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「見放さない」本気で叱る

帰る家のない子受け入れ

「ここは、あんたの最後の居場所なんよ。そんなんで、社会に出られると思っとるん」。広島市内の民家で昨夏、清水理恵さん(36)は1人の少女に厳しい表情で向き合った。

清水家で暮らす少女は、支援者の前で初めて虐待経験を語った。清水さんは「その痛みをこれからの人生で力に変えて」と願う(広島市内で)

少女が民家に来て2か月で、10回の万引きが発覚。「もうしません」と謝ってもすぐ、同じ事を繰り返す少女に、清水さんは容赦なかった。

清水さんが代表を務めるNPO法人「イーハート」が運営する女性専用の自立援助ホーム「清水家」。これまで、児童養護施設などを出ても、親の虐待で帰る家のない10人の受け皿になってきた。

万引きをやめなかった少女だけではない。髪を染めたり、入れ墨を入れたりと、何人かは、いくら注意しても身勝手な振る舞いを繰り返す。ホームの必要性がわからなくなり、何度も「やめよう」と考えた。

それでも続けるのは、かつての自分のように、うまく生きられず、「自分を変えたい」ともがく子どもたちを1人でも自立させたいと思うからだ。



清水さんは、6歳の頃から、アルコール依存症の継父に訳もなく殴られた。小学校に入ると、実母から、居場所もわからない実父の所に、「帰れ」と繰り返し言われた。「お前なんかいらん」と言われているようで、存在価値を見失い、何度も自殺を図った。

中3の時、いつも味方をしてくれた兄が事故死し、ショックで、夜は仲間と出歩き、シンナーを吸い、誘われるまま覚醒剤にまで手を出した。家では親から疎まれ、学校では誰からも敬遠された。孤独はさらに非行に走らせた。

高1の夏、数日前にあった職員会議の様子を、副担任の女性教諭に学校の廊下で教えられた。

素行が問題になり、担任の男性教諭を除く、全員一致で退学処分になりそうになった時、担任が「責任を持って更生させますから、処分は待ってほしい」と泣いて訴えたという。

担任はいつも、「悪いことをしているのはお前自身。悪いのは全部お前。お兄ちゃんの死や、育った環境のせいにするな」と本気で叱ってくれた。自分のために頭を下げる姿が浮かび、その場で泣き崩れた。

「ちゃんと見てくれとる人を裏切っちゃいけん」。それから、夜遊びもシンナーも覚醒剤も、全部やめた。仲間とも距離を置き、反抗していた両親とも徐々に関係を築けるようになった。

清水さんは過去を振り返り、思う。「清水家に来る少女たちを決して見放さず、向き合っていきたい」



清水家では今、16〜19歳の4人が、アルバイトをしながら共同生活を送る。

暮らし始めて5か月になる少女(16)は、3歳で母親が再婚し、継父に毎日のように殴られた。

かばってくれる母親が心の支えだったが、昨年5月、車を運転中に事故死した。母親のいない生活は生きる気力を失わせた。家出をし、「死にたい」と考えながら公園のベンチで眠る生活。1か月後、児童相談所に保護された。

アルバイトから帰ると、その日あったことを話す。みんなで一緒にご飯を食べ、テレビを見て笑い、一つ屋根の下で眠る。そんな当たり前の日常を重ねるうち、前向きに生きる気持ちになった。

「母の死はつらかったけど、だから、ここでみんなと出会えた。初めて将来の目標を持てた」。少女は、家出や虐待で苦しむ子どもたちを支えるホームを作りたいと思っている。

「親に頼れない以上、過去を言い訳にせず、自分が強くなるしかない」。清水さんの思いは確かに、少女たちに伝わっている。



自立援助ホーム 義務教育を終えた子どもたちが、働きながら共同で暮らし、自立を目指す。1950年代後半に民間で始まり、98年の児童福祉法改正で「児童自立生活援助事業」として位置付けられた。現在、全国82か所に310人が暮らす。厚生労働省は2014年度までに倍増させる考えだ。

(2012年3月5日 読売新聞)

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痛みをしっているから救えることができる。
だができるならそんな痛みを知る事のない世の中、仕組みがあればいい。
ただ、誰も与えたくて痛みを与えている、なんて思っていないだろうけど。