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「年収が1.5倍にアップする転職ノウハウ」

(かなり長文)

週刊ダイヤモンド』の最新号(7月14日号)は、おなじみの“給料と仕事”の特集だ。色々な職業が、年収でいくらくらい貰っているのかがよくわかる。今回は、会社ごとの将来の予測収入を試算してランキングした点が特徴だ。

筆者は、この号の表紙の左下にある「年収が1.5倍にアップする転職ノウハウ徹底解説」という、特集内の記事のタイトルに目を惹かれた。実は、筆者は、過去に12回転職している。「転職ノウハウ」は他人事ではないし、まして「年収が1.5倍にアップする」とあるので、いったいどんなケースやノウハウを紹介しているのか、興味津々でこの記事(P58〜63)を読んだ。

この記事は2部構成になっている。前半が転職市場で需要のある人材・スキルの説明と転職のノウハウの総論が語られていて、後半では「転職の成功者に聞く! 年収を1.5倍に上げる方法」と題して、4人の転職経験者の具体的な事例を挙げている。

取り上げられた4人の年齢は、30代が1人、40代が1人、50代が2人だ。40代、50代でも、「年収が1.5倍になる転職」が可能な場合、そしてやり方がある、ということだ。読者にとっても、興味の湧く話ではないだろうか。

以下、この記事に沿いながら、筆者から「考え方」と「ノウハウ」をいくつか補足したい。

記事は冒頭で、転職市場において“優秀な人材”とは「会社という後ろ盾がなくなったときでも高いパフォーマンスを発揮できる専門的なスキルを持つひとのことだ」と述べる。

確かに、こうした人材にニーズがあるのは事実なのだが、雇う側から見た人材の価値としては、もう1つ重要なカテゴリーがある。

それは、「顧客を持っている人」だ。ある人物を雇うと、この人物に付いている顧客を獲得することができる、といった人には確実なニーズがある。

それはそうだろう。こうした人物は、「売り上げ(の増加)」が計算できるわけだから、雇う側から見て高い価値がある。あえて言えば、いくら稼ぐかわからない「スキルのある人」よりも、確実に商売になる「顧客を持っている人」の方が、確実な価値を持つ人材として転職市場では評価される。

■特別なスキルがなくても諦めるな!
 「人脈」も特上の人材価値になる

読者の中にも数多くいらっしゃるはずの営業マンは、ご自分が競争力のある特別なスキルを持っていないからといって、自己評価を下げる必要はない。あなたが転職すると、あなたに確実に付いてきてくれる顧客を持っているなら、あなたには「特上の価値」がある。

「顧客を持っている」という状態に準ずる形として、顧客を獲得する能力が極めて高いことが評価される場合もあるし、顧客と「コンタクトをつくる」人脈と能力が買われる場合もある。

前者は、優れた営業マンあるいはセールスマンということだが、「優れている」ことが認められるためには、記事の中でも強調されているように、最低限「数字で表すことができる実績」が必要だ。加えて、この実績が、「会社の名前」や本人よりも周囲の協力によるものだったり、単なる幸運の産物だったりしないことが、それなりのリアリティをもって伝わることが大事だ。

必ずしも、実際にお金を使ってくれる顧客を「連れて行く」ことができなくてもいい。「顧客を持っている(人)」ということを主張できる人脈の保有には、「お金と一緒についてくる顧客」の他に、「濃くはないが、広くて上質」な人脈もある。

ただし、「濃くない」とは言っても、いつでも電話で話ができて、依頼すれば「ビジネスとして正式に時間を取って貰える」くらいの個人的な関係を、自分の勤務先の会社が変わっても維持できるくらいに持っていなければならない。単に名刺を持っているとか、仕事で会ったことがあるというだけでなく、「会社を離れても維持される対人関係」であることが重要だ。

筆者の知り合いで、数社の外資系金融機関を渡り歩いた方がいるが、彼は、事業会社、金融機関、保険会社などの幹部であり、ビジネス上のキーマンである人々と、多数個人的に良好な関係を維持している。

たとえば、新しく日本に進出してきた外資系金融機関にとって、彼は重要な潜在顧客とビジネス上の話ができる関係をつくる上で、極めて重宝だ。彼は、40代、50代にも転職しているが、60歳を過ぎてからも、外資系の会社に先方から乞われて転職した。外資系の金融機関なので、年収はそれなり以上のはずだ。

なお、「人脈ポートフォリオ」には「旬」と「賞味期限」がある。自分が親しい関係を維持している知り合いがビジネス上のキーマンになる(多くは「出世する」)ことで人脈の価値が上がる場合もあるし、年月が経って親しい知り合いが出世し過ぎたり、異動・引退したりして、ビジネスの現場から離れて価値が落ちることもある。

筆者の知人のように人脈を武器にするには、幅広い年代の顧客と個人的に良好な関係を構築・維持する努力が必要だし、人脈ポートフォリオを絶えず有効なものとしておくための努力が必要だ。人脈の獲得と維持にも、スキルにおけるそれらのような努力が必要なのだ。

とは言え、「専門的なスキル」、特に資格で裏書きされたようなスキルばかりが、商品価値のあるスキルだと誤解しないで欲しい。現実の転職市場では、「資格」よりも「実際の業務の経験」の方がはるかに強い場合が多い。資格マニアや、自己啓発に過大な期待を持つ向きは注意したい。

■最も重要なのはこれまでの「実績」
 「成長」も転職できる人材の条件

人材の「能力」は、前述のように人脈まで含む幅広い概念で捉えていいが、現実の仕事による「実績」を伴わないと評価されない。世の中は、そういう仕組みになっている。

加えて、一般に人材の価値は、「能力」を一定とすると「年齢」が上がると下落する性質を持つ。これは、使う側から見たときに、より若くて時間がある方が長い期間使うことができることや、若い人の場合には経験を積むことで能力の伸びしろが期待できることの2点による。

今回の記事の文中にも「常に成長していかなければ市場価値は落ちる一方」とあるが、原理はその通りなのだ。

さらに、一般的な賃金の慣行を考えると、年齢が高い方が賃金相場が高くなるので、よりコスト高になるし、年齢の高い社員に対しては、マネジメントのスキルやなど人材としての要求水準が上がる傾向がある。

以上のような事情から、35歳を過ぎると転職が難しくなる、俗にいう「転職年齢35歳限界説」が生じる。確かに、一般的な事務職の仕事で、無事に勤まってきた組織人であるというだけでは、会社や収入のランクを落とさなければ転職が難しい場合が多い。

■本人が気づかない「人材価値」もある?
 40代、50代でも転職で成功する人とは

それでは、40代、50代でも年収が上がるような転職とは、どのような事情で可能になるのか。

それは、個人の人材価値が現在の職場で十分評価されていない場合と、職場を変えることによって人材価値が向上する場合に起こる。多くの場合、しばしば本人も気づいていない人材価値が転職によって実現して、こうしたことが起こる。

本人も見落としやすいと思われるのは、1つには市場価値のあるノウハウを持っている技術者であり、もう1つには、子会社(海外の子会社ならなおいい)のマネジメント経験だ。

いずれかを持っていて実績があっても、自分が勤めている会社での人事評価が高くないというケースはよくある。こうした場合、働く場を変えると、自分の持つノウハウが貴重なものとして評価されたり、大きな仕事を任されたりして、大きな人材価値の実現につながることがある。

特に、技術系の方は、自分の技術が他の会社ではどのような価値を持つかを考えてみるべきだろう。

事務系であっても、本社で上手く立ち回っていただけの人(失礼!)よりも、子会社に飛ばされていた経験を持つ人に、社外では高い値が付く可能性がある。

また、こうした自分の仕事が過去に持っている「実績」と、記事でいうような「英語」「経理・財務の知識」「ITの専門知識」などが組み合わさると(集合論の「共通集合」をイメージされたい)、その人物は、単に有用なだけでなく、希少価値を持っている人材になる場合がある。

詳しくは『週刊ダイヤモンド』(7月14日号)の記事を見て欲しいが、海外子会社の経験が生きた50代、品質管理に関するスキルと英語を仕事上身に着けていて異業種で評価された40代、工場の立て直しにスキルと「数字で示せる実績」を持ち外国語や会計知識についても「自己投資」を怠らない50代、米国公認会計士の資格(狙い目かも知れない)をもう一押しのテコに使って電力会社から商社に転職した30代といった、読者のロールモデルになる具体的事例が紹介されている。

■転職にコツはあるのか?
 「商品」の魅力をわかりやすく伝える

具体的な転職のノウハウについて、記事は特に職務経歴書の書き方を詳しく解説している。たとえば、自分のコアスキルに絞って、具体的な数字や事柄で自分の能力と実績を語ること、などだ。

転職は「自分(の労働力)」という商品を売る「商談」なので、商品の魅力はわかりやすく、印象的に、プレゼンテーションしなければならない。「積極的(な性格)」「好奇心旺盛」「リーダーシップがある」など、新卒の学生が自己PRに使うような抽象的で紋切り型の言葉ではなく(注:学生の皆さんも、これらの言葉ではダメです!)、具体的なエピソードで、商品の魅力を訴えなければならない。

転職経験者として、筆者からもノウハウについて、いくつか補足しておこう。

まず、面接に臨むに当たっては、「会社を辞めてもいいと思う理由」について、きちんとまとめておくことだ。

採用側は、面接で候補者の人柄や姿勢を知りたいわけだが、これが最も端的に出やすいのが、「今の職場をなぜ辞めるのですか?」あるいは「過去の転職は、どういった事情でされたのですか?」という質問に対する答えだ。

この説明で「詰まると」、あるいは「外すと」、まず採用されることはない。自分がどう説明するつもりか、紙に書いて、これを自分に読み聞かせて、採用する側の気持ちになってチェックしてみよう。

この点がしっかりできていれば、面接に関しては、新卒の場合と基本は同じだ。
学生に対して「何を勉強しましたか?」の代わりに、中途採用候補者に対しては「現在の(あるいは、今までの)仕事の様子について説明してください」になる程度で、後は「当社を志望する理由を説明して下さい」、さらに「当社に入社したら、どのような仕事をされたいですか?」という質問に対する答えがしっかりできていればいい。

あとは、面接のできるだけ早い段階で、「誠実」「賢い」「成熟した大人」といった印象を与えることを目指そう。面接で上下できるのは、相手が感情の動きを通じて持つ自分の印象の好悪だ(後でそれ以外の要素と合計されるが、面接のウェイトは大きい)。短時間の面接でも、長時間の面接でも、結果はそう変わらない。最初に持たれる印象が大切だ。

■新しい職場に早く適応することで
 転職は初めて「成功」と言える

また転職は、単に転職先に入社できればそれでいいというものではない。転職後の職場に早く適応して、快適に仕事ができる状況をつくり出すことが大事であり、これに成功して初めて、転職に成功したと言える。

新職場への適応のコツをいくつか挙げると、まず自己アピールを急がずに、新しい職場の人々が何を考えているどんな人たちなのか、よく観察することだ。

転職者は、ただでさえ注目を集めるので、自分の性格や意見などを知って貰うことは後からで十分だし、相手に合わせて的確に伝えることが大事だ。気負いすぎて、最初が上手く噛み合わないと、人間関係がその後長期的にしっくり行かないことがある。

また、転職者は、新しい環境に適応するために気を使うので、本人は気づかないうちに、ストレスを感じていることがある。

日常的なストレスを早く低下させるためには、入社したらまず座席表を手に入れて、周囲の人の名前を早く覚えるとか、電話やコピー機など日常的に使う機械の使い方やネットワークの設定などに早く慣れるなど、早めに「知らないこと」「他人に頼まなければならないこと」を減らす努力をするといい。

また、転職1年目くらいには、骨休めの休暇(1週間もあれば十分だが)を取るくらいの余裕を持とう。

■常に転職の可能性を頭に置き
 自分のキャリア・プランニングを

若い人向けにもひとこと言っておくと、「将来は転職もあり得る」ということを前提に置き、自分の「人材価値」をいかに育てかつ守るかを考えて、自分のキャリア・プランニングを持つと、自分の職業、ひいては人生の可能性を有利に拡大することができる。

典型的に意識すべき年齢は、「28歳」と「35歳」の2つだ。28歳までに自分の職(会社だけでなく、職種も)を決めることと、35歳までに人材価値を確立することを意識して、自分の戦略を持とう。詳しいことは、『週刊ダイヤモンド』で“転職特集”でもあればお話ししようと思う。

転職による人材の有効活用は、今後ますます拡大していくことだろう。

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