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第1回 これは使える!マルチタスクをミスなく大量にさばける、3つの法則

毎日忙しすぎてヘトヘト。限られた時間の中、どのようにすれば自分の仕事のパフォーマンスを最大化できるのだろうか。医師と経営者とコンサルタントの「3足のわらじ」をはき、マルチタスクをこなす裴英洙(はいえいしゅ)先生に、医学的・経営的・MBA的3つの視点から、超多忙でも効率良くミスなく高い質で仕事をこなす秘訣を伺いました。

マルチタスクをミスなくこなす3つの法則

 現在は現役医師として、そして医療機関再生コンサルタントとして日々医療機関の経営支援に従事している私ですが、かつては外科医として大学病院に勤務していました。そんな私が外科医として手術に明け暮れていた頃は、実にハードな毎日でした。
緊急の患者さんの飛び込み手術も多く、いわゆるマルチタスクの中で、常に優先順位は入れ替わり、重要度や緊急度も変わるという日々。もちろん、手術にミスや失敗は許されません。何が最優先か、それは患者さん以外何者でもありません。また、チームでの仕事となりますので、仮に自分だけが優秀でも意味がなく、いかにチームのパフォーマンスを上げていくかが課題でした。

・どれも重要でどれも優先度が高くて、失敗は許されない
・しかも同時多発的に次々と飛び込んでくる仕事

 これにいったいどう対応すればいいのか。
ミスや失敗が許されない中で、日々重大な決断を下し続けた経験から、次の3つの法則を編み出しました。

1.すべての仕事に優先順位をつける。ただし「常に変動するもの」とする
2.「いざ!」というときに最大のパフォーマンスが出せるよう、あらゆる準備をしておく
3.ミスや失敗を未然に防ぎ、「ばらつき」を極力なくす方法を身につける

 この法則は忙しいビジネスパーソンの皆さんにも、そのまま適用できると思います。
マルチタスクを失敗なく効率良くこなす、そんな「いいとこどり」なやり方ってあるの? と、疑問に思われた人も多いでしょう。さっそく具体的な方法も交えながら説明していきます。

■まずは、すべての仕事の「優先順位」を決めてしまう

「すべての仕事に優先順位をつける」、すべてはここから始まります。
同時にさまざまな仕事を行う必要があっても、当然ながらカラダは1つです。となると、1つずつ着手していかざるを得ません。どんなにたくさんの仕事が同時多発的に舞い込んできたとしても、必ず、時間を取って、すべての仕事に優先順位をつけましょう。「この忙しいときに面倒だな」と思うかもしれませんが、急がば回れです。結果として、「次にやること」を頭に入れながら動けるので、早く、確実に、漏れなく、仕事が片づきます。

■とはいえ「優先順位」は常に入れ替わる

 と言っても、「最優先」は常に変化するもの。
仕事の横入りが当たり前の中では、優先順位は常に変わるものなのです。こう言うと「じゃあ最初から優先順位などつける必要はないのでは?」と思うかもしれませんが、それは間違い。「最優先」が新しく入ってきたときに、何を後回しにするのか。この判断を行う際にも、やはり「優先順位」が必要になってくるのです。

 優先順位をいったん決めると頑として変えない人がいますが、これは危険。気づけば「緊急!」「大至急!」の山の中で、本当に大事な仕事が埋もれてしまう可能性があります。外部環境に応じてこまめに優先順位の見直しをするほうが、結果的にアウトプットが良くなることも多くあります。

■医療現場の常識「トリアージ」の手法で、正しい優先順位をつける

 医療の世界には、「トリアージ」という優先順位のつけ方のルールがあります。一刻一秒を争う救命救急の医療現場では、まず誰を助けるか、誰を後回しにするか、を判断しなければなりません。この優先づけの技術をトリアージと呼びます。テレビドラマなどで耳にしたことがある人もいるでしょう。

 少し専門的な話をします。トリアージは負傷者を短時間で次の4つに振り分けます。
1.最優先治療群(赤色/一刻も早く治療すべき)
2.非緊急治療群(黄色/赤色よりも急がなくても大丈夫だが、比較的早期に治療に着手すべき)
3.軽処置群(緑色/今すぐの治療や搬送の必要ないもの。後回しできる)
4.不処置群(黒色/現状以上の資源<医療機器・人員>が必要となり、すべての患者の救命に不利益となるため、残念ながら諦める)


 この判断をできるだけ速やかに行い、判断後はすぐに治療に移る。実際の現場では、重要度は色つきのタグを患者さんに貼ることでトリアージします。
ビジネスの世界にもこのトリアージのやり方は使えます。

 トリアージの基本は、まず現状の資源で対処可能かどうかからスタートします。どう逆立ちしても対処できない問題は、当面の間、優先順位から外します。
タグの色では黒色がこれに当てはまります。ビジネスに置き換えれば、予算や人員などから「今すぐはムリ」などと、判断できるものもあるかもしれません。

 解決できそうかどうかの判断は、どうすればいいか。次の要素などから、総合的に行います。

・これまでの経験
・自身のリソース(資源)
・チームメンバーの能力
・残された時間(締め切り、納期)
実際にやってみると分かると思いますが、いきなり緊急な対応を必要とする赤色タグを見つけるのは、案外難しいかもしれません。
そのような場合は、たくさんあるタスクの中から、緑色タグ、つまり誰でも対処できる、短時間で対処できる、後回しできる問題を見つけ出し、それを省くことから始めるのもいいでしょう。

 ビジネスでも医療でも救命処置の優先順位は赤色 → 黄色 → 緑色 → 黒色となります。黒色は放置しておきます。無駄な努力は行わない。もしくは、他の組織や人に任せるのも手かもしれません。
トリアージとは、今あなたが「本当にやらなければいけないこと」を見出し、たくさん抱えているタスクに優先順位をつけて、限られた資源を効率的に配分することなのです。

■仕事の「山」探しをしよう

 また、優先順位を決める際に助けになるのが、山を探す方法です。
たとえば医療現場では、一日に何十件もの診断や治療をすることがあります。その場合、私は最初にずらっとある症例(患者さん情報、カルテなど)をざっと見て、どこに「山」があるのか、を考えます。「山」とは、緊急度が高く、重要度が高く、労力を要する仕事のことです。つまり、どれくらい手がかかるのかを、仕事に取りかかる前にシミュレーションするクセをつけています。

 山探しは、同じ軸でひととおり見ることが大事です。
たとえば、軸に「時間」を取るとしましょう。すると、どれくらいの時間がかかるのか、この症例は10分、この症例は1時間など、時間という軸でタスクを見ます。もしくは、情報収集という軸もあります。図書館に行く必要があるのか、手持ちの資料で足りるのか、医学文献検索サイトでのチェックが必要かどうか、という軸でも可能です。

■ポイントは「ざっと&複数」見る

 ここでのポイントはあくまでも「ざっと見る」ことと「軸を複数持つ」こと。複数の軸で見たとしても、ざっと見るのは5分とかかりません。
自分でするにはどれくらい必要か、他人の手を借りる必要があるのか、借りるならばどれくらい他人の手が必要か、などの必要労力をざっと把握するという感じです。

 たとえば、営業マンは一日の仕事の計画を立てるときにスケジュールを眺めると思います。その際に、「このクライアントは手ごわいから時間がかかる」「この常連さんは挨拶だけだからすぐ終わる」「今日のスケジュール3番目にあるプレゼンは企画の集大成だから、上司の最終確認をもう一度行い、余裕を持って現場に到着しておこう」などと考えるはずです。そうすると、時間の配分、上司や先輩のヘルプの必要性、モチベーションの持っていきかた、食事を取る時間、などの自分のスケジュールの動線が見えてきます。

 事前に心づもりをしておくのと、心づもりをしておかないのとでは、現場での焦りがまったく異なります。

■「勝負タスク」か「消化タスク」か、考える

 最も分かりやすい「軸」は「時間の軸」「集中力の軸」だと思います。
タスクの大まかな必要時間をつかみ、このタスクは勝負タスク、あのタスクは消化タスク、などと集中力の配分を想定することで、自分の資源配分を事前に調整します。
人間は長時間、集中力を持続することはできません。集中力にも緩急をつけることが必要です。

 このように軸を変えながらタスクを眺めることで、仕事に取り組む自分の力加減や時間配分をコントロールできます。人の資源(体力、脳力、集中力)は有限です。無駄なく無理なく自分の資源を効率的に配分し、サクサク効率よく、そしてミスなく仕事をこなしていきたいものです。