動を通じて育ったメンバーは、それぞれ芸能プロダクションに所属することで、個人の事情に応じてマネジメントがされています。

これにより、AKB48をプロデュースする側は個人のマネジメントを外部化し、顧客満足度を高めるためにAKB48そのもののマネジメントに経営資源を投入することができ、効率性を高めています。ですから、一定期間内に所属プロダクションを見つけることがメンバーには求められており、この外部化はルールにもなっています。

ここまで見てきたように、AKB48と京都花街は、有効性と効率性のバランスをとるための仕組みがまったく同じです。顧客満足度のマネジメントの責任者がプロジェクトチーム制を運用することによって顧客満足度を高め、一方で個々のメンバーのマネジメントを外部化しているのです。


著者の近刊『舞妓の言葉』では、京都花街の叡智が詰まった「一流の育て方」に関する珠玉の言葉を紹介している。
忘れてはならないのは、この仕組みの源流は京都花街の起源、すなわち350年以上さかのぼるものなのです。AKB48の華やかさだけに目を奪われていると、目に見えるものしか見えず、その背後にある大きなビジネスの枠組みを見落としてしまいます。

AKB48と京都花街、まったくつながりがないように見える両者の比較から、日本のエンターテインメントのビジネスシステムについて、驚くほど似ている骨格が浮かび上がりました。

似ているのは「ビジネスシステム」だけではありません。次回は、両者に共通の基礎教育の徹底と専用劇場について、「一流の育て方」という視点から考えていきます。