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第15部 百年の森林〜岡山県西粟倉村から<1>森は未来への財産

(2012年6月14日 読売新聞)

地方が抱える様々な課題に向き合うため、各地を訪ねて2年余り。地域版共通企画「地方を生きる」は今回の第15部で最終シリーズとなる。取り上げるのは、「百年の森林構想」を掲げて村の自立を目指す岡山県西粟倉村だ。日本の山村のどこもが悩む荒廃に歯止めをかけようと、再生に立ち上がる人たちの姿を追う。

 「私たちが目指す50年後の姿を見せてあげましょう」

村役場から車で10分。前村長で地元森林組合長の道上正寿さん(62)は山道を駆け上がった。

樹齢150年を超えるスギの巨木が並ぶ。幹の周囲は3メートル以上、高さ30メートルはあろうか。

 「こんな山を育てたい。そう思って、みんな50年前に木を植えたのに……。村中がここみたいになれば、子や孫も村に残って世話したいと思うはずです」


岡山県の北東端、鳥取・兵庫両県に接する西粟倉村は面積の95%を山林が占める。人口1573人。国が造林を奨励し、村中こぞって植林をした50年前より1000人以上減った。

道上さんが案内したようなスギ林はごく一部という。村の森の85%は植林だが、所有者はほとんど手入れをしない。木材価格が落ち込み、手間をかけても赤字になるだけだからだ。

間伐されていない森は薄暗く下草も生えない。木は大きく育たず、商品価値はない。森が荒れる悪循環になっている。

道上さんが村長時代の2009年、村が始めた「百年の森林構想」は、全国でも先進的な放置林対策だった。

所有者に代わって村が森を10年間一括管理し、村から委託を受けた森林組合が一気に間伐を進める。それと同時に、村が民間企業と設立した第3セクター「西粟倉・森の学校」が間伐材を家具などの木工品に加工して都市部に向け販売する。所有者には、販売収入が収益分配金として還元される仕組みだ。

「百年」と名付けた真意は何か。森を半世紀後の子孫に引き渡す目標がある。人工林が育った50年に今後の50年を加えて、「百年の森林」というわけだ。

現在、村が一括管理の契約を結んだ所有者は全体の3割の402人。管理する森林も事業対象の約3割の824ヘクタールだけだ。

道上さんには、この事業をやりとげなければ、という強い思いがある。

実は、構想を打ち出すきっかけは、やはり村長時代の04年、周辺の6町村と進めていた「平成の大合併」での村の選択にさかのぼる。合併か否か。村を二分した論議の末、村のまま残る道を選んだ。

これといった産業がない中、村が合併に頼らずに生き残るには何をすべきか。それまで廃れていた森林を財産として活用するよう目を向けたのだった。

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 第15部は岡山支局・楢崎基弘、写真部・原田拓未が担当します。

<日本の林業> 日本の森林面積は国土の66%(世界平均は31%)を占めており、世界有数の森林大国。しかし、1964年に木材の輸入が全面自由化されると、かつて9割を超えていた木材自給率は現在26%に低下した。65年に26万人を数えた林業就業者は、2005年には4万6000人になっている。

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